welcome to the backrooms
⚠︎ATTENTION
・このお話は『公衆電話のケンマくん』の続きとなっております。読んでない方はそちらからお読みください。
・ハイキュー怪異 パロです。
・筆者の趣味趣向性癖盛り盛りです。
・ちなみに筆者は白鳥沢戦までしか見れてません。怒らないで。
・キャラの殺人描写あります。
・ちょっとグロなどの過激描写あります。
・めちゃくちゃ捏造あります。
・かなり自我のある主人公です。
・キャラ崩壊してます。
・無理な人はここから逃げてください。
・どうぞお先へ
──────────────
『あなたが注意を怠って、おかしな所で現実から外れ落ちると、古くて湿ったカーペットの匂いと、単調な黄色の狂気と、永遠に続く背景雑音と、約十五兆 m2 を超えて広がるランダムに区分けされた空っぽなに部屋部屋 閉じ込められるだけの、 "The Backrooms" へ行き着くことになるのです。
もし、近くで何かがうろうろしているのが聞こえたら、それはきっとあなたが出す音に気付いていることでしょう。あなたに神の救いがあらんことを』
億劫だ。
大学へ進む足取りが段々と重くなる。
足取りが重くなるのに比例して気持ちも沈んでいく。
本来なら華の大学一年生なのに、どれもこれもあのサークルのせいに違いない。
今日こそあんなサークルやめてやる。
戦地へ向かう少年兵のような顔の私を周りの人がギョッと避けていくが構ってられない。実際、死地へ向かうようなものなので。他の人とは生きている次元が違う。
ガッ、と『オカルトサークル』と看板がぶら下がっているドアを掴み思いっきり開ける。
中にはすでに先客が居り、ゲーミングチェアの上で目を丸くしてコチラを見つめていた。
それを視界に入れた私は苦虫を噛み潰したかのように顔を顰めて、声を絞り出した。大学に着いて1番に会うのがこの男なのは運が悪いとしか言えない。
「びっくりした…ドアくらい普通に開けなよ」
「出たな諸悪の根源………!」
まるで我が物顔でこの部室に居座っているこの男こそ、私の人生最大の不運であり、目下の悩みである。
「おはよう、リカ。クロならもう直ぐ来るらしいよ」
「ちゃっかり先輩と仲良くなってる…」
「とりあえず、中入ったら?」
ドアを開けたまま立ち尽くす私をこの男は目を細めて見つめてくる。その目の奥には人間には到底理解できない思惑と狂気がぐるぐると渦巻いている。否、理解できないというより理解してはいけないのだろう。
この男は、人智を超えた生き物なのだから。
「大体なんでここに居座ってるの…『ケンマくん』」
『ケンマくん』
この大学の近所にある、猫ヶ丘団地の公衆電話に根付いている都市伝説。彼に電話をかけられた者は死に、彼に電話をかけた者も死ぬという大迷惑な奴。
以前私はこのサークルの先輩に頼まれ都市伝説を検証しに行き、この男に殺されかけた(私も殺そうとしたが正当防衛だろう)。
何がどうなってそうなったのか分からないが、彼は私との一件で「俺を殺そうとしてきた人間面白い!俺、こんな楽しいの初めてだから責任取ってね♡」とぶっ飛んだ思考回路に至り人間に上手いこと擬態して大学に侵入し、このサークルにも加入した。
私は先輩に対して必死にこの男の危険性を提唱したが、心配そうな顔をして「お前、疲れてるんじゃないか?」と言われてブチギレ早退をかました。
というか、元を辿ればこの先輩のせいじゃないか?私は訝しんだ。
あまりの悪夢に体の拒絶反応か防衛本能か、私は帰宅をした後に熱を出し1週間寝込んだ。先輩からは「ほらやっぱり疲れてたんだよ」というメッセージと「熱下がったらサークル顔出せよ」というメッセージが届いた。そのサークルが熱の原因なんだけど。この人もしかして人の心ない感じ?
という訳で私は1週間ぶりにサークルに顔を出し、もうやってられるか!と退部を告げにきたのだ。
それはさておき。
「……………」
何でいるのかという私の問いに彼は答えず、どこで拾ってきたのか分からないゲーム機をピコピコと鳴らしている。…拾ってきたのだろうか、それとも持ち主から拝借 したのだろうか。
藪を突いて蛇を出したくないためゲームの出所は気になるものの無視をすることに決めた。床一面に散らばっている本をなんとか避け、この部室に一つしかないソファに座る。年季の入ったソファが軋んだ音を出す。
沈黙が部屋を包む。
気まずい。めちゃくちゃ気まずい。
ケンマくんはゲームしてるから気まずくないだろうけど、私はすることが何もなさすぎて気まずい。なんなら殺し合った奴が同じ空間にいるのが気まずい。
てかこの人外に気まずいなんて感情あるの?
取り敢えずスマホでも見て先輩が来るまで耐えよう。スマホはいつでも沈黙の味方である。
私はカバンからスマホを出し、ニュースサイトを開く。
『⚫︎▼◾︎動物園でパンダ誕生!』
『あの芸能人が語る、最もヤバかった現場』
『アイドルグループ、ドーム公演決定!』
『今期の名作ドラマ1位は!?」
淡々と画面をスクロールする。あまり興味の湧かない記事ばかりだ。別に事件などが起こって欲しいとは思わないが、やはり人間は刺激を求める生き物なので。
スクロールしていた指がピタリと止まり、私は一つの記事をタップする。
『増加する行方不明者、原因は?』
「へぇ、行方不明者増えてるんだ」
全く同じことを自分も思ったのでうっかり声に出しちゃったのかと思ったがその声が男性特有の低い声だったので違うと判断し、いつの間にか横にいるゲーミングチェアに座っているケンマくんをジトッと見る。
私のことなどお構いなしにこの男はスマホを覗き込み、勝手にスクロールして記事を読んでいく。何を言ってもこの男は聞かないだろうなと思い、私も記事に目を戻す。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『増加する行方不明者、原因は?』
都内で増加する行方不明者。
先月だけでその数は80名に及ぶ。
今月に至っては10日しか経ってないにも関わらず、すでに先月の数を超えている。警察は対策を取るとは宣言したものの何も動きがない。打つ手がないという事であろうか。
最後の行方不明者は町空みゆきさん(17)。一昨日、友人と下校している際に行方不明となったそうだ。友人はすぐに警察に通報したにも関わらず、未だにみゆきさんは発見されない。
一刻も早く解決せねばならないこの問題に警察がどう対応するか、今後の彼らに注目していかねばならない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
随分とまぁ警察にチクチクと嫌味を語っている記事だ。ライターが警察アンチなのだろうか。
しかし、行方不明。以前なら何かの事件に巻き込まれたのではないかと思うだけだったが、今は違う。人智を超えたものを知ってしまったので。
隣のケンマを見つめる。ケンマくんも言いたい事が分かったのか、ムッとした顔で私が聞くよりも先に否定をしてきた。
「俺じゃないよ」
「説得力がない。こんなことできるのあんたみたいな怪異しかできないでしょ」
「俺だったら遺体発見のパターン。行方不明になんてならないよ」
「…じゃあ他の怪異ってこと?」
「可能性としてはそれは十分にあるね」
頭が痛い。
コイツのような怪異が他にもいるのか。
頭を抱える私を放っておいて、ケンマくんは私のスマホをポチポチとつついている。おい、人のスマホ。
「わぁ、本当に行方不明者増えてるね。今月が始まってまだ10日しか経ってないのに100名だって」
「どこからそんなの分かったの?」
「警視庁のホームページ」
随分デジタルに強い怪異だ。あまり怪異には多才になって欲しくはない。怪異がなんでもできるようになったらそれこそ人間は絶滅する。
「随分と活発なヤツがはしゃいでんじゃない?」
「大迷惑…」
「…しょうがないからリカは守ってあげる。俺を殺すって言ったんだから、リカが俺を殺せるまでは生きてもらわなきゃ困るし」
「大迷惑………」
善意で守るとかではなく、結局の所己の為に私を守ると言っているのだこの怪異は。殺すって言われたら普通の生き物なら嫌悪感を抱くのがほとんどなのに、コイツときたら「ワッ!マジ?」となるのだから本当に理解が及ばない。珍獣を相手にしている気分である。当ハンターは今すぐにでも猟銃でコイツをぶち抜きたい所存であります。
ガチャ、と部室のドアが開き、特徴的な頭をした見慣れた男が部屋へ入ってくる。
「2人とも居るじゃねぇか。熱心な後輩を持って俺は嬉しいよ」
「あ、先輩。私このサークルやめます」
「ちょっと待ってろよ〜、今お茶入れてやるからな」
普通に無視された。この先輩 マジで…!
怒りでワナワナと体が震えるが、この部屋には残念ながら自己中イカれ怪異と都合の良い時だけ鈍感難聴系ヒロインになる先輩しかいないので誰も気にしてくれない。誰も私を愛さない……。
「ほら、ちょっと寄れ。俺が座るスペースがない」
「私がやめたらこのソファは先輩専用になりますけど」
「2人で分けっこするソファの良さがまだ分からんか…」
「何言ってんだこの人」
やいのやいの言い合いながら、結局この人は隣に座ってきた。渋々私もお茶を受け取りこの状況を受け入れる。ケンマくんはずっとゲームをしており、私たちに微塵の興味も見せていない。
黒尾先輩は一口お茶を飲んでおっさんのような声で「生き返る〜」と言っている。
「そういえば猫ヶ丘団地に行った時のお前の録画のデータ、残ってなかったぞ」
「……はぁ!?どういうことですか!?」
「どういうことも何も、データが飛んだとしかなぁ」
「…………」
絶句。私があんな怖いをして検証をした都市伝説のデータが全部飛んだ?…いや、結構雑に扱っちゃったかもしれない。床に座り込んだ時とか、思いっきりぶつけたような。……原因はなんとなく分かったが黙っておこう。
「と、いうことだから」
「何がということなんですか」
「お前には代わりの検証に行ってもらいマス」
「嫌です!」
荷物を持って「お世話になりました!」と部屋を出ようとするが引きづられて元の位置に戻される。
「先輩が行けば良いじゃないですか!」
「だから俺は忙しいの。泣く泣く諦めてんの」
「ダウト!嘘に決まってる!」
私がどれだけソファの上でのたうちまわってもこの先輩にはこの気持ちが伝わらない。それどころか面白がってこちらを見ている。
「まぁ、安心しろって。今回は1人じゃねぇから」
「?」
「なぁ、研磨?」
「エ」
流れ弾が自分に飛んできたことに驚いたケンマくんが、バッと顔をあげてこちらを見る。目は吊り上がり、如何にも嫌です!起こりますよ!と感情を表情に出して先輩を睨みつけている。
「……クロ」
「サークルに入ったからには活動をしてもらわなきゃいけないからなぁ」
態とらしく申し訳なさそうにする彼には賞賛を贈りたい。どんなメンタルしてんだ。この男、あまりにも詐欺師に向きすぎている。
いや、よく考えるとこの流れは私に良くない。非常 に良くない。
「え、私ケンマくんと一緒に行動するってことですか」
「そうだな」
「死にたくないから嫌です」
「死なないから大丈夫大丈夫」
伝わらないよぅ…。私のこの涙が先輩には見えてないよぅ…。メソメソと泣いていると黒尾先輩がケンマくんに何やら耳打ちをし、ケンマくんの猫のような目がくわっと開いた。怖い。一体今の間に何が起こったの。
「…はぁ、分かった。リカと一緒に活動するよ」
「よ、男前!良かったなリカ!」
「なんでェ!?」
思わずケンマくんの肩を掴んで揺さぶってしまう。
「な、なんで、行きたくなさそうだったじゃん」
「そりゃ動きたくはないし、行きたくないけど」
「じゃあそれでいいじゃん!?」
「動かなきゃ行けない理由ができたの。揺さぶるのやめて、気持ち悪いから」
グロッキーな顔になったケンマくんを見て揺さぶるのはやめるが、肩は掴んだままだ。本当になぜ?
彼は肩を掴んだ私の手をなぞり、耳元でこう呟いた。
「死にたくない んでしょ?」
「!」
彼の顔を見ると、あの人を人とも思わない意地の悪い笑顔を浮かべていた。目の奥にはナニカが渦巻いている。
三日月のようにニタリと嗤 った口元から言葉が続く。
「言ったでしょ、守ってあげるって」
ね?という彼には善性というものが全く見えない。背筋にゾッと悪寒が走る。恐ろしい、生き物。人の理の外にいる人でなし。
冷や汗が流れる。彼の手を振り払いたいのに、彼が握るからそれができない。彼から目が離せない。
そんな状況を壊したのも、先輩であった。
先輩は私の頭にポンと手を置き、それにハッと我に帰った私はやっと体を動かすことができた。思わず先輩を見上げると、彼は呆れた顔をしてケンマくんを見つめていた。その表情は困った子供に対するもののようだった。
「研磨、香山は今骨折してるんだからお前がサポートするんだぞ」
「…分かった」
何を不服そうにしてるんだ。折ったのお前だぞ。
ケンマくんはそっと私の視線から逃げるように目を逸らす。危害を加えた自覚はあるらしい。
「じゃあお前らに検証して欲しい噂を発表しま〜す」
な〜に〜!?と言える空気ではない私たちが黙って次の言葉を待っていると、黒尾先輩がある画像が映っているスマホを突き出してきた。
それは、ただの湖 が映った画像であった。
───────────────────
「…本当にここで会ってるわけ?」
「この駅で降りるってルートには書いてあるけど」
電車で揺られること1時間。
私達は自然豊かで空気の美味しい、都外の田舎へ来ていた。家が一定の距離を保って存在しており、家々の間に位置する畑に生えた野菜が風に靡かれている。
「…どうしたの?」
「おばあちゃんの家がこんな感じの田舎だったから懐かしくて」
「ふぅん」
聞いてきたくせに、あまり大した反応はない。気にはしないが。それよりこちらに興味を持たれる方が厄介なのを私は身をもって知っている為。
小学生までは夏になるといつもおばあちゃん家に帰省していた。素麺や冷やした瓜を家族皆んなで囲んで食べるシーンが夏の記憶として頭に残っている。そういえば、いつからかおばあちゃん家には行かなくなったんだよな。「行きたい!」と言っても親やおばあちゃん達が忙しいだのなんだので中々行けないのだ。
少し思い出に浸ってしまった。さっさと終わらせる為に足を進める。
「確か目当ての池はこの先だったよね。ほら、キビキビ歩いて」
「はぁ……動きたくない」
「アンタがサークル活動するって言ったんでしょ」
「何でそんな乗り気なの…」
「だって人魚見れるし」
そう、勘違いしないで欲しいのだが私たちはこの田舎にサークル活動をしに来たのである。
「なんですかそれ。ただの湖じゃないですか」
黒尾先輩が見せてきた画像を見て私は首を傾げる。
よく見たら幽霊が写っているとか、そういうのでもあるのかと思って目を凝らしても何も異常は見られない。
ケンマくんをチラっと見てみると、彼も首を傾げて「何がしたいの」と先輩に聞いている。
「あ〜、やっぱ写ってないか」
どうやら私達の反応は予想通りらしい。黒尾先輩はスマホをスクロールしながらそう言った。
するとメッセージアプリの通知がなったので、自分のスマホを開くと『オカサー(3)』というグループに一つの記事が送られてきていた。
「何このグループ」
ケンマくんにもどうやら通知は来ていたらしく、スマホを見て怪訝そうな顔をする。かく言う私も、今初めてこのグループがあるのを知った。
「不便だから俺が作っといた」
黒尾先輩はなんでもないようにしれっと答える。
彼は意外と物事を進める時は強引なのである。私がはぁ、とため息をつくと隣からもため息が聞こえた。ケンマくんと初めて心境が一致しているのかもしれない。
私達が記事を読むまで先輩は何も話さないだろう。先輩の思惑通り彼から送られてきた記事を開く。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『ネットで話題に、消える人魚!!』
この画像はSNSで『やばい、人魚いる』とアップされたものだ。読者の方は人魚など写ってないことに疑問を待ったであろう。しかし初めは本当に人魚が写っておりCGやAIではないかと話題を呼んでいたのだが、なんといつの間にかその人魚が逃げたかのようにこの画像から消えてしまったのだ。投稿者が上げ直した形跡もなく、それがさらに話題を呼んだ。
当ライターは投稿者に連絡を取ることに成功し、聞いた話によると都外の実家に帰省した際に寄った比丘尼 湖にて人魚を目撃。急いで写真を撮り、SNSへアップロードをしたという。
消えた人魚は一体どこへ行ったのか?
我々が見たものは一体なんだったのだろうか?
謎は深まるばかりである。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「また胡散臭い記事…」
「でもこれはネットでかなり物議を呼んだぞ。俺も見たし、人魚」
「え、本当に写ってたんですか?」
「嗚呼、初めて見たな。あんな感じなんだ」
ちょっと羨ましい気持ちが生まれる。人魚といえば女の子なら一度は出会うことを夢見たであろう。泡になって消えた人魚姫。王子様と結ばれた人魚姫。色んなパターンの人魚姫があるが、どれも女の子の憧れである。
「………」
ケンマくんは先ほどから食い入るように画像を見つめている。怪異として何か感じるのか。それとも同類としてのシンパシーなのか。
黒尾先輩がスマホをタップして、画面に映ったマップを見せてくる。そこには『比丘尼 湖へのルート案内』と出ており、電車で1時間と記載されている。
「まさか、ですけど」
「そのまさかだよ。2人にはここに行ってもらいます」
「俺、やっぱりパス」
遠出したくない…とゲーミングチェアにズルズルと彼は沈む。だが、私は割と乗り気だった。
「それ、交通費は部費ですよね?」
「ん?そうだな」
「なら行ってもいいですよ」
「おおお?」
人魚がいるらしい、というだけなら危険性は感じない。ケンマくんのようなおっかない死者まで出ている都市伝説なら即断っていたが、投稿者はちゃんと生還している。それなら別に行ってもいいかな、という気持ちが沸く。後は人魚を見てみたい好奇心が占めている。
「お前…やっとサークルの一員としての自覚が生まれたのか…!」
「この前の都市伝説よりはマシですし…」
バシバシと背中を叩く先輩に痛いと苦言を漏らす。
サークルの一員としての気持ちは全く ないが、この前の検証の代わりとしてならこの件は安全だからいいなと思っただけである。
「香山がこう言ってるんだ。研磨、お前も着いていくんだぞ」
「えぇ〜〜…」
別に私だけでもいいけど。なんで先輩はセットみたいな扱いをするんだ。ケンマくんがいるのといないとじゃあ安全性が段違いである。勿論、いない方が高い。唸っていたケンマくんが顔を上げる。
「……分かった。いつ行けばいいの」
「今度の休日だな。流石に大学は優先だから」
「そうですね。私は 授業がありますから」
「ルートはグループに送っとくぞ」
スマホを弄 る先輩が「そういえば」と私達に話しかける。
「最近なんか行方不明者が増えているらしいから、2人ともお互いに逸れないように行動しろよ」
池に続く道を歩く。
パキパキと落ちている枝を踏む音が響く。ケンマくんは器用にゲームをしながら私に続いていた。
池に向かう途中で付近に住んでいるお婆さんに出会ったので比丘尼 湖について聞くと「最近になって人魚目当てで来る人が増えたが私たちは見たことがない」「人魚の逸話なども聞いたことがない」と話していた。私の後ろでお婆さんに人見知りを発揮して喋らず地面を見つめているケンマくんのように、都市伝説や噂などはないらしい。ケンマくんと行動して分かったことだが、彼は意外と人見知りだ。人を殺せるくせに人から話しかけられるとビャッと体を跳ねらせてこちらに助けを求めるような視線を送ってくる。電車でも、他者が居ることに対して居心地悪そうにゲームをしていた。
「人間は殺せるくせに怖いの?」
と、彼に言うと「怖いわけではないが、明るいタイプの人間は合わない。特に公衆電話に噂を試しに電話かけに来るタイプ」と答えた。随分と具体的な答えだ。
じゃあ私はどうなのか、噂を試しに行ったけど?と聞くと彼は少し黙った後に「…さぁね」と猫みたいな目を細めた。私は既に彼を理解するのは諦めていた。好奇心に殺されたくないからである。
しばらく歩くと、視界が開けた。
澄んだ水でいっぱいの大湖が目の前に現れる。
「これが比丘尼 湖…」
カメラを手に持ち、動画撮影を始める。ケンマくんはいつの間にかゲームをやめており、比丘尼 湖をじっと見つめていた。その様子が縄張りに侵入してきた敵に対して警戒している猫のようにも見える。
比丘尼 湖に異常は見られない。至って普通の湖であった。綺麗な水なので魚が泳いでいるのがよく見える。
暫く動画を回し、ケンマくんに質問をする。
「どう、なんか感じる?」
「何かって?」
「同類センサーみたいな」
「何ソレ」
彼に向かって軽口を言いながら、湖の際まで歩く。落ちないでよ、と言う彼に対して大丈夫だと返す。
画面越しに湖を見ていると遠くで水が跳ねたような気がした。私は魚でも跳ねたのかな?と思った。しかし、先ほどの水の跳ねた地点からもっとこちらに近い位置で、大きなヒレが水面を叩いたのが見えた。
「エッ!?」
思わずぐるんとケンマくんを振り返ると彼も驚いたような表情をしていた。
「このパターンでガセじゃないことあるんだ…」
なんて呟く彼に同意を返す。
暫く撮っていたが、水が跳ねたり水面からヒレが見えたりなどはしなかった。だが映像に収めれたのは中々上出来ではないか?「よくやった!」と喜ぶ黒尾先輩が脳裏に映る。別に彼を喜ばせたいわけではないが。
人魚を撮れたことによる興奮から頬が紅潮する。
ケンマくんは何喜んでんの…と呆れた様子を見せているが「人魚は女の子の、いや人類の憧れなんだぞ」と言うと興味なさそうに「そう」と返事した。
撮れたので撤収しようと、私とケンマくんは比丘尼 湖に背を向ける。必然的に後ろに居た彼が先頭になる。歩き出そうと一歩を踏み出そうとした彼がピタリと動きを止める。どうしたのだろうか、と不思議に思い彼に声をかけようとした。すると彼が勢いよく振り返った。彼の肩までつく髪がふわりと流れた。
「ッ後ろ!!」
尋常じゃない彼の様子に私も急いで振り返ろうとするがそれは叶わなかった。ナニ かに足を掴まれたから。銀の鱗が輝き、長い爪の白い手に掴まれた足を見て「は」と驚きの声が出た次の瞬間。とてつもない強さの力で足が引っ張られ、湖の中へと私は投げ出された。
突然冷たい水に包まれ、息ができずに口から泡が溢れる。一体何が私を引き摺り込んだのか。そう思い目を開けると。
銀色の鱗が輝く男が目の前に居た。
湖に差し込む日の光が反射して輝く銀色の髪。
こちらを見つめるエメラルドの瞳はキュウっと縦に割れている。
思わず見惚れてしまうが、彼の下半身を見て言葉を失う。それはあまりにも長い魚の骨 のような下腹部。人魚として魚のような部分は人間で言う膝までの部分しかなく、その先はヒレまで骨で構成されていた。
息を呑む私を人魚が無言見つめ、ぐわっと大きな口を開ける。あ、食われる。そう思い体をバタバタと暴れさすが人魚の脚 が私に巻き付く。そうして動けなくなった私を掴んだ人魚は満足そうに見た後、私の腕を掴む。骨折している方の腕を動かされ顔を顰めてしまう。そのまま人魚が齧り付こうとして────。
ドボン、と何かが湖に落ちてきた。
驚いた様子の人魚が私に齧り付くのをやめる。そして落ちてきたものが何かと不思議そうにそちらを見る。私はこの状況で何が落ちてきたか分からないほど馬鹿ではなかった。
落ちてきたケンマくんが人魚の腕に包丁を突き刺す。
金切り声の様な悲鳴が水中にも関わらず響き渡る。思わず耳を押さえてしまう。私に巻き付いて居た人魚の力が抜けた。ケンマくんが私を掴み水面へと引っ張り上げる。水中なのに彼が何かを怒鳴っていたのは分かった。
「ゲホッ、ゲホッ」
酸素を取り込み、水を吐き出す。
ケンマくんも私もすっかりびしょ濡れになってしまって居た。彼は地面にゴロンと寝転がり私に向かって、
「アレが、憧れなの?」
と、言ってきた。
馬鹿言え。あんなおっかないのが憧れな訳あるか。深呼吸した後、否定の言葉を吐こうと口を開くと。
私の目を前を大きな影が覆う。
先ほどの人魚が私達が陸地にいるにも関わらず身を乗り出して私の前で手をついて見つめてきて居た。その手からは血が流れており、痛々しく見える。
血が流れて激昂しているのか、それともこちらを見定めているのか。無表情の人魚は喋らない。
「………」
沈黙の睨み合いが始まる。
地面に寝転んでいたケンマくんがいつの間にか体を起こし、包丁を握って人魚を見つめている。
10秒だったかもしれないし、1分以上経ったのかもしれない。長く感じた沈黙を終わらせたのは、人魚の方であった。
「い」
「………い?」
「いたいぃ〜〜〜〜」
人魚は美の権化とも言えるその表情を崩し、エメラルドの瞳からポロポロと涙を溢した。泣き出した人魚に私達はギョッとするが、人魚はさらに大きな声で泣き始めた。
「うわぁ〜〜〜〜ん!」
「ご、ごめん。痛い?血止めた方が良いよね」
びしょ濡れの上着を脱ぎ、人魚の傷を抑える。濡れているのは我慢して欲しい。いや、我慢して欲しいとかじゃなくない?先に襲ってきたのこの人魚じゃない?
ほとほと困り果て、ケンマくんに助けを求める様に視線を送る。彼も困っている様で、さらに泣かれたからか少しバツが悪そうだった。
「オレ」
「う、うん」
「ちょっと齧るだけのつもりだったのに〜〜〜!」
「ダメに決まってるだろ!!」
人魚の頭を叩く。だってぇ、と泣く人魚に呆れてしまう。このまま置いていくのもなんだか憚られるので、私達は人魚が泣き止むまで待った。
②へ続く
・このお話は『公衆電話のケンマくん』の続きとなっております。読んでない方はそちらからお読みください。
・ハイキュー
・筆者の趣味趣向性癖盛り盛りです。
・ちなみに筆者は白鳥沢戦までしか見れてません。怒らないで。
・キャラの殺人描写あります。
・ちょっとグロなどの過激描写あります。
・めちゃくちゃ捏造あります。
・かなり自我のある主人公です。
・キャラ崩壊してます。
・無理な人はここから逃げてください。
・どうぞお先へ
──────────────
『あなたが注意を怠って、おかしな所で現実から外れ落ちると、古くて湿ったカーペットの匂いと、単調な黄色の狂気と、永遠に続く背景雑音と、約十五兆 m2 を超えて広がるランダムに区分けされた空っぽなに
もし、近くで何かがうろうろしているのが聞こえたら、それはきっとあなたが出す音に気付いていることでしょう。あなたに神の救いがあらんことを』
億劫だ。
大学へ進む足取りが段々と重くなる。
足取りが重くなるのに比例して気持ちも沈んでいく。
本来なら華の大学一年生なのに、どれもこれもあのサークルのせいに違いない。
今日こそあんなサークルやめてやる。
戦地へ向かう少年兵のような顔の私を周りの人がギョッと避けていくが構ってられない。実際、死地へ向かうようなものなので。他の人とは生きている次元が違う。
ガッ、と『オカルトサークル』と看板がぶら下がっているドアを掴み思いっきり開ける。
中にはすでに先客が居り、ゲーミングチェアの上で目を丸くしてコチラを見つめていた。
それを視界に入れた私は苦虫を噛み潰したかのように顔を顰めて、声を絞り出した。大学に着いて1番に会うのがこの男なのは運が悪いとしか言えない。
「びっくりした…ドアくらい普通に開けなよ」
「出たな諸悪の根源………!」
まるで我が物顔でこの部室に居座っているこの男こそ、私の人生最大の不運であり、目下の悩みである。
「おはよう、リカ。クロならもう直ぐ来るらしいよ」
「ちゃっかり先輩と仲良くなってる…」
「とりあえず、中入ったら?」
ドアを開けたまま立ち尽くす私をこの男は目を細めて見つめてくる。その目の奥には人間には到底理解できない思惑と狂気がぐるぐると渦巻いている。否、理解できないというより理解してはいけないのだろう。
この男は、人智を超えた生き物なのだから。
「大体なんでここに居座ってるの…『ケンマくん』」
『ケンマくん』
この大学の近所にある、猫ヶ丘団地の公衆電話に根付いている都市伝説。彼に電話をかけられた者は死に、彼に電話をかけた者も死ぬという大迷惑な奴。
以前私はこのサークルの先輩に頼まれ都市伝説を検証しに行き、この男に殺されかけた(私も殺そうとしたが正当防衛だろう)。
何がどうなってそうなったのか分からないが、彼は私との一件で「俺を殺そうとしてきた人間面白い!俺、こんな楽しいの初めてだから責任取ってね♡」とぶっ飛んだ思考回路に至り人間に上手いこと擬態して大学に侵入し、このサークルにも加入した。
私は先輩に対して必死にこの男の危険性を提唱したが、心配そうな顔をして「お前、疲れてるんじゃないか?」と言われてブチギレ早退をかました。
というか、元を辿ればこの先輩のせいじゃないか?私は訝しんだ。
あまりの悪夢に体の拒絶反応か防衛本能か、私は帰宅をした後に熱を出し1週間寝込んだ。先輩からは「ほらやっぱり疲れてたんだよ」というメッセージと「熱下がったらサークル顔出せよ」というメッセージが届いた。そのサークルが熱の原因なんだけど。この人もしかして人の心ない感じ?
という訳で私は1週間ぶりにサークルに顔を出し、もうやってられるか!と退部を告げにきたのだ。
それはさておき。
「……………」
何でいるのかという私の問いに彼は答えず、どこで拾ってきたのか分からないゲーム機をピコピコと鳴らしている。…拾ってきたのだろうか、それとも持ち主から
藪を突いて蛇を出したくないためゲームの出所は気になるものの無視をすることに決めた。床一面に散らばっている本をなんとか避け、この部室に一つしかないソファに座る。年季の入ったソファが軋んだ音を出す。
沈黙が部屋を包む。
気まずい。めちゃくちゃ気まずい。
ケンマくんはゲームしてるから気まずくないだろうけど、私はすることが何もなさすぎて気まずい。なんなら殺し合った奴が同じ空間にいるのが気まずい。
てかこの人外に気まずいなんて感情あるの?
取り敢えずスマホでも見て先輩が来るまで耐えよう。スマホはいつでも沈黙の味方である。
私はカバンからスマホを出し、ニュースサイトを開く。
『⚫︎▼◾︎動物園でパンダ誕生!』
『あの芸能人が語る、最もヤバかった現場』
『アイドルグループ、ドーム公演決定!』
『今期の名作ドラマ1位は!?」
淡々と画面をスクロールする。あまり興味の湧かない記事ばかりだ。別に事件などが起こって欲しいとは思わないが、やはり人間は刺激を求める生き物なので。
スクロールしていた指がピタリと止まり、私は一つの記事をタップする。
『増加する行方不明者、原因は?』
「へぇ、行方不明者増えてるんだ」
全く同じことを自分も思ったのでうっかり声に出しちゃったのかと思ったがその声が男性特有の低い声だったので違うと判断し、いつの間にか横にいるゲーミングチェアに座っているケンマくんをジトッと見る。
私のことなどお構いなしにこの男はスマホを覗き込み、勝手にスクロールして記事を読んでいく。何を言ってもこの男は聞かないだろうなと思い、私も記事に目を戻す。
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『増加する行方不明者、原因は?』
都内で増加する行方不明者。
先月だけでその数は80名に及ぶ。
今月に至っては10日しか経ってないにも関わらず、すでに先月の数を超えている。警察は対策を取るとは宣言したものの何も動きがない。打つ手がないという事であろうか。
最後の行方不明者は町空みゆきさん(17)。一昨日、友人と下校している際に行方不明となったそうだ。友人はすぐに警察に通報したにも関わらず、未だにみゆきさんは発見されない。
一刻も早く解決せねばならないこの問題に警察がどう対応するか、今後の彼らに注目していかねばならない。
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随分とまぁ警察にチクチクと嫌味を語っている記事だ。ライターが警察アンチなのだろうか。
しかし、行方不明。以前なら何かの事件に巻き込まれたのではないかと思うだけだったが、今は違う。人智を超えたものを知ってしまったので。
隣のケンマを見つめる。ケンマくんも言いたい事が分かったのか、ムッとした顔で私が聞くよりも先に否定をしてきた。
「俺じゃないよ」
「説得力がない。こんなことできるのあんたみたいな怪異しかできないでしょ」
「俺だったら遺体発見のパターン。行方不明になんてならないよ」
「…じゃあ他の怪異ってこと?」
「可能性としてはそれは十分にあるね」
頭が痛い。
コイツのような怪異が他にもいるのか。
頭を抱える私を放っておいて、ケンマくんは私のスマホをポチポチとつついている。おい、人のスマホ。
「わぁ、本当に行方不明者増えてるね。今月が始まってまだ10日しか経ってないのに100名だって」
「どこからそんなの分かったの?」
「警視庁のホームページ」
随分デジタルに強い怪異だ。あまり怪異には多才になって欲しくはない。怪異がなんでもできるようになったらそれこそ人間は絶滅する。
「随分と活発なヤツがはしゃいでんじゃない?」
「大迷惑…」
「…しょうがないからリカは守ってあげる。俺を殺すって言ったんだから、リカが俺を殺せるまでは生きてもらわなきゃ困るし」
「大迷惑………」
善意で守るとかではなく、結局の所己の為に私を守ると言っているのだこの怪異は。殺すって言われたら普通の生き物なら嫌悪感を抱くのがほとんどなのに、コイツときたら「ワッ!マジ?」となるのだから本当に理解が及ばない。珍獣を相手にしている気分である。当ハンターは今すぐにでも猟銃でコイツをぶち抜きたい所存であります。
ガチャ、と部室のドアが開き、特徴的な頭をした見慣れた男が部屋へ入ってくる。
「2人とも居るじゃねぇか。熱心な後輩を持って俺は嬉しいよ」
「あ、先輩。私このサークルやめます」
「ちょっと待ってろよ〜、今お茶入れてやるからな」
普通に無視された。この
怒りでワナワナと体が震えるが、この部屋には残念ながら自己中イカれ怪異と都合の良い時だけ鈍感難聴系ヒロインになる先輩しかいないので誰も気にしてくれない。誰も私を愛さない……。
「ほら、ちょっと寄れ。俺が座るスペースがない」
「私がやめたらこのソファは先輩専用になりますけど」
「2人で分けっこするソファの良さがまだ分からんか…」
「何言ってんだこの人」
やいのやいの言い合いながら、結局この人は隣に座ってきた。渋々私もお茶を受け取りこの状況を受け入れる。ケンマくんはずっとゲームをしており、私たちに微塵の興味も見せていない。
黒尾先輩は一口お茶を飲んでおっさんのような声で「生き返る〜」と言っている。
「そういえば猫ヶ丘団地に行った時のお前の録画のデータ、残ってなかったぞ」
「……はぁ!?どういうことですか!?」
「どういうことも何も、データが飛んだとしかなぁ」
「…………」
絶句。私があんな怖いをして検証をした都市伝説のデータが全部飛んだ?…いや、結構雑に扱っちゃったかもしれない。床に座り込んだ時とか、思いっきりぶつけたような。……原因はなんとなく分かったが黙っておこう。
「と、いうことだから」
「何がということなんですか」
「お前には代わりの検証に行ってもらいマス」
「嫌です!」
荷物を持って「お世話になりました!」と部屋を出ようとするが引きづられて元の位置に戻される。
「先輩が行けば良いじゃないですか!」
「だから俺は忙しいの。泣く泣く諦めてんの」
「ダウト!嘘に決まってる!」
私がどれだけソファの上でのたうちまわってもこの先輩にはこの気持ちが伝わらない。それどころか面白がってこちらを見ている。
「まぁ、安心しろって。今回は1人じゃねぇから」
「?」
「なぁ、研磨?」
「エ」
流れ弾が自分に飛んできたことに驚いたケンマくんが、バッと顔をあげてこちらを見る。目は吊り上がり、如何にも嫌です!起こりますよ!と感情を表情に出して先輩を睨みつけている。
「……クロ」
「サークルに入ったからには活動をしてもらわなきゃいけないからなぁ」
態とらしく申し訳なさそうにする彼には賞賛を贈りたい。どんなメンタルしてんだ。この男、あまりにも詐欺師に向きすぎている。
いや、よく考えるとこの流れは私に良くない。
「え、私ケンマくんと一緒に行動するってことですか」
「そうだな」
「死にたくないから嫌です」
「死なないから大丈夫大丈夫」
伝わらないよぅ…。私のこの涙が先輩には見えてないよぅ…。メソメソと泣いていると黒尾先輩がケンマくんに何やら耳打ちをし、ケンマくんの猫のような目がくわっと開いた。怖い。一体今の間に何が起こったの。
「…はぁ、分かった。リカと一緒に活動するよ」
「よ、男前!良かったなリカ!」
「なんでェ!?」
思わずケンマくんの肩を掴んで揺さぶってしまう。
「な、なんで、行きたくなさそうだったじゃん」
「そりゃ動きたくはないし、行きたくないけど」
「じゃあそれでいいじゃん!?」
「動かなきゃ行けない理由ができたの。揺さぶるのやめて、気持ち悪いから」
グロッキーな顔になったケンマくんを見て揺さぶるのはやめるが、肩は掴んだままだ。本当になぜ?
彼は肩を掴んだ私の手をなぞり、耳元でこう呟いた。
「
「!」
彼の顔を見ると、あの人を人とも思わない意地の悪い笑顔を浮かべていた。目の奥にはナニカが渦巻いている。
三日月のようにニタリと
「言ったでしょ、守ってあげるって」
ね?という彼には善性というものが全く見えない。背筋にゾッと悪寒が走る。恐ろしい、生き物。人の理の外にいる人でなし。
冷や汗が流れる。彼の手を振り払いたいのに、彼が握るからそれができない。彼から目が離せない。
そんな状況を壊したのも、先輩であった。
先輩は私の頭にポンと手を置き、それにハッと我に帰った私はやっと体を動かすことができた。思わず先輩を見上げると、彼は呆れた顔をしてケンマくんを見つめていた。その表情は困った子供に対するもののようだった。
「研磨、香山は今骨折してるんだからお前がサポートするんだぞ」
「…分かった」
何を不服そうにしてるんだ。折ったのお前だぞ。
ケンマくんはそっと私の視線から逃げるように目を逸らす。危害を加えた自覚はあるらしい。
「じゃあお前らに検証して欲しい噂を発表しま〜す」
な〜に〜!?と言える空気ではない私たちが黙って次の言葉を待っていると、黒尾先輩がある画像が映っているスマホを突き出してきた。
それは、
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「…本当にここで会ってるわけ?」
「この駅で降りるってルートには書いてあるけど」
電車で揺られること1時間。
私達は自然豊かで空気の美味しい、都外の田舎へ来ていた。家が一定の距離を保って存在しており、家々の間に位置する畑に生えた野菜が風に靡かれている。
「…どうしたの?」
「おばあちゃんの家がこんな感じの田舎だったから懐かしくて」
「ふぅん」
聞いてきたくせに、あまり大した反応はない。気にはしないが。それよりこちらに興味を持たれる方が厄介なのを私は身をもって知っている為。
小学生までは夏になるといつもおばあちゃん家に帰省していた。素麺や冷やした瓜を家族皆んなで囲んで食べるシーンが夏の記憶として頭に残っている。そういえば、いつからかおばあちゃん家には行かなくなったんだよな。「行きたい!」と言っても親やおばあちゃん達が忙しいだのなんだので中々行けないのだ。
少し思い出に浸ってしまった。さっさと終わらせる為に足を進める。
「確か目当ての池はこの先だったよね。ほら、キビキビ歩いて」
「はぁ……動きたくない」
「アンタがサークル活動するって言ったんでしょ」
「何でそんな乗り気なの…」
「だって人魚見れるし」
そう、勘違いしないで欲しいのだが私たちはこの田舎にサークル活動をしに来たのである。
「なんですかそれ。ただの湖じゃないですか」
黒尾先輩が見せてきた画像を見て私は首を傾げる。
よく見たら幽霊が写っているとか、そういうのでもあるのかと思って目を凝らしても何も異常は見られない。
ケンマくんをチラっと見てみると、彼も首を傾げて「何がしたいの」と先輩に聞いている。
「あ〜、やっぱ写ってないか」
どうやら私達の反応は予想通りらしい。黒尾先輩はスマホをスクロールしながらそう言った。
するとメッセージアプリの通知がなったので、自分のスマホを開くと『オカサー(3)』というグループに一つの記事が送られてきていた。
「何このグループ」
ケンマくんにもどうやら通知は来ていたらしく、スマホを見て怪訝そうな顔をする。かく言う私も、今初めてこのグループがあるのを知った。
「不便だから俺が作っといた」
黒尾先輩はなんでもないようにしれっと答える。
彼は意外と物事を進める時は強引なのである。私がはぁ、とため息をつくと隣からもため息が聞こえた。ケンマくんと初めて心境が一致しているのかもしれない。
私達が記事を読むまで先輩は何も話さないだろう。先輩の思惑通り彼から送られてきた記事を開く。
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『ネットで話題に、消える人魚!!』
この画像はSNSで『やばい、人魚いる』とアップされたものだ。読者の方は人魚など写ってないことに疑問を待ったであろう。しかし初めは本当に人魚が写っておりCGやAIではないかと話題を呼んでいたのだが、なんといつの間にかその人魚が逃げたかのようにこの画像から消えてしまったのだ。投稿者が上げ直した形跡もなく、それがさらに話題を呼んだ。
当ライターは投稿者に連絡を取ることに成功し、聞いた話によると都外の実家に帰省した際に寄った
消えた人魚は一体どこへ行ったのか?
我々が見たものは一体なんだったのだろうか?
謎は深まるばかりである。
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「また胡散臭い記事…」
「でもこれはネットでかなり物議を呼んだぞ。俺も見たし、人魚」
「え、本当に写ってたんですか?」
「嗚呼、初めて見たな。あんな感じなんだ」
ちょっと羨ましい気持ちが生まれる。人魚といえば女の子なら一度は出会うことを夢見たであろう。泡になって消えた人魚姫。王子様と結ばれた人魚姫。色んなパターンの人魚姫があるが、どれも女の子の憧れである。
「………」
ケンマくんは先ほどから食い入るように画像を見つめている。怪異として何か感じるのか。それとも同類としてのシンパシーなのか。
黒尾先輩がスマホをタップして、画面に映ったマップを見せてくる。そこには『
「まさか、ですけど」
「そのまさかだよ。2人にはここに行ってもらいます」
「俺、やっぱりパス」
遠出したくない…とゲーミングチェアにズルズルと彼は沈む。だが、私は割と乗り気だった。
「それ、交通費は部費ですよね?」
「ん?そうだな」
「なら行ってもいいですよ」
「おおお?」
人魚がいるらしい、というだけなら危険性は感じない。ケンマくんのようなおっかない死者まで出ている都市伝説なら即断っていたが、投稿者はちゃんと生還している。それなら別に行ってもいいかな、という気持ちが沸く。後は人魚を見てみたい好奇心が占めている。
「お前…やっとサークルの一員としての自覚が生まれたのか…!」
「この前の都市伝説よりはマシですし…」
バシバシと背中を叩く先輩に痛いと苦言を漏らす。
サークルの一員としての気持ちは
「香山がこう言ってるんだ。研磨、お前も着いていくんだぞ」
「えぇ〜〜…」
別に私だけでもいいけど。なんで先輩はセットみたいな扱いをするんだ。ケンマくんがいるのといないとじゃあ安全性が段違いである。勿論、いない方が高い。唸っていたケンマくんが顔を上げる。
「……分かった。いつ行けばいいの」
「今度の休日だな。流石に大学は優先だから」
「そうですね。私
「ルートはグループに送っとくぞ」
スマホを
「最近なんか行方不明者が増えているらしいから、2人ともお互いに逸れないように行動しろよ」
池に続く道を歩く。
パキパキと落ちている枝を踏む音が響く。ケンマくんは器用にゲームをしながら私に続いていた。
池に向かう途中で付近に住んでいるお婆さんに出会ったので
「人間は殺せるくせに怖いの?」
と、彼に言うと「怖いわけではないが、明るいタイプの人間は合わない。特に公衆電話に噂を試しに電話かけに来るタイプ」と答えた。随分と具体的な答えだ。
じゃあ私はどうなのか、噂を試しに行ったけど?と聞くと彼は少し黙った後に「…さぁね」と猫みたいな目を細めた。私は既に彼を理解するのは諦めていた。好奇心に殺されたくないからである。
しばらく歩くと、視界が開けた。
澄んだ水でいっぱいの大湖が目の前に現れる。
「これが
カメラを手に持ち、動画撮影を始める。ケンマくんはいつの間にかゲームをやめており、
暫く動画を回し、ケンマくんに質問をする。
「どう、なんか感じる?」
「何かって?」
「同類センサーみたいな」
「何ソレ」
彼に向かって軽口を言いながら、湖の際まで歩く。落ちないでよ、と言う彼に対して大丈夫だと返す。
画面越しに湖を見ていると遠くで水が跳ねたような気がした。私は魚でも跳ねたのかな?と思った。しかし、先ほどの水の跳ねた地点からもっとこちらに近い位置で、大きなヒレが水面を叩いたのが見えた。
「エッ!?」
思わずぐるんとケンマくんを振り返ると彼も驚いたような表情をしていた。
「このパターンでガセじゃないことあるんだ…」
なんて呟く彼に同意を返す。
暫く撮っていたが、水が跳ねたり水面からヒレが見えたりなどはしなかった。だが映像に収めれたのは中々上出来ではないか?「よくやった!」と喜ぶ黒尾先輩が脳裏に映る。別に彼を喜ばせたいわけではないが。
人魚を撮れたことによる興奮から頬が紅潮する。
ケンマくんは何喜んでんの…と呆れた様子を見せているが「人魚は女の子の、いや人類の憧れなんだぞ」と言うと興味なさそうに「そう」と返事した。
撮れたので撤収しようと、私とケンマくんは
「ッ後ろ!!」
尋常じゃない彼の様子に私も急いで振り返ろうとするがそれは叶わなかった。
突然冷たい水に包まれ、息ができずに口から泡が溢れる。一体何が私を引き摺り込んだのか。そう思い目を開けると。
銀色の鱗が輝く男が目の前に居た。
湖に差し込む日の光が反射して輝く銀色の髪。
こちらを見つめるエメラルドの瞳はキュウっと縦に割れている。
思わず見惚れてしまうが、彼の下半身を見て言葉を失う。それはあまりにも長い魚の
息を呑む私を人魚が無言見つめ、ぐわっと大きな口を開ける。あ、食われる。そう思い体をバタバタと暴れさすが人魚の
ドボン、と何かが湖に落ちてきた。
驚いた様子の人魚が私に齧り付くのをやめる。そして落ちてきたものが何かと不思議そうにそちらを見る。私はこの状況で何が落ちてきたか分からないほど馬鹿ではなかった。
落ちてきたケンマくんが人魚の腕に包丁を突き刺す。
金切り声の様な悲鳴が水中にも関わらず響き渡る。思わず耳を押さえてしまう。私に巻き付いて居た人魚の力が抜けた。ケンマくんが私を掴み水面へと引っ張り上げる。水中なのに彼が何かを怒鳴っていたのは分かった。
「ゲホッ、ゲホッ」
酸素を取り込み、水を吐き出す。
ケンマくんも私もすっかりびしょ濡れになってしまって居た。彼は地面にゴロンと寝転がり私に向かって、
「アレが、憧れなの?」
と、言ってきた。
馬鹿言え。あんなおっかないのが憧れな訳あるか。深呼吸した後、否定の言葉を吐こうと口を開くと。
私の目を前を大きな影が覆う。
先ほどの人魚が私達が陸地にいるにも関わらず身を乗り出して私の前で手をついて見つめてきて居た。その手からは血が流れており、痛々しく見える。
血が流れて激昂しているのか、それともこちらを見定めているのか。無表情の人魚は喋らない。
「………」
沈黙の睨み合いが始まる。
地面に寝転んでいたケンマくんがいつの間にか体を起こし、包丁を握って人魚を見つめている。
10秒だったかもしれないし、1分以上経ったのかもしれない。長く感じた沈黙を終わらせたのは、人魚の方であった。
「い」
「………い?」
「いたいぃ〜〜〜〜」
人魚は美の権化とも言えるその表情を崩し、エメラルドの瞳からポロポロと涙を溢した。泣き出した人魚に私達はギョッとするが、人魚はさらに大きな声で泣き始めた。
「うわぁ〜〜〜〜ん!」
「ご、ごめん。痛い?血止めた方が良いよね」
びしょ濡れの上着を脱ぎ、人魚の傷を抑える。濡れているのは我慢して欲しい。いや、我慢して欲しいとかじゃなくない?先に襲ってきたのこの人魚じゃない?
ほとほと困り果て、ケンマくんに助けを求める様に視線を送る。彼も困っている様で、さらに泣かれたからか少しバツが悪そうだった。
「オレ」
「う、うん」
「ちょっと齧るだけのつもりだったのに〜〜〜!」
「ダメに決まってるだろ!!」
人魚の頭を叩く。だってぇ、と泣く人魚に呆れてしまう。このまま置いていくのもなんだか憚られるので、私達は人魚が泣き止むまで待った。
②へ続く
