炎の中で、何を憶う
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熱い。熱い。
息ができない。
夜だったはずの空が、真っ赤に染まっている。
聞こえるのは、木がはじける音と、何かが崩れる音。
周りの住人の悲鳴。泣き声。怒鳴り声。
私の家が、燃えていた。
窓から吹き出す炎が夜を焦がし、見慣れた屋根も壁も、形を失っていく。
弟と駆け回った庭には、どこからか飛んできた大きな岩がいくつも転がっている。
父に買ってもらった自転車は、面影が無い程に焦げて、変形している。
焦げた匂いと煙で、喉が焼けるみたいに痛い。
「母さん! 父さん!歩!!」
叫んでも、返事はない。
中にいるのは分かっている。
最後に聞いた母の言葉は、「いきなさい!」。
私はその言葉の通り、玄関を開けて外へ行った。
直後に、家の中が爆発したようだった。
足には割れた硝子が刺さり、血が止まらない。
それでも燃える家の中に戻ろうと前へと進む。
そのとき、背後に立つ大きな影があった。
炎を背にしたヒーローの姿が、赤い光の中に浮かんで見えた。
希望が見えた。
ヒーローが、私達家族を助けてくれる。
そう思った瞬間、体が勝手に動いていた。
地面に両手をつき、額が土に触れるほど深く頭を下げる。
「家族が中にいるんです!お願いします!助けてください!!」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、何度も頭を下げる。
額に、掌に、膝に、足の裏に砂利が食い込み、瓦礫や硝子で傷付く。
最早痛みも分からない。
炎の音が大きくなる。
家の中で何かが崩れる音がした。
それでも顔を上げられない。
上げたら、終わってしまう気がしたんだ。
「ヒーローなんでしょう!お願い、助けて…!」
声は震えて、掠れて、ほとんど音にならない。
視界の端で、炎がさらに強く揺れた。
――その夜、全てが燃えた。
家も。家族も。思い出も。幸せも。
そして、あの日の自分の“普通”も。
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