炎の中で、何を憶う
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店を出ると夜の空気は少しだけ冷たくなっていた。
満腹の安心感と静かな満足感。
二人の足取りは行きよりゆっくりだった。
「さぁて。」
ミッドナイトが軽く伸びをする。
「家まで送るわよ。」
当たり前みたいに言うその声に名前は少し視線を揺らした後、いつもの笑顔に戻る。
「いえ、先生。ここで大丈夫です。」
歩道の分かれ道。
細い道の前で、名前は立ち止まる。
「すぐそこなので。」
「生徒を夜道1人にするの、教師としては減点じゃない?」
「優等生なので加点で相殺してください。」
間髪入れず返す。
ミッドナイトは呆れたように笑いながらも、名前の様子をよく見る。
無理している顔ではない。
「…そっか。ここからは一人で帰りたいのね。」
優しい声でそういうミッドナイトに名前はほんの少しだけ目を丸くして、それから小さく笑った。
「はい。」
短いけれど、はっきりした返事。
「もう慣れてるので。夜道も平気です。」
強がりではない。
本当に“慣れてしまった”子の言い方だった。
ミッドナイトは数秒だけ考えて、ゆっくり頷く。
「わかったわ。じゃあ今日はここまで。」
無理に送らない。
でも、そこで終わらせもしない。
「ただし、」
人差し指を立てる。
「家に着いたら連絡をして。これは絶対よ。」
「え、監視ですか!」
「安否確認よ。」
「…言い方変えただけでは?」
「生徒の心配をするのが教師として当然よ。」
名前はくすっと笑って、軽く敬礼をする。
「了解しました、ミッドナイト先生。」
そして一歩、後ろへ下がる。
「今日はありがとうございました。ご飯も、その…時間も。」
少しだけ言葉を探す間があって、
「楽しかったです。」
その言い方は、飾り気がなかった。
ミッドナイトは優しく微笑む。
「こちらこそ。誘って正解だったわ。」
夜風が、二人の間を静かに通り抜ける。
「じゃあ、また明日学校で。」
「はい。おやすみなさい、先生。」
背を向けて歩き出す名前。
その足取りは軽い。
でも一度だけ、ほんの一瞬だけ、振り返る。
ミッドナイトはまだそこに立っていて、軽く手を振っている。
それを見て、名前は小さくお辞儀をする。
名前の背中が見えなくなるまで、ミッドナイトはその場で彼女を見守っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日の放課後。
人気のなくなった訓練場に、乾いた音が響く。
バチッ――!
雷が弾ける短い閃光。
すぐに消える、制御された出力。
「……よし。」
名前は掌を軽く握って、呼吸を整える。
その時。
「やっぱりここにいたのね。」
背後から聞き慣れた声がした。
名前肩がぴくっと揺れる。
ゆっくり振り返ると、真面目な顔で腕を組むミッドナイトの姿があった。
「…先生ってエスパーなんですか?」
苦笑い。
もう誤魔化す事は出来ない。
「貴女の行動パターンくらい読めるわよ。」
「光栄です。」
軽く頭を下げる余裕はある。
息もそこまで乱れていない。
ミッドナイトは訓練場に入り、名前の前まで歩いてくる。
「昨日あれだけ走ったのに、もう自主練?」
責める口調ではない。
名前は頭をかきながら笑う。
「いやー、バレましたか。」
「バレないと思ってたのかしら?」
「ちょっとだけ。」
「甘いわよ。」
即答するミッドナイト。
名前は観念したように肩をすくめる。
「でも、ちゃんと休養も取ってるんですよ。睡眠時間も、栄養も、ストレッチも。無茶はしないって決めてますから。」
指折り数える仕草を見せる名前。
その言い方は軽いけれど、本当でもある。
壊れない範囲ギリギリを、いつも正確に攻めている。
ミッドナイトはじっとその目を見る。
「…限界の手前で止めるのが上手いのよね、貴女。」
名前は一瞬きょとんとして、それから笑う。
「それは褒められてますか?」
「半分ね。」
「もう半分は?」
「…心配。」
静かに言われて、名前の笑顔がほんの少しだけ緩む。
「大丈夫です。」
いつもの言葉。
でも昨日より、ほんの少しだけ力が抜けている。
「倒れる前にちゃんと止まりますよ。先生に怒られるの嫌なので。」
「それが抑止力なの?」
「はい。かなり強めの。」
ミッドナイトは小さくため息をついて、それから名前の肩をぽん、と軽く叩く。
「今日はここまでにしなさい。トレーニングは継続より回復が大事な日もあるの。」
「…はい。」
素直に返事が返ってくる。
昨日、一緒に食事をしたこと。
帰り際に見送ってもらったこと。
小さな積み重ねが命令じゃない言葉をちゃんと届かせている。
「その代わり、」
名前がにやりと笑う。
「明日はちょっと負荷上げます。」
「何で宣言すんのよ。」
「隠してもどうせバレるので。」
ミッドナイトは吹き出す。
「本当、手がかからないのに目が離せない子ね。」
夕暮れのグラウンドに、二人の笑い声が少しだけ響く。
毎日の鍛錬は止めない。
けれど、ひとりで抱え込むのは少しずつ減っていく名前。
そんな小さな変化が、まだ誰にも気付かれない速度で始まっていた。
満腹の安心感と静かな満足感。
二人の足取りは行きよりゆっくりだった。
「さぁて。」
ミッドナイトが軽く伸びをする。
「家まで送るわよ。」
当たり前みたいに言うその声に名前は少し視線を揺らした後、いつもの笑顔に戻る。
「いえ、先生。ここで大丈夫です。」
歩道の分かれ道。
細い道の前で、名前は立ち止まる。
「すぐそこなので。」
「生徒を夜道1人にするの、教師としては減点じゃない?」
「優等生なので加点で相殺してください。」
間髪入れず返す。
ミッドナイトは呆れたように笑いながらも、名前の様子をよく見る。
無理している顔ではない。
「…そっか。ここからは一人で帰りたいのね。」
優しい声でそういうミッドナイトに名前はほんの少しだけ目を丸くして、それから小さく笑った。
「はい。」
短いけれど、はっきりした返事。
「もう慣れてるので。夜道も平気です。」
強がりではない。
本当に“慣れてしまった”子の言い方だった。
ミッドナイトは数秒だけ考えて、ゆっくり頷く。
「わかったわ。じゃあ今日はここまで。」
無理に送らない。
でも、そこで終わらせもしない。
「ただし、」
人差し指を立てる。
「家に着いたら連絡をして。これは絶対よ。」
「え、監視ですか!」
「安否確認よ。」
「…言い方変えただけでは?」
「生徒の心配をするのが教師として当然よ。」
名前はくすっと笑って、軽く敬礼をする。
「了解しました、ミッドナイト先生。」
そして一歩、後ろへ下がる。
「今日はありがとうございました。ご飯も、その…時間も。」
少しだけ言葉を探す間があって、
「楽しかったです。」
その言い方は、飾り気がなかった。
ミッドナイトは優しく微笑む。
「こちらこそ。誘って正解だったわ。」
夜風が、二人の間を静かに通り抜ける。
「じゃあ、また明日学校で。」
「はい。おやすみなさい、先生。」
背を向けて歩き出す名前。
その足取りは軽い。
でも一度だけ、ほんの一瞬だけ、振り返る。
ミッドナイトはまだそこに立っていて、軽く手を振っている。
それを見て、名前は小さくお辞儀をする。
名前の背中が見えなくなるまで、ミッドナイトはその場で彼女を見守っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日の放課後。
人気のなくなった訓練場に、乾いた音が響く。
バチッ――!
雷が弾ける短い閃光。
すぐに消える、制御された出力。
「……よし。」
名前は掌を軽く握って、呼吸を整える。
その時。
「やっぱりここにいたのね。」
背後から聞き慣れた声がした。
名前肩がぴくっと揺れる。
ゆっくり振り返ると、真面目な顔で腕を組むミッドナイトの姿があった。
「…先生ってエスパーなんですか?」
苦笑い。
もう誤魔化す事は出来ない。
「貴女の行動パターンくらい読めるわよ。」
「光栄です。」
軽く頭を下げる余裕はある。
息もそこまで乱れていない。
ミッドナイトは訓練場に入り、名前の前まで歩いてくる。
「昨日あれだけ走ったのに、もう自主練?」
責める口調ではない。
名前は頭をかきながら笑う。
「いやー、バレましたか。」
「バレないと思ってたのかしら?」
「ちょっとだけ。」
「甘いわよ。」
即答するミッドナイト。
名前は観念したように肩をすくめる。
「でも、ちゃんと休養も取ってるんですよ。睡眠時間も、栄養も、ストレッチも。無茶はしないって決めてますから。」
指折り数える仕草を見せる名前。
その言い方は軽いけれど、本当でもある。
壊れない範囲ギリギリを、いつも正確に攻めている。
ミッドナイトはじっとその目を見る。
「…限界の手前で止めるのが上手いのよね、貴女。」
名前は一瞬きょとんとして、それから笑う。
「それは褒められてますか?」
「半分ね。」
「もう半分は?」
「…心配。」
静かに言われて、名前の笑顔がほんの少しだけ緩む。
「大丈夫です。」
いつもの言葉。
でも昨日より、ほんの少しだけ力が抜けている。
「倒れる前にちゃんと止まりますよ。先生に怒られるの嫌なので。」
「それが抑止力なの?」
「はい。かなり強めの。」
ミッドナイトは小さくため息をついて、それから名前の肩をぽん、と軽く叩く。
「今日はここまでにしなさい。トレーニングは継続より回復が大事な日もあるの。」
「…はい。」
素直に返事が返ってくる。
昨日、一緒に食事をしたこと。
帰り際に見送ってもらったこと。
小さな積み重ねが命令じゃない言葉をちゃんと届かせている。
「その代わり、」
名前がにやりと笑う。
「明日はちょっと負荷上げます。」
「何で宣言すんのよ。」
「隠してもどうせバレるので。」
ミッドナイトは吹き出す。
「本当、手がかからないのに目が離せない子ね。」
夕暮れのグラウンドに、二人の笑い声が少しだけ響く。
毎日の鍛錬は止めない。
けれど、ひとりで抱え込むのは少しずつ減っていく名前。
そんな小さな変化が、まだ誰にも気付かれない速度で始まっていた。