月夜の願い
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いつかさよならを言う時が来て
その時キミが
どんな顔をするのか
簡単に予想出来てしまうから嫌になる
そんなにも
この場所に慣れてしまったのかと
「Nさーん!こっちこっちー!!」
散歩中の僕に声をかけるのはベル
1番道路の草むらの中で僕を手まねいている
「どうしたんだい?ベル」
「いーから!こっち来て下さい!!」
珍しく強引な物言いに興味を感じて僕は素直にそちらへ向かった
「何だ‥っわ!?」
いきなり手を引かれて草むらにしゃがみこむ
目の前にはベルの顔
伸び放題の草が顔をチクチクと刺して多少居心地は悪かったが、ベルのイタズラめいた顔に何かあると感じて黙って見つめ返した
「Nさん、最近こいしが何か欲しがってたりしませんでしたか?」
「唐突だね‥」
「いいから!無かったですか!?」
「…うーん‥鞄…かな?最近ボロになってきたって言ってたから」
こいしの言葉を思い出しながら言えば、ベルは顔をパッと輝かせた
「何なんだい?」
「ナイショでーす!」
すくっ、と立ち上がったベルはそれだけ言うと草むらから飛び出して行く
今のは何だったのか、と悩む僕の背後でこいしの声がした
「ベル!N見てない?」
「Nさんなら草の中ー!」
走り去って行くのか遠退くベルの声
「草の中って‥…N、いるの?」
呼ばれて何とも出にくい状況だと思いつつ、僕は草むらから顔を出す
「ベル、何か企んでたでしょう?」
一瞬だけ呆れたような顔をして、それから諦めにも似た苦笑い
「企んでた‥のかな?僕にはよく解らないよ」
ガサガサと草をかきわけて近づけば、こいしの『ふーん』という返事が聞こえた
「それで?こいしは僕に何の用?」
「お昼ご飯、出来たから」
もうそんな時間かと言われて気づく
「Nが好きなのにしたよ。行こう?」
当たり前のように差し出される手
当たり前のように握り返して
「楽しみだよ」
なんて当たり前のように言う
そうするとキミは
僕の腕に頬を寄せて嬉しそうに笑う
当たり前になってしまったこの温もり
ベルの企みが何だったのかが分かったのは2日後の話
夜になってチェレンから呼び出され、こいしと共にチェレンの家に向かう
部屋に通されて直ぐに鳴ったクラッカー
机の上のケーキ
「こいし、今日はキミの誕生日だったのかい?」
聞けばこいしは首を横に振る
「私の誕生日は来週‥」
戸惑うこいしにチェレンとベルが悪戯めいた顔で目を合わせて、わざとらしくチェレンが咳ばらいをする
「N、キミの誕生日だよ」
何を言われたか解らずに固まると、ベルが火のついたロウソクが立ったケーキを差し出した
よくある板チョコには『Nお誕生日おめでとう!!』とあって、更に戸惑う
「こいしから君の誕生日が解らないけど、お祝いしたいからどうしたらいいかって相談されてね」
「来週はこいしの誕生日だけど、チェレンは家族旅行でいないからお祝い出来ないし、どうせなら前倒しにして、Nさんも一緒にお祝いしたらどうかと思って!」
チェレンの手で新しく添えられた板チョコには『こいしお誕生日おめでとう!!』とある
「二人一緒の誕生日って素敵じゃない?」
「二人で消してよ、ロウソク」
矢継ぎ早に言われて戸惑いながらこいしを見れば、照れながらも嬉しそうに笑って、僕の手をギュッと掴んだ
ロウソクを吹き消して、ジュースで乾杯
小さい頃の思い出話から、最近の事で笑いあって
二人からプレゼントを貰って
片付けはチェレンとベルがするから、と家を追い出されて
僕はこいしと一番道路の砂浜で月を見上げていた
「お誕生日、迷惑だった?」
それまで黙っていたこいしがふいに口を開く
「いや、嬉しかったよ。もしかしたら僕の記憶の中では始めてだったかもしれない」
産まれてきた事を祝われた事があったのかすら思い出せない
不安げに見つめるこいしを抱き寄せて、ゆっくりと顔を近づける
その唇に触れかけて、僕は躊躇った
「…N‥?」
「‥…こいし‥僕は…」
こいしがフルフルと首を振って聞きたくない、と言う
賢いキミだからバレてはいると思ったけども
「ごめんね」
「謝らないで!」
とめどなく溢れるこいしの涙を指先で拭うと、こいしはその手を払って哀しく笑う
「…狡いよ‥」
「‥うん…」
知っている
さよならを言わなきゃいけない時に
こいしの心にピリオドを打てずに
そんなもの打てないでいてくれるほうがいいと思っていて
「‥もっと狡い事してもいい?」
聞いて頷きもしないうちにキスをする
深く貪って
何度も重ねて
「キミと一緒には、行けない‥」
なのに
キミの心に僕を残していて欲しいと思ってしまう
「あの時キミは僕をここに連れてきて、やり直せる事を教えてくれた」
でもね
やっぱりそれではダメなんだと
尚更理解してしまった
「もう‥帰ってこないの?」
「解らない」
僕に縋り付かないのは、こいしの優しさ
こいしの強さ
それを利用して僕はここを出る
「‥いつ?」
「まだ、決めてない。でも近いうちに」
そっか、と俯いてこいしは自ら涙を拭う
そんな強さに僕は憧れる
それがどんな虚勢だとしても
「行く時は、せめて見送らせてね」
無理して笑うこいしには答えず、唇を重ねる
強く僕を引き寄せて応えるこいしの精一杯の我が儘にだけ応えて
息が切れるくらい何度も
痛くなるくらい強く抱きしめる
ごめんね
さよならは
言わないで行くから
温かくて居心地の良い場所で生きる事を許してくれたキミに
せめてもの愛情
「‥お願いだから、僕を忘れて」
END
+++++++++++++++++++
【あとがき】
どうなんでしょうか‥コレ…←
フリーリク企画でこいし様よりいただきました切甘夢でした
特に細かいシュチュも頂きませんでしたので、好きに書きました
今回は、最後のシーンでNが『さよなら』を言わなかったパターン
ヒロインが引き止め&説得できた(その余地があったかは別てして)前提です
幸せな時間を過ごせば過ごすほど、場違いな自分に気づく
いつかはこの場所を出て、違う形でやり直す必要がある
もう少し、もう少し…そう思う度に時間だけが過ぎて、と
なので今回はNもヒロインも少しばかりドライな感じになりました
切9割、甘1割…もあればいいかな、な割合になってます
個人的にはちょっとお気に入りです
こんな形ですが、こいし様、お受け取りいただけましたら幸いです
次はキリかN以外のフリーリクか悩み中です
2010/11/7