「今日は親切に案内してくれてどうもありがとう」







もちろん「親切に（）」という意味だが、二人は春がそろそろ一人になりたいのだと汲み取ったらしい。
田崎はあくまでも紳士的に、「困ったことがあったら何でも言ってくれ」と去っていった。


そして残ったのは、あまりに無口過ぎて、なぜ一緒にいるのかすらわからなかった小田切である。











小「8時頃に食堂に来れば、夕食が食べられる。そして、その後はきっと・・・」










煮え切らない様子で何かを言おうとしかけ、やめて部屋を出て行く小田切を、春は慌てて呼び止めた。








「ちょっと！その後はきっと・・・何？」









小田切はしばらく迷いつつも、真っ直ぐに春を見つめて言う。








小「夕食のあと、アイツらにゲームに誘われるかもしれない」

















数少ない持ち物の配置など部屋の整理を一通り終え、春は身体が空腹を訴えてくるのを感じた。

確か夕飯は食堂でみんなで食べたり、反対に好き勝手外食に行くこともあると言っていたな。

しかし春はまだこの街に来たばかりで行きつけの店もなく、さらに新人として同じ機関員と親睦を深めることの方が大事に思えた。
そう判断するや否や行動は早く、先ほどの小田切とかいう男の気になる言葉もあり、食堂へ向かってみることにしたのであった。


















「お、美味しい・・・」







焼き魚に煮物におひたし、そして味噌汁。
質素な純和食だが、"おふくろの味"と形容せざるを得ない夕食に春は感動を覚えた。
何せ、この"おふくろの味"を生み出したのは機関員たちの中で最も大柄な福本である。
なんだか割烹着が板に付いていた。

食堂にはすでに8人の機関員たちが勢揃いしており、福本を中心に適当な料理を摘まみながら喫煙やポーカーに勤しんでいた。
何なら先程の除け者にするような空気から一転、「ここに座りなよ」など歓迎ムードである。










福「それは良かった」


甘「たしかに福本の飯はたまに食べたくなるよなぁ。胃袋掴まれちゃってるって感じ？」


神「日本じゃ"男子厨房に入らず"なんて言うが、やっぱり欧米の方だと料理出来る奴の方がモテるのかね」


「福本はきっと欧米でも日本でもモテるよ」


神「春はどう？この中でタイプの奴は？」











なんだか神永と話していると、男子学生と会話をしているような気分になる。いつのまにか下の名前で呼ばれているし。

そういう人格のカバー（・・・）なのだろうか？







「ごめんね、私西洋人が好きなの」










「人種差別だ！誰がイエローモンキーだ！」と騒ぎ立てる神永を無視し、三好が立ち上がって春の目の前に来る。

その端正な顔には感情というものが浮かんでおらず、無意識に身構えてしまう。









三「美味しい夕飯にも満足してもらったことだし、良かったら食後に僕らのゲームに参加してみないか？」








＂ゲーム＂と聞いた瞬間、先ほどの小田切の言葉が脳内でフラッシュバックした。
そのときの彼の表情は読み取りづらかったが、おそらく忠告していたのだろう。








「どんなゲーム？」


三「見ればわかる」









周りを見渡さずとも、全員が自分に注意を向けていることはわかった。

そして、これを断れば一生彼らの嘲笑を受けるであろうことも。









「____________やる」