炎の中で、何を憶う
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湯気の立つ料理がテーブルに並ぶ。
放課後の静かな店内。
賑やかすぎず、落ち着きすぎず、話すに丁度良い空気だった。
「いただきます。」
名前は手を合わせ、箸を動かし始める。
「ん、おいしい。」
素直な感想がぽろっとこぼれる。
その顔は年相応で、さっきまでグラウンドで限界まで走っていた子には見えない。
ミッドナイトは向かいで頬杖をつきながら、少し安心したように微笑む。
「よかった。頑張りすぎの子は、まずちゃんと食べさせないとね。」
「何か私、ペットみたいですね。」
「あら、そんな風に思ってないわよ?」
くすっと笑い合って、少し沈黙。
食器の触れ合う小さな音だけが続く。
やがて名前が何気ない顔のまま言った。
「先生。」
「なあに?」
「聞かないんですね。」
箸は止まらない。
口調も軽い。まるで世間話の続きみたいに続ける。
「何があったのか、とか。」
ミッドナイトは一瞬だけ目を細めた。
けれど、すぐにいつもの柔らかい表情に戻る。
「えぇ。聞かないわ。」
即答だった。
名前は少しだけ視線を上げる。
「普通、聞きませんか?」
「普通の教師ならね。」
さらっと言って、珈琲を一口飲む。
「でも私は、貴女が話したくなったときに聞く主義なの。」
名前の箸が止まる。
「…優しいですね。」
「違うわ。効率がいいのよ。」
ミッドナイトが悪戯っぽく笑う。
「無理やり聞き出した話って、だいたい途中で心を閉じちゃうもの。それなら、自分から扉を開けてくれるまで待ったほうが確実でしょう?」
名前は視線を落とし、またご飯を口に運ぶ。
「…そう、ですね。」
湯気の向こうで、名前も小さく笑う。
「じゃあ私、まだ話す気ないみたいです。」
「知ってるわ。」
間髪入れず返ってきて、名前は思わず吹き出した。
「即答ですね…!」
「顔に書いてあるもの。まだ大丈夫ってことにしておきたいです、って。」
図星を刺されて、名前は少しだけ困った顔で笑う。
けれどその表情は以前よりほんの少し柔らかい。
「でも、」
箸を置いてミッドナイトを見る。
「聞かれないの、少しほっとしました。」
正直な言葉が、ぽつりと落ちる。
ミッドナイトは微笑んで頷いた。
「でしょう?だから聞かないのよ。」
押しつけない。踏み込まない。
でも、離れもしない。
その距離感が、名前の胸の奥にじんわりと広がっていく。
「その代わりね、」
ミッドナイトはカップを置き、手を膝に乗せて真剣な表情で言う。
「話したくなったら、何時でも話しなさい。朝早くても夜遅くても良いわ。私、寝起き悪いけどちゃんと起きるから。」
「それは、ちょっと申し訳ないですね。」
「遠慮しないの。大人を頼るのも、優秀な子のスキルよ。」
名前は小さく笑って、頷いた。
「じゃあ今は、とりあえず――」
箸を持ち直す。
「ご飯、全力でいただきます。」
「ん、よろしい。」
二人の間に、あたたかい空気が満ちていく。
過去はまだ語られない。
傷にも触れられない。
それでも確かに 2人の距離は縮まっていた。