とある日の訓練。それから軍人。
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花柄のワンピースに身を包んだ春は、都会特有の垢抜けた街娘となって夜の街を闊歩した。
人通りの多いここら一帯は女達のキャアキャアという高い声や男達の喧騒が遠くに聞こえる、所謂歓楽街。
ほろ酔い加減で若干フラフラとした足取りの春はすれ違う男性の腕にぶつかり、前方にハンドバッグを落としてしまった。
スーツを着たその紳士はバッグを拾って手渡してくれる。
「あら、どうもごめんなさい」
そう言ってニコッと控えめに微笑むと、少しだけ男の頬が上気したのがわかった。
意識してくれさえすれば、もうこっちのものである。
先ほどの授業で、百戦錬磨の超売れっ子娼婦から学んだテクニックを試すチャンスだ。
_______街に繰り出して、それぞれ異性を口説いてこい。
結城中佐からの指示はそれだけであった。
D機関では様々な奇抜な訓練を受けるが、その最もたる所は"ジゴロ・娼婦による異性の落とし方講座"だろう。
今夜は、それを機関員たちがしっかりマスター出来ているかどうかのチェックというわけだ。
このような実践型の授業は定期的に行われる。
春は、街に着いてからは他の機関員たちとは別れて行動していた。
一人でいた方が相手も動き易いからだ。
すでに3人の男に酒を奢られ、さらにその後も誘われた春。
次のターゲットを探していると、派手なドレスの女と談笑している紳士が目に入った。
高山帽子をやや深めにかぶっており、はっきりとは顔が視認できないが、清潔感があり、背格好も程良く見える。
他の女から男を奪うのも、良い訓練になるだろう。
そう判断するや否や、春はヨロヨロとした足取りで近づいて紳士の足を踏んだ(もちろん
「あッ、ごめんなさい」
三「いえ、お気になさらず」
バランスを崩してそのまま倒れ込んだ自身の身体を抱き止めたその男は、果たして、なんだか聞き覚えのある声をしていた。
ハッとして、恐る恐る男の顔を見上げる。
「み、みよ・・・むぐッ!」
三「どうやら、相当酔ってらっしゃるようだ。すみませんレディ、私はこの方を交番所に送り届けてきます」
ちょっとした変装に後ろ姿とはいえ気づかなかった悔しさと、気づかずにノリノリで色仕掛けをしようとしていた恥ずかしさで消えてしまいたい春は、ヤケになって名前を口走ろうとしたが防がれ・・・。
おそらく目の前の派手なドレスの婦人には名前を明かしていなかったのだろう。
三好は素早く春の口を塞いで、支えるように腰に手を回した。
逃げられないよう、ガッチリと。
「そんな酔っ払い、放っておけば良いではないですか」となおも食い下がろうとする婦人に、三好は手に持っていたグラスを押し付ける、ニコリと微笑む。
三「おや、明らかに体調の優れない女性をこのまま捨て置けと?・・・残念です。どうやらあなたは、私が見込んでいたような方とは程遠かったようだ。さようなら、レディ。良い夜を」
はっきりとした決別の言葉を告げた三好に、婦人はもはや"レディ"とは呼べないような表情を浮かべて呆然としていた。
三「それで?お前は僕の訓練を邪魔しに来たのか?」
「違うのだよ、三好くん」
三「違う?じゃあもしかして、僕に気がつかなかったとか?」
「それは、その・・・」
三「そうだな、そんなはずがないよなあ?いくらお前が男を手玉に取るのに夢中になって知能が低下していたとしても、毎日のように顔を合わせている同僚ぐらい見分けはつくはずだ」
「・・・・・・」
三「それにほら、男の靴を思いきり踏みつけるのがお前のテクってわけじゃないだろ?ただの嫌がらせだものな、あれ」
「・・・申し訳ございませんでした!!」
畳み掛けるような三好の口撃に、春はとうとう根を上げて謝罪の言葉を口にした。
(まったく、靴を少し汚したぐらいでネチネチネチネチ・・・。小姑か!)
三「全然反省していなさそうだな」
「え、エスパー・・・」
三「今のは丸々顔に出ていた」
お気に入りの靴を踏みつけたのが相当機嫌を損ねたらしい。
三好は、仏頂面のまま夜店の店主に焼き鳥を頼んだ。
賑わいのある夜市では、同じように夜店で買ったものを食べ歩きしている者は多い。
春の分も貰っておいてくれるあたり、本当に怒っているわけではないのだろう。
三「それで、成果は?」
「5人。三好は?」
三「チッ、3人」
馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、三好は割と強めに春をどついてくる。
なんだか、最近私に対して容赦が無くなってないか?
最初の頃の貼り付けたような笑みと紳士的振る舞いはどこへいったのやら。
三「相手が女の場合、次から次へとはいかないんだよ。薄情な好色家だと思われるからな」
「そういうものなの?」
言いながら焼き鳥を口に入れると、アツアツの肉汁が溢れ出してくる。
とても美味である。
三「他の奴らがまだ街で遊んでいる中、僕たちだけ戻るのも癪だな。おい春、僕に付き合え」
「付き合えって?」
三好は、呆れ返ったように大きくため息をつく。
三「お前が来たせいで、女に逃げられたんだ。責任ぐらい取れよ。それに、僕のお気に入りの靴を汚したのもお前だろ。新しいのを見繕ってもらおうか」
絶対に新しい靴を買うほど汚してないとは思うのだが、興が乗っているのも確かで。
そんなことなら、暇も潰れることだし付き合ってやろうではないか。
たまには、三好と二人で夜市をぶらつくのも良いかもしれない。
「はいはい。まったく、仕方ないなぁ三好くんは」
三「何か言ったか?」
「何でもないです~」
人混みに消えていく二人の足取りが心なしか楽しそうなのは、どちらも知る由もなかった。
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