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最近ため息が増えた
理由も分かっている
理由が分かれば対処出来るのが世の中の流れだと思っていた
でもこれは
もうどうにも対処のしようがない物だ
流れを変える事が出来ないのだと
思い知らされる
「やだN!こんなとこでっ‥何、考えてんのっ…」
ぐぬぬっ、という鞍明の歯を食いしばる音が聞こえそうなほど険しい顔をして、鞍明がNの顔を押し返している
「何ってキスじゃないか」
その手を物ともせずに、Nは更に顔を近づける
「鞍明は僕が嫌い‥?」
「‥ず、ずるっ‥んぅ」
見たくはない光景に僕は眼鏡のブリッジを押し上げて視界から逸らす
鞍明を幼い時から思い続けてきた
それをポッと出のあんな男にさらわれ、見せつけられ、僕は一体どうしたらいいんだろうか
「チェレ~ン!」
間の抜けた幼なじみの声に振り返れば、不思議そうに僕をみている
「どうした、ベル?」
「アイス、溶けちゃうよ?」
両手に持ったヒウンアイスを見つめてベルは言う
4人で再びポケモン図鑑の完成させる旅に出て、今はヒウンシティにて休憩中
二人きりにさせてあげようというベルの提案で買い出しを受け持ったのだが…
形容する言葉が見つからない‥
「鞍明」
近づいて呼び掛ければ、必要以上に接近していたNを突き飛ばして鞍明は振り向く
慌てたってもう見てるよ
なんて言える訳もなくて、ごく普通の態度でアイスの入ったカップを渡す
「鞍明はストロベリーが好きだったろう」
「ありがとう!チェレン」
その嬉しそうな顔を見ただけで、モヤモヤしたのも吹き飛ぶ
「いや、ベルがいきなりアイスが食べたいって言うからさ。どうせならと思ってね」
「えへへ、だってヒウンアイス美味しいでしょ?」
僕の後に続けて笑いながら、ベルはNにバニラ味を差し出す
「僕の分も?」
「うん!Nさんは何が好きか解らなかったからバニラにしたんだけど‥」
「ありがとう、ベル」
受け取るNは女子が喜びそうな笑顔を浮かべて笑った
別にそれにどうにかなるベルではないけども、世の中こういう奴が得をするんだろうな、なんて嫌な考えが頭を過ぎる
「ねぇ鞍明、一口ちょうだい」
耽っていた僕の隣で、Nが鞍明にそうねだる声で我に返った
「えぇー?‥仕方ないなぁ…はい」
仕方ないと言いながら、鞍明はNの口にアイスを差し出す
「あぁ…いいね。ちゃんとストロベリーの風味があって」
満足げにNは何度も頷く
今度は僕もストロベリーにしようかな、なんて呟きながら
そんなNの声を聞いて鞍明は自分のアイスを見つめている
Nにあげようか悩んでる事なんて一目瞭然
「鞍明」
僕が声かけるより早く、Nがその名を呼ぶ
「それは、チェレンが鞍明に買ってきたんだからね」
言われて鞍明はNを見上げて、何故解ったのか、と問い返す
見てればわかる
「鞍明は表情に出るからすぐ解るよ」
Nが僕の胸中と同じセリフを鞍明に返して、自身のアイスにスプーンをつきたてた
「ねぇ、チェレン。Nさんって鞍明の事ホントよく見てるよね」
こっそり呟かれたベルの言葉に思わず反論しそうになる自分を制して、僕はストロベリーのアイスを口に放り込む
僕にその権利はない
失恋の痛手と
誰にも言えない苦しみと
もう色んな物がごちゃごちゃになりすぎて、アイスの味なんて解る訳もなかった
ヒウンシティを出てライモンシティへ
砂嵐は幸いにも酷くはなく、順調に進めた方だった
「うー…砂でザラザラ‥ねぇ鞍明、お風呂入りたいよねぇ‥」
「うん。でもシャワー施設くらいしかないんだよねぇ…」
なんて女子の会話を聞きながら、僕も砂を払って一息
砂嵐の中で、二人が手を繋いでいたり
さりげなくNが鞍明を庇って前を歩いていたり
道路について視界がクリアになった時、鞍明が慌てて手を離したのを見逃したりは出来なかった
我ながら損な性格だと思う
「じゃあ、各自シャワーを浴びて、自由行動にしようか。補給とかやりたい事もあるだろうしね」
そう提案すると、鞍明達は喜んでシャワー施設へ足を向けた
「N、君はどうする?」
聞くと鞍明を見送っていたNが振り返る
「僕も髪に砂が絡んだからね。シャワー施設へ行ってから‥とは思ってるよ」
「そう。じゃあまた後で」
出来れば会いたくないとも言えないし、僕は無難な言葉を選んでNに背を向けた
一緒にシャワー施設に行くくらいなら暫く気持ち悪い方がいい
「チェレン」
「‥何だい?」
「僕は鞍明をちゃんと守るよ」
「っ…」
「だから、そう警戒しないでくれないか?」
僕だって、考えを変える事は出来るんだから
そう付け足してNは言う
僕だって馬鹿じゃないからそれくらい分かってる
もうNが以前とは違うって事くらい
「…分かってるよ」
Nに敵意を向ける事が筋違いだって
「‥僕は鞍明が好きだ…だから君といるのは僕にとって拷問に等しい。解るだろ」
Nは驚いた顔をして帽子の鍔を下げると『すまない』と言った
自分から敗北宣言をさせられて、相手には謝られ、なんて惨めなんだろうかと自嘲する
「鞍明達には言ってなかったけど‥僕はこれからポケモンリーグに行くつもりだ」
自分自身を試したいのもある
でも何より堪えられない
「N、悪いけど、僕は君と解りあえる気はしない」
「そう‥残念だね」
少しの間があってNが答える
僕は残念だなんて思わない
世の中総ての人間が分かりあえるならそんな素晴らしい事はない
理由が分かっても対処法がないこの恋みたいに
どうにもならない事が世の中にはある
「鞍明とベルに、伝えといてくれないか?先に行くって」
「いいのかい」
疑問形にない質問
分かってて聞くんだからNもタチが悪い
「構わないさ」
直接言えば、勘のいい鞍明は何かに気づいてしまうだろうし
ベルはとにかく猛抗議してくるだろう
始めから分かってた事だ
いつまでも綺麗な四角ではいれないって
「N、鞍明を泣かせるなよ」
泣かされたって鞍明はNが好きなんだろうな、なんて思いながら
きっと泣かせるよりも鞍明を笑わせる事も知っていて
「気をつけて」
なんて言うNに背中を向けたまま手を上げて
僕はその三角になってしまった点から外れた
いつかまた
四角になるのかなんて思いながら
END
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【あとがき】
6100countのキリリク
鞍明様からいただきましたチェレン横恋慕でした
もしかしたら、ShortStoryのKissme みたいなテイストをお望みだったのかな?なんて途中で思ったのですが、チェレン視点で進めてみました
Nとヒロインでバカッポーにしてチェレン←ベルもありかと思ってはいたんですが、誰視点にすべきか迷って辞めました
チェレン横恋慕切夢、みたいなテイストですいません(__)
お受け取りいただけると嬉しいです
2010/10/21