炎の中で、何を憶う
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「名字」
名前を呼ばれた瞬間、心臓が大きく跳ねた。
けれど振り向くまでのわずかな時間で、名字名前は表情を整える。
呼吸を落ち着けて、口元を上げて、いつもの自分を用意する。
くるりと振り返ったときには、もう“いつもの彼女”だ。
「…ミッドナイト先生、!」
少しだけ肩で息をしながらも、笑顔は自然だった。
「お疲れ様です。見回りですか?」
まるで今さっき軽く流しただけみたいな声色。
額の汗も、乱れた呼吸も、限界に近い脚の震えも全部なかったことにするみたいに。
ミッドナイトは数歩の距離まで近づいて、腕を組む。
「見回りというか、問題児の捕獲に来たのよ。」
「えっ、誰ですかそれ!」
「こんな時間まで1人でグラウンド独占してる悪い子。」
「…あー、それは確かに悪質ですね。」
真顔で頷く名前。
そのままタオルで首元の汗を拭いながら、「先生に通報しときます?」なんて言い出す彼女にミッドナイトは思わず小さく吹き出した。
「通報先、目の前なんだけど?」
「じゃあ自首します。」
名前はぺこっと軽く頭を下げた。
ふざけているようでいて、礼儀は崩さない。
そのバランスがこの子らしい。
けれど近くで見ると分かる。
笑顔の奥に、消えきらない張りつめたものがある。
「今日はもう終わりにしなさい?」
少しだけ声を柔らかくして言うと、名前は一瞬だけ視線を逸らした。
ほんの一瞬。
でも確かに、間があった。
「…はい。ちょうど区切りよかったので。」
嘘だ、とミッドナイトは思う。
この子にちょうどいい区切りなんて存在しないことを、もう知っている。
それでも名前は、また笑う。
「先生こそ、こんな時間まで大丈夫ですか?夜は冷えますよ。薄着だと風邪を引きます。」
立場が逆みたいな心配の仕方。
ミッドナイトは小さく肩をすくめて、名前の額を指先で軽くつついた。
「それ、今言うセリフ?」
つつかれた場所を押さえて、少しだけ目を丸くする名前。
その隙に、また呼吸が乱れる。
強がりで塗り固めた仮面の、ほんの小さな綻び。
ミッドナイトは優しく微笑む。
「ほら、帰りましょう?一緒に。」
命令じゃない。提案でもない。
置いていかない、という意思表示みたいな言い方だった。
名前は一瞬だけ驚いた顔をして、それからいつもより少しだけ静かな声で言う。
「…はい。先生。」
その返事は、さっきまでよりほんの少しだけ、作り物ではない自然な返事だった。