meet,meet,Again
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Nが帰ってこない
これで何日目だろうか?
カレンダーを見るのが嫌になるくらいなのは確かだ
小さくため息をついて、マグカップにココアを用意する
Nがいないからコーヒーはいれない
本当はあまりコーヒーは好きではないから
ただ、Nがいつも喜んでくれるから一緒に飲んでいただけ
Nがいない
それだけで生活のバランスが崩れてしまう
二人分作ってしまう料理
呼び掛けてしまうくせ
独り寝の寂しさ
離れてみたらこんなにも一人である事を後悔するのに、二人でいるとそれが当たり前のように感じてしまうのは何故だろうか
マグを両手で持って暖を取りながら、もう何度目かも解らないため息をつく
何であんな事を言ってしまったんだろうか、と後悔したところで後悔先立たず
何よりもそれは本心である事に違いないのだから、尚の事タチが悪かった
最近こんな事を繰り返している自分達は、もうダメなんじゃないかとすら思えて、甘ったるい匂いのココアをテーブルに置くと、紫粋はソファーにもたれて天井を仰いだ
あんな酷い事を言っておいて寂しいだなんて言う権利は私にはない
そう言い聞かせながら、紫粋はあの日の事を思いだしていた
「何で解ってくれないの!?」
感情的に声を荒げたのは紫粋の方
「解り合えない事だってあるけども…やっぱりNの言ってる事は極端過ぎるよ!」
「別に‥解って貰おうだなんて思ってないよ」
感情的になった紫粋にNのセリフが突き刺さる
「何でまたそうやって話を終わらせちゃう訳…それじゃあ私達、何で一緒にいるのよ!?」
自分が抱いていたクッションを投げつければ、Nが片手でそれを制する
それから小さな声で『なんでだろうね』と呟いた
今から思えば少し寂しげで困った顔で
でもあの時は、Nがお互いの価値観を擦りあわそうともしない事に苛立っていて、そんな事には気づく事すら出来なかった
「‥解り合えないなら、一緒にいたって無意味じゃない…」
『そんな事ない』って一言言って欲しかっただけ
全部が本心じゃないのを見透かして欲しかっただけ
なのにNの返答は…
「そうだね」
今までの中で一番冷たい返事
キャップを被って部屋を出ていくNにかける言葉もなくて
それよりも、解ってもらえない苛立ちの方が先行して『引き止める』なんて考えもしなかった
喧嘩をしたら出ていくのはいつもNの方
たまには探しに行くけど、基本的にはNが自主的に戻るのを待つだけ
いつだったか探しに出かけて遭遇した時に再度喧嘩の続きを始めてしまってからは家で待つ事にしている
「でももう5日だよ…」
再び漏れる溜息
いくら頭を冷やすにしたって時間が経ちすぎてる
もしかしたら、もう帰って来る気なんてないんじゃないか‥そんな考えが何度も頭をよぎって
そもそも、付き合おうと言った訳でも、一緒に住もうと約束した訳でも無い二人が一緒にいた事がおかしい
あの戦いの後で、あえて触れなくてもお互い歩み寄れるんじゃないかと勝手に思い込んでいた
思えば、あの環境で生きてきたNの手を引いてあげなきゃいけないのは自分だ
素直に思った事を、なんて言える訳もない
不器用なNの心を解るのは自分だけだなんて
「待ってちゃダメだ‥きっとN…」
鳴らしても応えないライブキャスターを手に紫粋は立ち上がると、急いで鞄を取って家の鍵を鷲づかみ、玄関へと急ぐ
一分一秒だって惜しい
ちゃんと伝えたい
Nがいて嬉しい事
Nが好きだって事
夕陽も完全に海に沈んで、残り火のような朱も藍に飲まれていく
ポケモンセンターを転々としながらイッシュを回って、いっそ紫粋が来る事も出来ないような他の場所へ行けばいいのに、未練たらしくイッシュに留まっている
迎えにきてほしい、なんて思いはしないけど
きっと自分がいなくても平気な顔をしているだろう紫粋を想像して溜息
溜息をつくくらいなら帰って傍にいればいいのに、傍にいてもまた皮肉めいた事しか言えない自分がいるのを解ってNは苦笑した
大事にしたいとは思うけど、紫粋の意見に賛同出来ない事もあって『違うなら仕方ない』と諦める僕に紫粋はいつも声を上げて反論する
どうしたら彼女が納得いくかなんて解るわけもないし、僕の考えが紫粋を怒らせてるなら言わない方がいいに決まってる
元々、僕たちは白と黒で真反対を向いていた
それが混じろうという事自体無理がある
「‥何で僕は自分に言い訳してるんだろうか」
ふいに感じた疑問を口にして更に戸惑う
出てきた事をまだ納得していないのだろうか
『解り合えないなら一緒にいる意味がない』
その言葉には同意できたから出てきたはずなのに
本日何度目か解らない溜息と共に帽子の鍔を下げて、『王だった頃の自分ならこんなに迷ったりはしなかった』と自嘲して、今日の宿であるポケモンセンターへと踵を返した
「Nっ‥見つけた!!」
思わぬ声に振り返れば、ポケモンが地面へたどり着くよりも早く地面へ降りた紫粋がNへ駆け寄る
肩で息をついて紫粋は、Nをもう一度呼ぶ
髪も乱れて
服も汚れて
思わず『大丈夫?』と声をかけようとしてNは言葉を飲み込んだ
「‥何の用?」
極力冷たく、極力感情も見せないように
「N‥帰ろう…?」
「どこに?僕に帰る所なんて無いよ…君が奪ったじゃないか」
言う必要も無い言葉だと解っていて、紫粋の心をわざとえぐる言葉を選んで
この先僕がキミを傷つけないように
「僕とキミは相容れない」
告げてみれば案外心は楽なもので、手を強く握りしめた紫粋に背を向ける
これでいい
昔に戻るだけだ
何度も心の中で繰り返せば、そのまま紫粋を放っておくことは造作もない事だった
予想外に
背中に温もりを感じるまでは
「っ‥お願い…行かないでっ…」
強く抱きしめられて、この先の最善の行動が予測出来なくなる
「私、Nに甘えてた。何言っても受け入れてくれるって、勝手に解ってくれてるって思ってたの」
腰に回された手が更に強くなって、逃げる事なんて出来ないと思ってしまう
「Nが好き」
ごめんなさい、と紫粋が小さく呟いて
何かを思うより先に口にした言葉は自分でも意外な物だった
「‥初めて、引き止めてくれたね」
紫粋の手を解いて向かい合えば、紫粋もきょとんとした顔していて
「‥引き止めて…良かったの…?」
「うん」
頷けば紫粋は途端に涙を溢れさせて何度も『ごめんなさい』と言う
泣かないで、と涙を拭えば更に泣いて
どうしてキミがこんなに愛しいのかと思い知らされる
「謝らなきゃいけないのは僕も同じだよ‥キミの心を汲もうともしなかった‥ごめんね」
未だ泣いている紫粋にキスをして、両手で彼女の顔を包めば、僕の手に手を重ねて嬉しそうに頬を寄せる
「貴方がいない家は凄く虚しい…一緒に帰ってくれる‥?」
まだ不安げに尋ねる紫粋
尋ねたいのは僕の方
「僕の帰る場所にしてもいいの?」
勿論、と頷いた紫粋を強く抱きしめて、久方ぶりに安心感を得て張り詰めてた空気が出ていく
「‥酷いこと言ってごめん。来てくれて凄く嬉しいよ紫粋」
「嬉しい?」
「うん」
不思議そうに僕に問うて、紫粋はいつぞやに喧嘩が再発した時の事を話した
「ねぇ、N。喧嘩って、相手が好きだからするんだね…解って欲しいし、解りたいし‥だからNに解らなくていいって言われたら悲しい」
「あれは‥」
言い訳しかけた僕に紫粋がキスをする
驚いて黙った僕を見て紫粋はニッコリと笑う
「うん。解ってる。だから‥少しずつ、話して欲しい」
Nが感じた事
Nが思った事
Nの全部
欲張りかな?とおどけた紫粋に首を振って、僕からキスをする
「じゃあ早速いい?」
「何?」
「紫粋が好きだよ。僕とずっと一緒にいて」
言うと紫粋は何度も頷いて僕にしがみつく
言えなくてごめんね、と言えば紫粋はフルフルと首を振る
思えば、最初にお互いの気持ちを確認して以来、僕から口にした事はなかった
彼女がくれる『好き』の言葉に甘えて
紫粋を不安にしていたのは僕だ
「N、好き」
「僕も好きだよ」
ギュッと抱きしめて、それからもう暗くなった空に気がついて紫粋の手を引く
「今日はもう暗いしここに泊まろう」
旅してた頃を思い出すね、と紫粋が笑って
紫粋がいて変わっていく自分も悪くないな、なんて思いながら、彼女の手を強く握った
握り返してくれる心地よさを感じて
僕たちはもう二人で一つなんだと心のどこかで感じていた
END
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【あとがき】
紫粋様よりのリク、すれ違いから甘々でした
甘‥くなったかは毎度の事ながら不明ですが、すれ違い部分を書いてたら長くなってしまいましたorz
お受け取りいただけましたら幸いです(__)
今回のタイトル『meet』は英語で『擦れ違い』という意味もあるそうで(by携帯辞書)
恐らく道端ですれ違う、出会う事前提の意味なんでしょうけど使う事にしました
今回の個人的好みの台詞は『帰る場所にしてもいいの?』です
Nのセリフでどうしても入れたかった物です
2010/11/12