冬の曲者 前夜談
昨日、俺が座長を務めた秋組の旗揚げ公演が千秋楽を迎えた。
最初俺は正直リーダーの自覚どころか、ただアイツ…兵頭に勝ちてえ、それだけしかなかった。けど、メンバーがそれぞれのポートレイトを打ち明けあって。最初は噛み合わねえことも多かったが、公演中のトラブルも団結して乗り越えた。
そして迎えた、千秋楽。春組、夏組とはまた違う、秋組だけの満開を舞台の上で見せることができた。
俺に、やっとアツくなれるものが見つかった。
まあ、そんな余韻に浸る間なんてなく、千秋楽を終えた舞台裏ですぐ至さんにスマホを渡された。そっからは至さんの部屋でたるちとNEOになる時間。公演が終わってからというもの、しょっちゅう入り浸ってはゲーム三昧だった。
もちろん秋組として稽古は続けてた。けど、稽古でアイツと…兵頭と顔を合わせると時々無性にイラつく。
…アイツだけには勝てねえ。俺の思い通りにならねえ。
そんな苛立ちが日ごとにつのり、同じ部屋で過ごす時間を極力減らしたかった。だから至さんの部屋でゲーム、ってのは都合がよかった。
…いや、本当は苛立ちなんかじゃねえのかもしれねえ。千秋楽を終えた瞬間の、今までの人生で感じたことのねえ興奮、高揚感の中、舞台袖でアイツとハイタッチした時の気持ち。
思えば初対面でケンカをふっかけて負けた時もそうだ。アイツだけが、俺を今まで経験したことがねえ感情にさせる。
「万里。俺、明日から一週間出張なんだよね。イベ中じゃないからまだマシだけど、マジだる」
「…マジっすか」
一週間。
俺はアイツと同じ部屋で過ごす時間が増える。正直気が重かった。ケンカなんてしようものなら、またあのクソ左京が何すっかわかんねえ。手錠で繋がれた時なんか最悪だった。
それだけじゃねえ。アイツと顔を合わせるたびに感じる、あのモヤモヤした気持ちと向き合うことになる。
「…摂津、いたのか」
「あ?…んだよ、俺の部屋だろ」
至さんが出張に行った初日。
学校から帰って部屋にいると、すぐに兵頭も帰ってきた。
「…至さんの部屋は行かねえのか」
「てめぇには関係ねえだろ」
アイツは少し何か迷っているような、困っているような、微妙な表情で突っ立ってたが、黙ったまま俺に背を向けてテーブルの前に座ると、手に持っていた袋から箱を取り出した。
「…いただきます」
アイツは小さく呟いて、ケーキを食いだした。
兵頭がケーキ?似合わねえ。笑える。そういや亀吉まんじゅうも無言で食ってたっけ。臣さんが差し入れにくれるスコーンにもありえねえ量のクリームが乗ってるやつがあったが…こいつのだったのか?
「兵頭、お前もしかしてバカ舌っつーか、ただの甘党?」
「あ?…お前も食いてえのか」
「ちげーよ。一人で食ってろっつーの」
アイツの意外な一面。…つーか、そんなこと、どうでもいいだろ。どうでも、いいはずだろ。
晩飯の後、談話室では監督ちゃんと左京さんが冬組の団員募集について話し合っていた。
仕方ねえから風呂に入って早々に部屋に戻った。アイツはもう寝る支度を済ませてベッドで雑誌を読んでた。俺に気づくとハッとした顔でその雑誌を枕元に隠した。
「なあ、何読んでたんだよ」
「…うるせえ、テメェには関係ねえだろ」
「もしかして、俺には見せらんねーヤツ?」
「…っ、おい摂津…!」
マジかよ。兵頭も女に興味とかあんだな。硬派ぶってるくせに。面白れえ。
「なあ、兵頭。お前好きな女とかいんの?」
「あ?テメェ何だ急に」
「いんのかいねえのか聞いてんだよ」
「…別に、興味ねえ」
また、見たことのない表情。今まで知らなかったアイツのことを知るたびに妙な感情が湧き上がる。…弱みを握りてえのか?モヤモヤした気持ちのまま、眠りについた。
至さんが帰ってくるまであと3日。
今日から冬組の団員たちが入寮してきた。何とか揃ったみてえだ。またアイツと芝居ができる。そう思うとアツい気持ちが蘇ってきた。
晩飯の時に冬組メンバーとは一通り挨拶を済ませたが、夜に東さんが部屋に訪ねてきた。
ちょうど兵頭と些細なことで言い争ってた時だった。
「ふふっ、二人は仲良しだね。ジャマしちゃったかな?」
仲良し…だと?ふざけんな。
「今日の秋組の稽古はハードなアクションだったってカントクさんから聞いたから、二人も疲れてるんじゃないかって思って」
確かに今日の稽古はハードで、体は疲れきっていた。兵頭も同じようで、早くにベッドで横になっていた。
「ボク、仕事で添い寝屋をやってたから、マッサージが得意なんだよね。お近づきのしるしに、どうかなって。疲れもとれるよ」
答えかねていると兵頭が先に答えた。
「じゃあお願いするっす」
「わかったよ。そのままそこでうつぶせになって」
東さんは兵頭が寝てるベッドに乗り、マッサージを始めた。とりあえず俺はゲームしてたけど、気が散る。アイツ…。
「うっ…はあっ、あ…っ」
「どう?気持ちいい?」
「…っす」
聞いたことのねえ妙な声を出しやがる。チラッと様子を伺うと、またアイツは見たことねえ顔をしてやがった。
「…っ、あっ東さん…んっ、それ…ダメっす」
「ん?ああ、ごめん。首のあたり、痛かった?」
「…それは気持ちいいっすけど、耳に息がかかってなんかヘンな…」
「ふふっ、十座は可愛いね。気をつけるよ」
「…あざっす」
気づいたらアイツから目が離せなくなっていた。俺に聞かせたことのねえ声、見せたことのねえ顔。東さんに嫉妬した。嫉妬…?
「はい、おしまい」
「あざっした」
「じゃあ次は万里。ボクはハシゴ登るのとか苦手だから、悪いけど少しの間十座は万里と場所を代わってくれるかな」
「うっす」
兵頭は軽く体をほぐすと、何の迷いもなくハシゴを登って俺のベッドに横たわった。俺のベッドにアイツが寝てる。不思議な興奮を覚えた。
「万里、どうしたの?」
「東さん、マジでやるんすか…」
「無理にとは言わないけど、万里は何か嫌なの?」
「そーゆーわけじゃないっすけど」
「じゃ、そこに横になって」
いつもアイツが寝てるベッド。…だから何だ。よゆーよゆー。頭の中で呟いた。
「へーへー。こうっすか」
ベッドにうつぶせになった。
…これがアイツの温もり。…アイツの匂い。
なぜか胸が高鳴った。
「じゃ、始めるね」
「……っ。…くっ……」
何だこれ。
「…あっ…ああ…っ…はあ」
堪えても声が漏れる。兵頭の温もりと匂いに包まれて…余裕なんてとっくにねえ。
「うあっ…あっ…あっ…はあっ」
「…摂津テメェ、変な声出してんじゃねえ」
「どう?万里、気持ちいい?」
「あっ…あずまさっ…んんっ…はっ…はあっ…あああっ」
「ふふっ、万里も可愛い。はい、おしまい」
息が乱れて何も言えねえ。
「強くしすぎたかな?眠れそうにないなら、添い寝してあげるよ」
「はあ…っ、よゆー…っす」
「ふふっ、これからよろしく。じゃあ二人とも、仲良くね」
東さんはそう言って部屋から出ていった。
「おい摂津、早くベッド開けろ」
「わーってるよ」
答えたはいいものの体に力が入らねえ。
「テメェ早くしろっつってんだろ」
兵頭がハシゴを降りて俺に近づいてくる。覆いかぶさるようにして枕元に手を伸ばす。顔が近い。気づくとアイツの耳に手を伸ばしていた。撫でるように触ると、アイツは一気に顔を赤らめた。
「テメェっ、何しやがる…っ」
「ここが気持ちいーんだろ?」
「気持ちっよくなんかっ…あっ」
もう一方の手をアイツの後頭部に回して引き寄せ、耳を甘く噛んだ。
そっからはもう止められなかった。
俺しか見たことのねえ顔、聞いたことのねえ声、もっと知りてえ。今夜の兵頭は俺だけのものだ……
最初俺は正直リーダーの自覚どころか、ただアイツ…兵頭に勝ちてえ、それだけしかなかった。けど、メンバーがそれぞれのポートレイトを打ち明けあって。最初は噛み合わねえことも多かったが、公演中のトラブルも団結して乗り越えた。
そして迎えた、千秋楽。春組、夏組とはまた違う、秋組だけの満開を舞台の上で見せることができた。
俺に、やっとアツくなれるものが見つかった。
まあ、そんな余韻に浸る間なんてなく、千秋楽を終えた舞台裏ですぐ至さんにスマホを渡された。そっからは至さんの部屋でたるちとNEOになる時間。公演が終わってからというもの、しょっちゅう入り浸ってはゲーム三昧だった。
もちろん秋組として稽古は続けてた。けど、稽古でアイツと…兵頭と顔を合わせると時々無性にイラつく。
…アイツだけには勝てねえ。俺の思い通りにならねえ。
そんな苛立ちが日ごとにつのり、同じ部屋で過ごす時間を極力減らしたかった。だから至さんの部屋でゲーム、ってのは都合がよかった。
…いや、本当は苛立ちなんかじゃねえのかもしれねえ。千秋楽を終えた瞬間の、今までの人生で感じたことのねえ興奮、高揚感の中、舞台袖でアイツとハイタッチした時の気持ち。
思えば初対面でケンカをふっかけて負けた時もそうだ。アイツだけが、俺を今まで経験したことがねえ感情にさせる。
「万里。俺、明日から一週間出張なんだよね。イベ中じゃないからまだマシだけど、マジだる」
「…マジっすか」
一週間。
俺はアイツと同じ部屋で過ごす時間が増える。正直気が重かった。ケンカなんてしようものなら、またあのクソ左京が何すっかわかんねえ。手錠で繋がれた時なんか最悪だった。
それだけじゃねえ。アイツと顔を合わせるたびに感じる、あのモヤモヤした気持ちと向き合うことになる。
「…摂津、いたのか」
「あ?…んだよ、俺の部屋だろ」
至さんが出張に行った初日。
学校から帰って部屋にいると、すぐに兵頭も帰ってきた。
「…至さんの部屋は行かねえのか」
「てめぇには関係ねえだろ」
アイツは少し何か迷っているような、困っているような、微妙な表情で突っ立ってたが、黙ったまま俺に背を向けてテーブルの前に座ると、手に持っていた袋から箱を取り出した。
「…いただきます」
アイツは小さく呟いて、ケーキを食いだした。
兵頭がケーキ?似合わねえ。笑える。そういや亀吉まんじゅうも無言で食ってたっけ。臣さんが差し入れにくれるスコーンにもありえねえ量のクリームが乗ってるやつがあったが…こいつのだったのか?
「兵頭、お前もしかしてバカ舌っつーか、ただの甘党?」
「あ?…お前も食いてえのか」
「ちげーよ。一人で食ってろっつーの」
アイツの意外な一面。…つーか、そんなこと、どうでもいいだろ。どうでも、いいはずだろ。
晩飯の後、談話室では監督ちゃんと左京さんが冬組の団員募集について話し合っていた。
仕方ねえから風呂に入って早々に部屋に戻った。アイツはもう寝る支度を済ませてベッドで雑誌を読んでた。俺に気づくとハッとした顔でその雑誌を枕元に隠した。
「なあ、何読んでたんだよ」
「…うるせえ、テメェには関係ねえだろ」
「もしかして、俺には見せらんねーヤツ?」
「…っ、おい摂津…!」
マジかよ。兵頭も女に興味とかあんだな。硬派ぶってるくせに。面白れえ。
「なあ、兵頭。お前好きな女とかいんの?」
「あ?テメェ何だ急に」
「いんのかいねえのか聞いてんだよ」
「…別に、興味ねえ」
また、見たことのない表情。今まで知らなかったアイツのことを知るたびに妙な感情が湧き上がる。…弱みを握りてえのか?モヤモヤした気持ちのまま、眠りについた。
至さんが帰ってくるまであと3日。
今日から冬組の団員たちが入寮してきた。何とか揃ったみてえだ。またアイツと芝居ができる。そう思うとアツい気持ちが蘇ってきた。
晩飯の時に冬組メンバーとは一通り挨拶を済ませたが、夜に東さんが部屋に訪ねてきた。
ちょうど兵頭と些細なことで言い争ってた時だった。
「ふふっ、二人は仲良しだね。ジャマしちゃったかな?」
仲良し…だと?ふざけんな。
「今日の秋組の稽古はハードなアクションだったってカントクさんから聞いたから、二人も疲れてるんじゃないかって思って」
確かに今日の稽古はハードで、体は疲れきっていた。兵頭も同じようで、早くにベッドで横になっていた。
「ボク、仕事で添い寝屋をやってたから、マッサージが得意なんだよね。お近づきのしるしに、どうかなって。疲れもとれるよ」
答えかねていると兵頭が先に答えた。
「じゃあお願いするっす」
「わかったよ。そのままそこでうつぶせになって」
東さんは兵頭が寝てるベッドに乗り、マッサージを始めた。とりあえず俺はゲームしてたけど、気が散る。アイツ…。
「うっ…はあっ、あ…っ」
「どう?気持ちいい?」
「…っす」
聞いたことのねえ妙な声を出しやがる。チラッと様子を伺うと、またアイツは見たことねえ顔をしてやがった。
「…っ、あっ東さん…んっ、それ…ダメっす」
「ん?ああ、ごめん。首のあたり、痛かった?」
「…それは気持ちいいっすけど、耳に息がかかってなんかヘンな…」
「ふふっ、十座は可愛いね。気をつけるよ」
「…あざっす」
気づいたらアイツから目が離せなくなっていた。俺に聞かせたことのねえ声、見せたことのねえ顔。東さんに嫉妬した。嫉妬…?
「はい、おしまい」
「あざっした」
「じゃあ次は万里。ボクはハシゴ登るのとか苦手だから、悪いけど少しの間十座は万里と場所を代わってくれるかな」
「うっす」
兵頭は軽く体をほぐすと、何の迷いもなくハシゴを登って俺のベッドに横たわった。俺のベッドにアイツが寝てる。不思議な興奮を覚えた。
「万里、どうしたの?」
「東さん、マジでやるんすか…」
「無理にとは言わないけど、万里は何か嫌なの?」
「そーゆーわけじゃないっすけど」
「じゃ、そこに横になって」
いつもアイツが寝てるベッド。…だから何だ。よゆーよゆー。頭の中で呟いた。
「へーへー。こうっすか」
ベッドにうつぶせになった。
…これがアイツの温もり。…アイツの匂い。
なぜか胸が高鳴った。
「じゃ、始めるね」
「……っ。…くっ……」
何だこれ。
「…あっ…ああ…っ…はあ」
堪えても声が漏れる。兵頭の温もりと匂いに包まれて…余裕なんてとっくにねえ。
「うあっ…あっ…あっ…はあっ」
「…摂津テメェ、変な声出してんじゃねえ」
「どう?万里、気持ちいい?」
「あっ…あずまさっ…んんっ…はっ…はあっ…あああっ」
「ふふっ、万里も可愛い。はい、おしまい」
息が乱れて何も言えねえ。
「強くしすぎたかな?眠れそうにないなら、添い寝してあげるよ」
「はあ…っ、よゆー…っす」
「ふふっ、これからよろしく。じゃあ二人とも、仲良くね」
東さんはそう言って部屋から出ていった。
「おい摂津、早くベッド開けろ」
「わーってるよ」
答えたはいいものの体に力が入らねえ。
「テメェ早くしろっつってんだろ」
兵頭がハシゴを降りて俺に近づいてくる。覆いかぶさるようにして枕元に手を伸ばす。顔が近い。気づくとアイツの耳に手を伸ばしていた。撫でるように触ると、アイツは一気に顔を赤らめた。
「テメェっ、何しやがる…っ」
「ここが気持ちいーんだろ?」
「気持ちっよくなんかっ…あっ」
もう一方の手をアイツの後頭部に回して引き寄せ、耳を甘く噛んだ。
そっからはもう止められなかった。
俺しか見たことのねえ顔、聞いたことのねえ声、もっと知りてえ。今夜の兵頭は俺だけのものだ……
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