炎の中で、何を憶う
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ボランティア活動の報告を終え帰路につこうとしていた時の事だった。
「あの、お二人とも。」
13号が、少し遠慮がちに声をかけた。
「今日のお礼をさせていただきたくて、よかったら夕食ご一緒しませんか?」
ミッドナイトがすぐににやりと笑う。
「あら、デートのお誘い?」
「ええ!?違いますよ!あくまでお礼で……!」
13号が慌てる様子を見てくすりと笑いながら名前は小さく手を挙げながら提案を受け入れた。
「ぜひ行きたいです!今日はすごく勉強になりましたし!」
「本当ですか? よかった…!」
ほっとした声で胸を撫で下ろす13号。
数十分後、落ち着いた雰囲気のお店に彼女達はいた。
先に席についていた名前とミッドナイトの前に、遅れてやってきた人物が一人。
「お待たせしました。」
その声に、名前が顔を上げて固まる。
「…え?」
そこに立っていたのは、いつもの宇宙服のようなヒーロースーツではない、柔らかな色合いのニットにロングスカートの女性がいた。
「13ごう、先生?」
雰囲気がまるで違う。
優しげな目元の彼女は穏やかに微笑んだ。
「はい。もうオフなのでこんな格好で失礼しますね」
彼女の笑顔を見て、名前の思考が数秒止まる。
(え、え、え……?)
「あの、」
声が裏返りそうになるのを必死に抑える。
「すごく、その……素敵、ですね。」
言った瞬間、自分の顔が熱くなるのが分かった。
ミッドナイトがすかさず横から口を挟む。
「でしょー? この子オフだと破壊力すごいのよ。」
「先輩!」
「だって事実じゃない。」
楽しそうにお酒を飲みながら笑うミッドナイト。
名前は視線をどこに置いていいか分からず、メニュー表に逃げる。
けれどまたちらっと見てしまう。
(あの人がいつも災害現場で瓦礫の中にいる人と同じ人…?)
泥や埃にまみれながら、迷わず人命を優先するヒーロー。
その姿を何度もニュースで見てきた。
目の前にいるのは、柔らかく笑う普通の女性。
そのギャップに、胸の奥がじんわり熱くなる。
「名前さん、大丈夫ですか?」
13号が首を傾げる。
「い、いえ! その、いつも現場で戦ってる姿、尊敬してて!今日も本当にすごかったです!」
一瞬きょとんとして、それから13号は少し照れたように微笑んだ。
「ありがとうございます。でも今日は名前さんの方がずっと頼もしかったですよ?」
「そ、そんな事はないです!」
慌てる名前。
ミッドナイトはそのやり取りを眺めながら、静かにグラスを傾ける。
(こうしていると、普通の高校生なのにねぇ。)
戦っている時でも、無理して笑っている時でもない。
憧れを素直に口にして、それを受け取ってもらえて、少しだけ肩の力が抜けた顔。
賑やかすぎない、あたたかな夕食の時間が、ゆっくりと流れていった。
食事も終盤。
テーブルの上には空いた皿と、少しだけ進みすぎたグラス。
「こぉら13号!私の作ったカクテル飲めないっていうの?」
「先輩、ここ定食屋さんなのでカクテルありませんよ〜。」
「カクテルがない?そしたらテキーラ!テキーラ持ってきなさい!」
そう言いながら、見事に箸を落としながら立ち上がってふらつくミッドナイト。
名前が思わず立ち上がるより早く、13号がそっと支える。
「はい。テキーラですよ。」
肩を貸しながら、慣れた様子で水を手渡す13号。
ミッドナイトはごくごくとそれを飲み干す。
「ぷはぁっ!もう一杯!」
「先輩もうすぐ閉店ですよ?今度飲み直しましょう。付き合いますから。」
「ええー?もう閉店?」
時計に目をやるとまだ20時。
お開きにする為に嘘をついた13号は手早く会計を済ませる。
名前は二人のやりとりをずっと見ていた。
ヒーローとしてでも、教師としてでもない顔。
普通の生活を送る、普通の女性だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
店の外に出ると、夜風が少し冷たい。
ミッドナイトは13号にもたれたまま、うとうとし始めている。
名前が心配そうに言う。
「タクシー呼びますか?」
「いえ、大丈夫ですよ。もう少し歩けば大通りですから。」
そう言ってから、13号はふっと笑った。
「でも、今日は少し飲みすぎましたね。」
少しの沈黙のあと、ぽつりと続ける。
「ミッドナイト先生は、誰よりも生徒思いなんです。」
名前は顔を上げる。
「厳しく見える事もあるでしょうけど、あの人はいつも“生徒が生きて帰る未来”を一番に考えている。危ない現場に立つたびに、真っ先に生徒の顔を思い浮かべる人です。」
ミッドナイトが小さく寝言みたいに呟く。
「名前…。」
13号がくすっと笑う。
「ね? こういう人なんです。」
それから、少し照れたように視線を落とす。
「僕にとっては、憧れの先輩なんですよ。大切な生徒達の命を、沢山の人々の命を守りたい。守る為なら、自分の命をかけて闘います。それは僕も先輩も同じです。だからこうして、休日にも現場に駆けつけているんです。」
その言葉は飾り気がなくて、まっすぐだった。
名前は胸の奥がじんわり温かくなるのを感じる。
(この人たちが、ヒーローを続けてきた理由はこれか。)
彼女達が持っているのは、強さだけじゃない。
誰かを思い続ける気持ち。
「…素敵ですね」
自然にこぼれた声。
13号は微笑み、軽く会釈する。
「今日は本当にありがとうございました。名前さんが来てくれて、心強かった。」
「こちらこそ、貴重な経験でした。」
以前ミッドナイトと別れた、家の近くで立ち止まる。
「ここからはタクシー拾えますので。名前さんは気をつけて帰ってくださいね。」
ミッドナイトは半分寝たまま、手だけひらひら振った。
「がんばりすぎ禁止よぉ。」
名前は思わず小さく笑う。
「はい。おやすみなさい。」
二人の背中が、街の灯りの中にゆっくり溶けていく。
ひとり帰路につきながら、名前は夜空を見上げていた。
今日一日で見たもの。
救助の現場。
子どもたちの涙。
優しいヒーローの素顔。
そして、ヒーローとしての覚悟。
胸の奥に、静かな熱が灯っていた。
それは強さを求める焦りじゃなく、
ただ――
「近づきたい」と思える光だった。
1/11ページ