追いかけるから、優しくして
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「‥‥」
それはそれは
この世の天敵であるGが発生したのを見たような
出来れば一生遭遇したくない
そんなニュアンスを盛大に伴った顔で田中は真正面にいる緑を見遣った
対してその緑‥Nは嬉しそうに微笑みながら両手を広げていた
「田中!待っていたよ!」
噂のヒウンアイスを食べたくてジムバッジを手に入れてから急いでやってきたのに、まさかこんな事になるとは思いもしなかった
アイス屋の店員が
Nだなんて
ラス1を取れた事で浮かれて気づかなかった自分自身に心の中で舌打ちしながら、田中は逃げ出す機会を伺っていた
アイスは食べたい
だがコイツは嫌だ
そもそも神出鬼没なるNを避けて通る術があるのかは謎だが、買いに来るかも解らないアイス屋の店員に扮しているとは盲点‥いや、考える事は不可能だった
「キミの事だから必ず来ると思っていたよ」
カップにする?コーンにする?
それとも僕と添い遂げる?
田中の思考に反してNは田中に問い掛ける
思わず思考が停止しそうな最後の質問に頭痛を覚えながら、田中は深いため息をついた
思えば、アララギ博士にポケモンを貰い、念願のトレーナーになってからの田中の男運は最悪だった
親友だと思っていたチェレンには事あるごとに因縁をつけられ
憧れのエリートトレーナーはただ自己陶酔が激しいだけのナルシストで
大人なはずのトレジャーはピーターパンシンドロームの典型例
トレーナーになって世界を回れば、素敵な出会いがあると思ってたその儚い期待は脆くも打ち砕かれた
そして極めつけはこれである
SKDN(神出鬼没電波N)
「僕に会えて嬉しいからって‥―」
「全然嬉しくない」
寧ろ最悪
「嫌だなぁ‥最近流行りのツンデレってやつかい?」
どこから沸いて出たこのポジティブ思考
これに渡されるかと思うと幻のヒウンアイスも魅力が失せるというものだ
「‥アイス…もういいから」
今は撤収するしかない
早くアーティーさんに挑戦して次のジムに行こう
店員ならばワゴンを放置して追いかけてはこないだろう
そう考えて進路をジム方面へ変えた時
「田中、キミの為のアイスだよ。はい、アーンして」
目の前に差し出されたアイスの乗ったスプーンとN
ワゴンには普通の人がいて、Nにお礼を言っている
どんな高速移動したらそうなる
田中は更に眉間にシワを刻んでNを睨みつけた
「ウザい」
思わず漏れた本音
人に言うべき言葉ではないのを百も承知で田中は再び繰り返す
「本気でウザい。毎回毎回神出鬼没で現れては訳わかんない事言って、終いには先回りしてるとか…信じられない。ホント気持ち悪いんだけど」
言ってやった
ついに言ってしまった
いくら鬱陶しいからって
人にこんな事を言ったのは初めてだ
若干の後悔と会心の一撃を見舞った満足感にNを見れば、流石に堪えたのか、Nは少し俯いた
あ‥謝らないぞ…
そう心で何度も繰り返し、良心と戦う
ここで謝ったら降り出しに戻るだけだ、と
「解ったら…―」
「嬉しいよ」
「…は‥?」
目が点になるとはまさしくこの事ではないだろうか
この男が放った言葉を理解するのに相当の時間を要した
ウザいと言われて嬉しいという奴がどこにいるというのか
「そんなに僕の愛を理解してくれているんだね、田中。僕は嬉しいよ」
どうやら都合のいい言葉だけを拾って聞いたらしい
田中はやっとここで『言葉が通じる相手ではない』と気づいた
だが
もう遅いという事にも同時に気づく
「やっぱりキミを選んで間違いなかった!」
「いや、間違ってると思う」
間違っていて欲しい
しかし、そんな田中の呟きを完全にスルーしたNに田中のため息など聞こえるはずもない
周囲は忙しく行き交う人で溢れていて、この奇怪な会話に気づく者などいなかった
もうダメだ
そんな諦めの感情が生まれた時…
「田中‥?」
期待と共に振り返れば、それが絶望に切り替わるのに時間は要さなかった
「‥僕は今田中と愛を語らってるんだ。邪魔しないでくれるかい、チェレン」
「僕にはそうは見えないけどね」
チェレンが眼鏡の真ん中を人差し指で押し上げながら言う
えぇ、まさしくその通りです
心の中で同意しつつ、田中は沈黙を守る
「僕には田中が凄く嫌がってるように見えるよ」
えぇ、ホントに
喉元まで出かかった声を飲み込んで、ジリジリと後退する田中
田中はどうしますか?
残る
勝負する
→逃げる
「そうだ田中、せっかくここで会ったんだから僕と勝負しよう」
しかし田中回り込まれてしまった!
「チェレン、勝負なら僕が先だ。僕は今しがたアルバイトをして賞金を稼いだところだからね!」
「なんだN。初めから負ける気でいるのかい?」
チェレンの嘲笑
「解ってないね、チェレン。僕はバトルする事で田中の愛情を確認しているのさ。問題は勝ち負けじゃない」
それに、と一呼吸おいてNは笑う
「田中が旅先で不自由しないようにしてあげるのも、恋人たる者の務めだよ」
「それじゃあ田中に打ちのめされたいドMの変態にしか聞こえないけどね」
色々突っ込みたい事はあるが、今口を挟むのは得策じゃない
Nとチェレンが争ってるうちに逃げるしかない
しかしその方法が思い付かない
再び回り込まれない為にどうするか悩んでいたその時、再び救いの声がする
「あ!田中、チェレン~!」
黄色い何かが駆け寄って来る
チャンスだ
「わ、私、男の人って幼稚で嫌い!それにベルが好きだから!」
「「なっ‥!?」」
嘘は言っていない
幼稚な男は嫌いだ
大人な人がいい
ベルは友達として好き
近づこうとしていたベルに駆け寄ると、その手を掴んでそのままダッシュする
「え?ちょ‥田中!?」
「いいからベル!走って!」
訳も解らず巻き込まれたベルに謝ったのは路地裏の喫茶店で一息ついてからの事
「気づかなかったよ~。SKDN(神出鬼没電波N)いたんだ」
「うん‥もう話通じないレベルじゃなくて…」
ベチャッとテーブルに突っ伏しながらため息
アイスは食べそこねるし
無駄に疲れるし
今日は厄日に違いない
「それで適当な事言って逃げてきて…ごめんね、ベル」
「ううん。私も田中の事好きだし」
あ、友達としてね
とつけたしてベルは笑った
まさかこの先
SKDNの正体を知り
更に粘着される事になろうとは
この時の田中は、露ほども思わなかった
END
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【あとがき】
ギャグって相変わらず得意ではありません←
今回は自爆したので、サイト立ち上げのきっかけになった友人、田中のリクエストを書きました
力の限りギャグテイストになるよう頑張ってみたものの、煉夜の文才の限界にぶち当たってるみたいですorz
ごめん…田中‥(__)
読んでくださりありがとうございました!
2010/10/10
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