カズナリミヨシの受難
「オレとしては、そろそろ男としても見てもらいたいんだけど?…なーんてね」
「もう、一成くん、オトナをからかわないの」
…ある夜、勇気を出してカントクちゃんに言ったオレのセリフは予想通りかわされた。
ルムメのむっくんも寝る時間だし…と、明日締切のレポートを仕上げるため談話室に来てみると、珍しく誰もいなかった。しばらくオレはレポートに集中していて、やっと完成した頃には深夜に差し掛かっていた。
そろそろ寝ようかと周りを片付け始めたとき、バタン、という玄関ドアの音に続いて、不規則な足音が近づいてきた。…談話室の扉を開いたのはカントクちゃんだった。
「ただいまー。一成くん、それ大学のレポート?遅くまでお疲れさま」
「カントクちゃんもおつピコ!なになに〜?もしかしてちょっと酔っ払ってる〜?」
「うん。お手伝いしてた劇団の飲み会でちょっと盛り上がっちゃって」
とりあえずいつもの調子で話せたけど。カントクちゃんと二人きり。意識し始めると途端に緊張してきた。
「てかてか、カントクちゃんが酔ってるのって何気レアじゃね?」
もちろん、本当に言いたいことはこんなことじゃない。
「あはは、そうかも。うーん、寝る前にちょっとだけここで休もうかな」
そう言ってカントクちゃんはオレの隣に座った。いつもより、心なしか距離が近い。自分の鼓動が聞こえる。
「一成くんはまだ寝ないの?」
「うーん、せっかくだからもうちょい起きてよっかなー。ほろ酔いのカントクちゃん、可愛いし」
「もう、一成くん」
カントクちゃんはそう言っていつも通り苦笑してから、ふう、と一息ついてソファにもたれた。距離、近いな、と思った瞬間、カントクちゃんがぐらっとバランスを崩して、オレに寄りかかる形になった。
「うわ!カントクちゃん!?」
「あれ?ごめん、思ったより酔ってるのかも…
」
「マジで大丈夫?水とか、いる?」
「ううーん…うん…眠い…一成くん…」
カントクちゃんの口調は段々とあやふやになって、そのままうとうと眠り始めてしまった。オレにもたれかかったまま。その無防備な頬に、髪に、触れたい。劇団員として許されない、恋心。こんな気持ちをカントクちゃんに抱き始めたのはいつからだっただろう。
中学時代はガリ勉で友だちもいなかった。高校デビューしてからは必死に友だちを作った。最初こそ慣れなかったけど、徐々に賑やかになっていく学校生活はそれなりに心地よかった。大学に入ってからも、オレの周りはいつも賑やかで。それに、今は夏組のみんなが、カンパニーのみんなが何より大切な友だちで、仲間だ。…それで十分満足なはずだった。
大学に入ってからというもの、オレみたいなキャラはよく合コンに誘われる。女の子にはチャラいって思われちゃって、結局盛り上げ役だけど。…そうだ、あの日。どうしても人数が足りなくて、カントクちゃんに来てもらった日。他の男からやたらスキンシップを受けてるカントクちゃんを見て、嫉妬、みたいな感情が湧いた。その時だ。はっきり、カントクちゃんが好きだって気付かされたのは。本当はもっと前から好きだった。けど、気づかないフリをしてた。
なんとか二人で合コンから抜け出した、帰り道。本当はすぐにでも好きだって伝えたかった。少しほのめかしてみたけど、いつもの調子、オレの冗談って感じで終わった。
そんなことを思い返していたら、時計はだいぶ進んでいた。
「ふあぁ…あ…って、一成くん!?」
カントクちゃんが起きた。ずっとこの温もりを感じられたらって、そんな時間はあっという間だ。
「ごめん!なんだか寝心地よくって、つい…」
…オレはカントクちゃんの隣じゃ、そんなにぐっすり眠れそうもない。わかってはいるけど、そんな気持ちの温度差に少し苛立った。
「全然いいって!…たださ」
今度こそ。
「オレとしては、そろそろ男としても見てもらいたいんだけど?…なーんてね」
ダメだ。また冗談めかしてしまう…。
あの夜は、なかなか眠れなかった。
劇団復活から二度目の春。
オレは無事に大学3年になり、意外なことにセッツァーが天美の後輩になった。
講義時間が被る時は一緒に通学したり。自然と話す時間が増えた。流行ってるゲームアプリを教えてもらったり、セッツァーとの会話は結構盛り上がって、楽しかった。
ある日、たまたま大学からの帰り道にセッツァーと会って、何気なく会話してた。ふとオレはセッティングを頼まれてた合コンのことを思い出して、セッツァーを誘ってみた。
「あー。悪ぃけど、パス。俺そういうの出なくてもよゆーでモテっし」
そう言ってニカっと笑ったセッツァーに、さすが、と言おうとしたとき。
「てか、一成。いつまで合コンとか行ってんの?」
「え…?」
「好きなんじゃねーの、監督ちゃんのこと」
咄嗟に言葉が出なかった。
「マジかよ。けっこーガチ?」
「はは、セッツァー…オレ…は」
「ヘーキヘーキ、秘密にしとっから」
それから、セッツァーだけには知られてる。オレがカントクちゃんに本気だってこと。時々相談にも乗ってくれたし、オレの冗談みたいなモテテクじゃなくて、マジのやつ、教えてくれたりした。もちろん面白がられてるのもあるだろうけど、信頼してた、セッツァーのこと。
7月の終わり、少し早めに夏休みに入ってすぐだった。
遅めに起きてぼんやりとした頭で談話室に向かう途中、誰かの部屋からこっそり顔を覗かせて周りを窺うカントクちゃんがいた。なんだか咄嗟にオレも身を隠して廊下の角からカントクちゃんを見てた。そしたら、カントクちゃんと…セッツァーが部屋から出てきた。頭が真っ白になった。オレは部屋に戻って、それからのことはあまり覚えてない。
寮でセッツァーに会うたび気まずくて、何となく避ける日が続いた。セッツァーも夏休みに入ってから毎晩いたるんの部屋にこもってゲームしてることが多かったから、都合がよかった。
カントクちゃんにも、普段通り接するように頑張った。
でも、また見てしまった。
朝、セッツァーとカントクちゃんがバレないように二人で廊下を歩いてるとこ。
オレはもう耐えられなかった。しばらくの間、風邪ってことにしてなるべく部屋で過ごしてた。
ノックの音。むっくんは今日は出かけてる。
「…一成」
セッツァーの声だった。
「部屋にいんだろ?…最近どうしたよ」
顔を合わせたくなかった。そしてどうしようもなく情けなかった。オレは結局カントクちゃんに何もできないままだった。それが悪かったんだ。
「開けるぞ」
セッツァーは容赦なく部屋に入ってきた。
背を向けてたオレを無理やり向かい合わせて、心配そうにオレの顔を見た。
「一成、お前最近俺のこと避けてね?どーしたよ?」
「ちょっ、なになに〜?き、気のせいだって」
「まー、俺にも思い当たるフシはあるっつーか、監督ちゃんのことっしょ?」
「えっ…はは、やっぱりセッツァーには敵わないっつーか」
オレの言葉を聞いてセッツァーは笑顔を見せた。胸がズキっと痛んだ。
「どーせそんなこったろうと思ったけど。一成、見たんだろ。俺と監督ちゃんが朝二人でいるとこ」
「オレは…オレはカントクちゃんとセッツァーが幸せなら…それで全然オッケーだから!」
精一杯笑顔みたいな顔をした。
「おいおい、マジかよ」
ぷはっとセッツァーが吹き出した。で、直後、やけに神妙な顔をして言った。
「俺と監督ちゃんがヤッてるとか思ってんだろ?それでもオッケーなのかよ」
「や、ヤッてるとか、そういうんじゃ…!」
…でも朝に部屋から二人で出てきたってことは、そういうこと、だよな。
セッツァーはにやけを堪えられないって感じで話し続ける。
「ここんとこ毎晩ヤッてる。んで、時々朝になっちまうんだよなー。監督ちゃんから部屋に来っから、断れねーし」
カントクちゃんが……
カントクちゃんがセッツァーのことを好きなら、それで、いいのかもしれない。
「俺は3人でヤる方が新鮮で楽しーんだけど」
「至さんがあんま付き合ってくんねーから、やっぱ監督ちゃんと二人が多いけど」
3人?いたるん?…理解が追いつかない。
カントクちゃんは本当にそんなこと…
つい想像して吐き気がしてきた。
「まー至さんは基本…っておい、一成?聞いてっか?」
気づいたら泣いていた。涙がこぼれて、止まらなかった。
「あー、やりすぎたか…ごめん、一成」
「……今は何言っても仕方ねーか」
気付いたら、夕方。
今度はいたるんが来た。正直会いたくなかったけど、ドアを開けた。
「万里が珍しく反省してたよ。俺でよければ話聞かせてくれない?今夜12時くらいに部屋に来てくれないかな。それから、絶対ノックはしないで開けて」
いたるんが部屋に来いなんて珍しい。断る隙を与えられなかったオレに選択肢はなかった。いたるんとまで険悪になって、カンパニーの雰囲気を悪くしたくないし。ノックをしないでって…夜遅いせいか、ゲーム配信でもしてるのか、わからないけどそんなことどうでもよかった。
12時。あっという間に来た。
しぶしぶいたるんの部屋に向かった。一瞬躊躇ったけど、覚悟を決めて一気にドアを開けた。
思いがけない光景が待っていた。
「か、一成!?」
固まるセッツァー。
隣にはにこにこしているいたるん。
そして…カントクちゃんがいたるんの膝で寝ていた。
「一成、こういうことだから」
いたるんがオフの顔で微笑んでいる。
「一成、昼は悪かった。俺、ふざけすぎたわ」
セッツァーは気まずそうに言った。
でもオレは正直それどころじゃなかった。
寝ているカントクちゃんの手に握られてるのは…コントローラー?
液晶画面に映っているのは…これは…オレでも知ってる、スプラティーンだ。
「…ははっ、セッツァー、オレ…もし…かして」
「だーかーら、ごめんって。俺は一成の気持ちも、監督ちゃんの気持ちも知ってっから、つい」
オレの勘違いかよ。涙が出るくらい笑った。つられていたるんもセッツァーも笑った。
オレたちの笑い声でカントクちゃんが起きた。
「…あれ?一成くん…?あっこれは…」
慌てるカントクちゃんの言葉をセッツァーは遮って。
「一成の誕生日、監督ちゃん一日空けてるってよ。絶対言うなって言われたけど」
急に赤面するカントクちゃんにいたるんが声をかける。
「観念して素直になりなよ、監督さん。…一成も。二人きりで、一番楽しい誕生日にしておいで」
オレの誕生日…覚えててくれたんだ。
いつも冗談めかしてずっとはっきり言えなかったオレの気持ち。カントクちゃんに今度こそ、伝えなきゃ。…待たせてごめんって。本気で好きだって。
「もう、一成くん、オトナをからかわないの」
…ある夜、勇気を出してカントクちゃんに言ったオレのセリフは予想通りかわされた。
ルムメのむっくんも寝る時間だし…と、明日締切のレポートを仕上げるため談話室に来てみると、珍しく誰もいなかった。しばらくオレはレポートに集中していて、やっと完成した頃には深夜に差し掛かっていた。
そろそろ寝ようかと周りを片付け始めたとき、バタン、という玄関ドアの音に続いて、不規則な足音が近づいてきた。…談話室の扉を開いたのはカントクちゃんだった。
「ただいまー。一成くん、それ大学のレポート?遅くまでお疲れさま」
「カントクちゃんもおつピコ!なになに〜?もしかしてちょっと酔っ払ってる〜?」
「うん。お手伝いしてた劇団の飲み会でちょっと盛り上がっちゃって」
とりあえずいつもの調子で話せたけど。カントクちゃんと二人きり。意識し始めると途端に緊張してきた。
「てかてか、カントクちゃんが酔ってるのって何気レアじゃね?」
もちろん、本当に言いたいことはこんなことじゃない。
「あはは、そうかも。うーん、寝る前にちょっとだけここで休もうかな」
そう言ってカントクちゃんはオレの隣に座った。いつもより、心なしか距離が近い。自分の鼓動が聞こえる。
「一成くんはまだ寝ないの?」
「うーん、せっかくだからもうちょい起きてよっかなー。ほろ酔いのカントクちゃん、可愛いし」
「もう、一成くん」
カントクちゃんはそう言っていつも通り苦笑してから、ふう、と一息ついてソファにもたれた。距離、近いな、と思った瞬間、カントクちゃんがぐらっとバランスを崩して、オレに寄りかかる形になった。
「うわ!カントクちゃん!?」
「あれ?ごめん、思ったより酔ってるのかも…
」
「マジで大丈夫?水とか、いる?」
「ううーん…うん…眠い…一成くん…」
カントクちゃんの口調は段々とあやふやになって、そのままうとうと眠り始めてしまった。オレにもたれかかったまま。その無防備な頬に、髪に、触れたい。劇団員として許されない、恋心。こんな気持ちをカントクちゃんに抱き始めたのはいつからだっただろう。
中学時代はガリ勉で友だちもいなかった。高校デビューしてからは必死に友だちを作った。最初こそ慣れなかったけど、徐々に賑やかになっていく学校生活はそれなりに心地よかった。大学に入ってからも、オレの周りはいつも賑やかで。それに、今は夏組のみんなが、カンパニーのみんなが何より大切な友だちで、仲間だ。…それで十分満足なはずだった。
大学に入ってからというもの、オレみたいなキャラはよく合コンに誘われる。女の子にはチャラいって思われちゃって、結局盛り上げ役だけど。…そうだ、あの日。どうしても人数が足りなくて、カントクちゃんに来てもらった日。他の男からやたらスキンシップを受けてるカントクちゃんを見て、嫉妬、みたいな感情が湧いた。その時だ。はっきり、カントクちゃんが好きだって気付かされたのは。本当はもっと前から好きだった。けど、気づかないフリをしてた。
なんとか二人で合コンから抜け出した、帰り道。本当はすぐにでも好きだって伝えたかった。少しほのめかしてみたけど、いつもの調子、オレの冗談って感じで終わった。
そんなことを思い返していたら、時計はだいぶ進んでいた。
「ふあぁ…あ…って、一成くん!?」
カントクちゃんが起きた。ずっとこの温もりを感じられたらって、そんな時間はあっという間だ。
「ごめん!なんだか寝心地よくって、つい…」
…オレはカントクちゃんの隣じゃ、そんなにぐっすり眠れそうもない。わかってはいるけど、そんな気持ちの温度差に少し苛立った。
「全然いいって!…たださ」
今度こそ。
「オレとしては、そろそろ男としても見てもらいたいんだけど?…なーんてね」
ダメだ。また冗談めかしてしまう…。
あの夜は、なかなか眠れなかった。
劇団復活から二度目の春。
オレは無事に大学3年になり、意外なことにセッツァーが天美の後輩になった。
講義時間が被る時は一緒に通学したり。自然と話す時間が増えた。流行ってるゲームアプリを教えてもらったり、セッツァーとの会話は結構盛り上がって、楽しかった。
ある日、たまたま大学からの帰り道にセッツァーと会って、何気なく会話してた。ふとオレはセッティングを頼まれてた合コンのことを思い出して、セッツァーを誘ってみた。
「あー。悪ぃけど、パス。俺そういうの出なくてもよゆーでモテっし」
そう言ってニカっと笑ったセッツァーに、さすが、と言おうとしたとき。
「てか、一成。いつまで合コンとか行ってんの?」
「え…?」
「好きなんじゃねーの、監督ちゃんのこと」
咄嗟に言葉が出なかった。
「マジかよ。けっこーガチ?」
「はは、セッツァー…オレ…は」
「ヘーキヘーキ、秘密にしとっから」
それから、セッツァーだけには知られてる。オレがカントクちゃんに本気だってこと。時々相談にも乗ってくれたし、オレの冗談みたいなモテテクじゃなくて、マジのやつ、教えてくれたりした。もちろん面白がられてるのもあるだろうけど、信頼してた、セッツァーのこと。
7月の終わり、少し早めに夏休みに入ってすぐだった。
遅めに起きてぼんやりとした頭で談話室に向かう途中、誰かの部屋からこっそり顔を覗かせて周りを窺うカントクちゃんがいた。なんだか咄嗟にオレも身を隠して廊下の角からカントクちゃんを見てた。そしたら、カントクちゃんと…セッツァーが部屋から出てきた。頭が真っ白になった。オレは部屋に戻って、それからのことはあまり覚えてない。
寮でセッツァーに会うたび気まずくて、何となく避ける日が続いた。セッツァーも夏休みに入ってから毎晩いたるんの部屋にこもってゲームしてることが多かったから、都合がよかった。
カントクちゃんにも、普段通り接するように頑張った。
でも、また見てしまった。
朝、セッツァーとカントクちゃんがバレないように二人で廊下を歩いてるとこ。
オレはもう耐えられなかった。しばらくの間、風邪ってことにしてなるべく部屋で過ごしてた。
ノックの音。むっくんは今日は出かけてる。
「…一成」
セッツァーの声だった。
「部屋にいんだろ?…最近どうしたよ」
顔を合わせたくなかった。そしてどうしようもなく情けなかった。オレは結局カントクちゃんに何もできないままだった。それが悪かったんだ。
「開けるぞ」
セッツァーは容赦なく部屋に入ってきた。
背を向けてたオレを無理やり向かい合わせて、心配そうにオレの顔を見た。
「一成、お前最近俺のこと避けてね?どーしたよ?」
「ちょっ、なになに〜?き、気のせいだって」
「まー、俺にも思い当たるフシはあるっつーか、監督ちゃんのことっしょ?」
「えっ…はは、やっぱりセッツァーには敵わないっつーか」
オレの言葉を聞いてセッツァーは笑顔を見せた。胸がズキっと痛んだ。
「どーせそんなこったろうと思ったけど。一成、見たんだろ。俺と監督ちゃんが朝二人でいるとこ」
「オレは…オレはカントクちゃんとセッツァーが幸せなら…それで全然オッケーだから!」
精一杯笑顔みたいな顔をした。
「おいおい、マジかよ」
ぷはっとセッツァーが吹き出した。で、直後、やけに神妙な顔をして言った。
「俺と監督ちゃんがヤッてるとか思ってんだろ?それでもオッケーなのかよ」
「や、ヤッてるとか、そういうんじゃ…!」
…でも朝に部屋から二人で出てきたってことは、そういうこと、だよな。
セッツァーはにやけを堪えられないって感じで話し続ける。
「ここんとこ毎晩ヤッてる。んで、時々朝になっちまうんだよなー。監督ちゃんから部屋に来っから、断れねーし」
カントクちゃんが……
カントクちゃんがセッツァーのことを好きなら、それで、いいのかもしれない。
「俺は3人でヤる方が新鮮で楽しーんだけど」
「至さんがあんま付き合ってくんねーから、やっぱ監督ちゃんと二人が多いけど」
3人?いたるん?…理解が追いつかない。
カントクちゃんは本当にそんなこと…
つい想像して吐き気がしてきた。
「まー至さんは基本…っておい、一成?聞いてっか?」
気づいたら泣いていた。涙がこぼれて、止まらなかった。
「あー、やりすぎたか…ごめん、一成」
「……今は何言っても仕方ねーか」
気付いたら、夕方。
今度はいたるんが来た。正直会いたくなかったけど、ドアを開けた。
「万里が珍しく反省してたよ。俺でよければ話聞かせてくれない?今夜12時くらいに部屋に来てくれないかな。それから、絶対ノックはしないで開けて」
いたるんが部屋に来いなんて珍しい。断る隙を与えられなかったオレに選択肢はなかった。いたるんとまで険悪になって、カンパニーの雰囲気を悪くしたくないし。ノックをしないでって…夜遅いせいか、ゲーム配信でもしてるのか、わからないけどそんなことどうでもよかった。
12時。あっという間に来た。
しぶしぶいたるんの部屋に向かった。一瞬躊躇ったけど、覚悟を決めて一気にドアを開けた。
思いがけない光景が待っていた。
「か、一成!?」
固まるセッツァー。
隣にはにこにこしているいたるん。
そして…カントクちゃんがいたるんの膝で寝ていた。
「一成、こういうことだから」
いたるんがオフの顔で微笑んでいる。
「一成、昼は悪かった。俺、ふざけすぎたわ」
セッツァーは気まずそうに言った。
でもオレは正直それどころじゃなかった。
寝ているカントクちゃんの手に握られてるのは…コントローラー?
液晶画面に映っているのは…これは…オレでも知ってる、スプラティーンだ。
「…ははっ、セッツァー、オレ…もし…かして」
「だーかーら、ごめんって。俺は一成の気持ちも、監督ちゃんの気持ちも知ってっから、つい」
オレの勘違いかよ。涙が出るくらい笑った。つられていたるんもセッツァーも笑った。
オレたちの笑い声でカントクちゃんが起きた。
「…あれ?一成くん…?あっこれは…」
慌てるカントクちゃんの言葉をセッツァーは遮って。
「一成の誕生日、監督ちゃん一日空けてるってよ。絶対言うなって言われたけど」
急に赤面するカントクちゃんにいたるんが声をかける。
「観念して素直になりなよ、監督さん。…一成も。二人きりで、一番楽しい誕生日にしておいで」
オレの誕生日…覚えててくれたんだ。
いつも冗談めかしてずっとはっきり言えなかったオレの気持ち。カントクちゃんに今度こそ、伝えなきゃ。…待たせてごめんって。本気で好きだって。
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