炎の中で、何を憶う
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
期末テスト明けの廊下は、いつもより騒がしい。
掲示板の前には人集りができ、歓声と悲鳴が入り混じっていた。
「あった!」
「うわ、まじかよ。」
「思ったより点取れてる〜!」
ざわめきの中、クラスメイトが掲示板の端を指差した。
「うお、やっぱ名前じゃん!」
「また1位!?凄いね!」
少し後ろから歩いてきた名前は、控えめに掲示板を見上げる。
「名前ー!」
クラスメイトが名前に抱きつく。
「今回もトップおめでとう!」
「天才じゃん?」
「いやいや、たまたまだよ。それより平均点上がってたから皆も上がってるんじゃない?」
「そうなのよ!私なんてね――」
自分の話題を自然に分散させる。
いつもの手際。
その流れでクラスの中心の男子が拳を上に上げる。
「よっし!打ち上げ行こうぜ!」
「カラオケカラオケ!」
数人がわっ、と集まってくる。
名前は楽しそうに目を細めながら、1歩後ろに下がった。
「ごめんね、私はちょっと用事があって。」
「えー!また勉強!?」
「さすがに今日は休もうよ〜。」
「ううん、勉強じゃないよ。」
くすっと笑う名前。
クラスメイトはやれやれという顔で仕方無く納得をする。
「ちょっとやることあるだけ。私の事は気にしないで楽しんできてね。」
「そっか、じゃあまた今度な。」
「次は絶対来てよ!」
「うん、ありがとう。」
クラスメイトに手を振って別れ、廊下の人混みから静かに離れる。
足は迷わず、校舎の奥へ。
向かう先は訓練場だった。
夕方の風が吹き抜ける渡り廊下を歩きながら、
名前は小さく息を吐く。
(感覚、戻さないとな。)
誰に言われたわけでもない。
でも頭の中では、もう次の特訓が始まっている。
「…よし、」
人気の少ない通路を曲がり、訓練棟のドアを開ける。
賑やかな笑い声は遠ざかり、代わりに静かな機械音と広い空間が迎える。
ご褒美なんていらない。
息抜きなんていらない。
それが当たり前になりすぎて、苦しい道を選んでいる自覚すら、もう薄い。
訓練場に、乾いた放電音が響き始める。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
あれから何時間が経っただろう。
バチッ――!!
標的に走った電流が弾け続け、焦げた匂い漂った。
「もう1回…!」
小さく呟いたその時。
「待ちなさい。」
名前の肩が跳ねる。
振り向くと、入口に立つミッドナイトが小さな紙袋を掲げていた。
「せ、先生…。」
「全く、無茶ばかりして。」
テストの採点で忙しそうにしているだろうと油断していた。
以前も止められたばかりなのに。
怒られると思った名前は青ざめていた。
ミッドナイトは 名前の手を取り、訓練場の端にあるベンチに移動した。
目の前に差し出されたのは、紙袋。
「差し入れ。甘いのと、塩分あるの。」
「え、?」
紙袋とミッドナイトを交互に見て、名前は言う。
「め、女神様ですか…?」
「いいえ、教師よ。」
袋の中を覗いて、名前の顔が少し緩む。
「ありがとうございます。でも私まだ――」
「休憩しなさい。」
柔らかいけど、有無を言わせない声。
名前は観念してベンチに座る。
ミッドナイトはその様子を見て、ふっと微笑んだ。
「そういえば、成績見たわよ。」
「…あー、」
名前は少し気まずそうに視線を逸らす。
「流石ね。よく頑張ったわ。」
「ありがとうございます。」
誇るでも照れるでもなく、静かな返事。
「努力がちゃんと結果に結びついてるの、教師として嬉しいわ。」
その言葉に名前の睫毛が震える。
「貴女は何一つ、手を抜かないのね。」
ミッドナイトは眼鏡をあげて、名前の隣に腰を下ろす。
「程々にしておきなさいよ。」
名前はきょとん、と驚いた顔をする。
「止めないんですか?」
「止める気はないわよ。貴女が本気なの、知ってるもの。努力は止めないけど、無茶してたら止めるわ。」
「…はい。」
ミッドナイトの真面目な表情に、自然と背筋が伸びる。
「名前。」
静かに呼ばれる名前。
どきりと高鳴る心臓。
「何が、貴女をそこまでさせるの?」
訓練場の機械音が遠くで低く鳴る。
名前は手の中のスポーツドリンクを見つめる。
すぐには答えない。
いつもみたいに軽口も出てこない。
暫くして、小さく笑う。
「…秘密、じゃ駄目ですか。」
視線はまだ前を向いたまま。
ミッドナイトは急かさない。
「いいえ。」
穏やかな声で微笑む。
「でも、いつか話してくれたら嬉しいわ。」
沈黙。
名前はキャップを開けて、一口飲む。
「…強くなりたいんです。」
ぽつり、と落ちた言葉。
「強くならなきゃ、倒せない相手がいるので。」
それ以上は言わない。
けれど、それだけで十分だった。
ミッドナイトは横目で名前を見る。
「そっか。」
否定もしない。軽くもしない。
「じゃあ私は、あなたが一人で走りすぎないように見張る役目になるわ。」
名前は少しだけ目を丸くして、それから笑った。
「それ、とても心強いです。」
「でしょう?」
静かな訓練場に、少しだけ柔らかい空気が流れる。
名前は再び立ち上がる。
ミッドナイトはその背中を優しく見守る。
過去はまだ語られない。
しかし、理由の輪郭が初めて言葉になった日だった。