白恋中編
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今日からエイリア学園が白恋中へ来るまで、打倒エイリア学園!という事で練習を開始した。
新しく仲間となった吹雪、白恋中での攻防戦にだけ参加をすると今は決めている唯南とチームメイトとしてサッカーをする事から、コンビネーションを高める為の練習をする事になった。
練習方法は至ってシンプル。二つのチームに分かれ、攻守を交代しながら練習をしていく。
だが、一つ問題はあった。
「あの……人数的に奇数になるから、綺麗に分かれないけど。」
恐る恐ると簡単な説明をしてくれる円堂に唯南は口を開いた。円堂はゴールキーパーである事から人数から除外するとしても、吹雪と唯南を含めると11人であった。
練習に対しては納得はしている事と、必要である事は解っている。しかし、たった一人増えるか否かで攻守の難易度も変わる。
人数の多い方が攻めに回れば、少ない方の守備の難易度が上がる。また攻守を変えた場合でも少ない方にとっては難易度が上がる。
「では、僕が外れましょう!氷室さんは僕達とは初めてですし、エイリア学園と戦ってくれるのであれば、コンビネーションが一番必要になってきますから!」
「ただ単に、目金さんがやりたくないだけじゃないすか?」
「ち、違いますよ!!」
(良いのかな……?)
目金欠流の申し出におどおどとした表情で雷門のメンバーを見かえす。それから視線は決定権がある瞳子へと移る。
迷惑であるのであれば、練習を見学する事にしよう。そう考えていた唯南の思考とは真逆に、瞳子は承諾をした。
「貴方がそれでいいのであれば、私はとやかく言う事は無いわ。唯南も大丈夫かしら?」
「え、……はい。」
「では、僕はベンチに行きますね!」
意気揚々と目金はベンチへと行く。唯南の目にはスキップしている様に見えて仕方がなかった。壁山が言っていた事も少なからず当たっているのかもしれない。
目金がいたのは赤チーム。吹雪も一緒である為、必然的に同じとなった。
白チームはチーム分けしたメンバーが解る様に、雷門のセカンドユニフォームを着ている。
「唯南、一緒だね。」
「うん。宜しく!士郎。」
現状、雷門はFWが染岡一人な為、吹雪はFWで疑似的な試合のポジションに入れられる事となった。そういう主旨を伝えた後、瞳子は笛を吹き、手に持っていたフィールドに向けてボールを投げた。
唯南はDFの立ち位置に置かれた。
全員が投げられたボールを目指して駆けて行く。唯南は置いてかれない様に、必死に食いついて行く様に走り出した。
――――――
ボールは足元で鬼道と風丸の間を転がっていく。何度か彼等の間を行き来した後、ボールは風丸の元で落ち着き、必殺技で自身のスピードを活かして鬼道を抜く。
ドリブルでゴールに向かって上がっていく中、風丸を追い、吹雪も上がる。
風丸だって十分に速い。だが、吹雪は容易に風丸の隣に並んだ。そして風丸の足元で転がされていたボールは簡単に吹雪に奪われた。
その時間は一瞬。瞬きをする間も無く、ボールは吹雪の所へ行ってしまった。
後は吹雪のワンマンであった。鬼道や一ノ瀬がパスを出して欲しいと言うが、その言葉は耳に入れどパスは出さなかった。
風丸は自慢だった足の速さを簡単に凌駕され、自分以上の速さを見せられ放心状態になってしまった。それも染岡の叱咤で我に返り、なんとか吹雪の背後を捉える。ディフェンスの成功範囲内に入るとスライディングでボールを獲ろうとした。だが、吹雪はFWの時の荒々しい吹雪となり、軽々とスライディングを躱したのであった。
「士郎!パス出して!!これはコンビネーションの練習だよ!?」
こうなる事は解っていた。一人で先走りし、誰にもパスを出さないで一人でドリブルをする状態になると見えていた。
吹雪に任せてしまう。白恋中のサッカーがそれで成り立っていた事の弊害が出てしまっていた。唯南は余りのワンマンショーに怒りが少し出ていた。雷門サッカー部は白恋とは違う。全国大会で日本一になった実力者が集まっている学校だ。
荒れた雪の様に、猛スピードで駆けて行く彼を必死に食らい付いて行く。まだ、息が苦しくなるまでには至っていない。
(ああ、士郎と対等にサッカー出来る人がいなかったからなのかな?士郎に任せっきりな名ばかりのサッカーをやっていたからかな?)
唯南は唇を力強く噛み締めた。
自分自身にもう少し、サッカーの巧さや強さがあったのなら、対等にサッカーが出来たのだろうか?本当の意味でのサッカーが出来たのだろうか?三人の時 の方がまともなサッカーだと思わずにはいられない。
自分を責める言葉が次々と浮かぶ。自分が弱いから、そう吹雪に言われている様で苦しくなる。
パスを要求せよ、唯南の言葉でさえもパスの応答はしない。それが吹雪が彼女に示した答え。弱いと言っている証拠であった。
本人がそうは言ってはいなくとも、唯南自身はそう捉えてしまっている。ずっと、今日までそうであったから。
(姉さんは私が勘違いしているって言うけど、勘違いなんてしてない。私には力がない。)
私は弱い人間なんだよ。勘違いではない、確信。自信が無いから言っているのではない、態度で示されて痛い程に痛感した事だ。
声をかける前からパスが来るとは微塵も思っていなかった。そして案の定、パスなどは来なかった。
こんな状況に雷門の過半数が呆れる。そんな中、呆れではなくコンビネーションのコの字もない吹雪の状態に怒りを覚えた染岡の言葉で練習は中断した。
「お前な……一ノ瀬も鬼道もこっちに回せって声かけただろが!!」
「だって、ボク達はいつもこうだったから。」
こうだった、というのは吹雪に任せっきりの状態の事である。それを自覚しているからこそ、唯南も染岡の言葉に目を逸らす。雷門の様なコンビネーションを主にしたサッカーが出来ないでいた。
唯南はなんとか合わせる事は出来るのかもしれない。だが、吹雪に至ってはワンマンが常であった状態をコンビネーションに変える事は容易い事ではなかった。
「吹雪の言っている事は本当か?氷室。」
「えっと……うん。」
隣り合う事になった鬼道と一ノ瀬の視線に気づき、鬼道の言葉に頷く。
「同じ仲間である氷室にも?」
「同じ仲間だとしても、私もサッカーが上手い訳じゃないから。パスが来る事の方が珍しいんだ。」
「……もしかしたら、氷室にはパスが来るのかと思っていたが……このメンバーで唯一、吹雪の速さに付いていけて、対等だと――」
「対等だと向こうが思ってくれているのなら、私の所にだってパスが来るよ。」
ボールが来ない事がその証拠だよ。弱弱しい笑顔を鬼道と一ノ瀬に見せ、視線を一方的な口論となっている吹雪と染岡に向ける。
(ボールが奪えたのだって偶々であり、ずっと長く隣にいたから出来る事であって、巧いから出来たっていう訳でもないんだよ。)
頼る立場から頼られる立場へ。唯南は吹雪に頼って欲しいと思う事は常であった。だが、頼られないという事はそういう事。
迷惑を掛けるから頼りたくないのではなく、頼るには頼りないから頼ることが無いのだ。そう唯南は考えている。
一人で考え、考えた事で気持ちが沈んだ頃、吹雪と染岡の言い合いはヒートアップをしていた。どうやら染岡の逆鱗に触れる言葉を吹雪が言ったのか、土門に羽交い絞めされ、一ノ瀬に宥められている姿になっていた。
「自己中心的なコイツに、豪炎寺の代わりなんて出来やしねえんだよ!!!」
新たなFWを探しに北海道まではるばる来た。離脱をしてしまった本来のエース、豪炎寺修也の代わりが欲しいだけであった。宇宙人、エイリア学園を打倒し、勝つ事が出来る強力な得点源を。
吹雪は吹雪であり、豪炎寺その人ではない。吹雪士郎という一人の人間だ。それ以上でもそれ以下でもない。
「士郎は豪炎寺っていう人じゃないよ……。」
染岡の言葉に唯南は独り言の様に小さな声で反論をした。その声は誰にも聞こえない、聞き届けられない声。聞いて欲しいとも唯南本人は思ってもいない反論。
弱い奴が言える事ではない。弱い奴が強い奴の事を心配する。可笑しいとは思えど、頭に血が上り正常な判断が出来なくなっている激昂型の人間と一緒にこれから旅をする幼馴染みを心配する気持ちが大きくなるばかりであった。
――――――
吹雪の仕様に合わせる。今の自分の速さでは、同じ事の繰り返しでまた敗れる。風丸が自分の気持ちを吐き出した際に、吹雪は一つ提案をした。
――風になればいい。
それはいつも遊びの一環で行っている特訓の様で遊び。スノーボードでの特訓であった。
校舎の裏側に大きなゲレンデがある。場所をグラウンドからゲレンデへ移し、吹雪の提案した特訓を行おうと移動する。そんな時であった。
唯南は吹雪の名を呼び、吹雪はその声に足を止めた。
他の人達は他の白恋の仲間に案内をしてもらっている為、問題はない。グラウンドにいるのは唯南と吹雪だけであった。
「どうしたの?」
「何で……何で、私にもパスを出してくれなかったの?何で、誰にもパスを出さなかったの?」
予想外の問いに吹雪は面を食らった。まさか、幼馴染みからも、常にそういうプレーでいた仲間に言われたからであった。
それは染岡が言い放った問いと同じである。だから、吹雪の中での答えは全く同じである。
「僕一人でやる。それがいつものスタイルでしょ?白恋中のスタイル。」
「そうだけ……そうだけどさ!!白恋中は私も含めて、みんな頑張っているけど、結局は士郎に頼らなきゃ成り立たないほどだけどさ!これから一緒にサッカーするのは、あの日本一になったチームだよ!?白恋とは違う人達だよ?頼れる人達だよ?一人で頑張らなくとも、支えてくれる人達だよ?」
「そうだとしても、簡単には変えられないよ……。」
困った様に吹雪は眉を八の字に下げる。
変えられない。否、変える気はない。そう言われているかの様に、唯南の耳には入って来た。
いつから、吹雪は一人でサッカーをする様になった?いつから、協力している様で個人なスタイルになった?
(ああ、全てはあの日 からだ……。)
あの日を境に吹雪は元気がなくなった。あの日を境にもう一つの人格を創り出した。あの日を境にワンマンが多くなった。
「……士郎。」
「何?」
「私って、そんなに弱い?サッカー上手くない?頼ることが出来ない?君の隣に立ってはいけないの?」
あの日が関係あろうが無かろうが、今も今までも、唯南の目の前で起こっていた事は少なからず事実だ。吹雪の行動は紛れもない気持ちの表れだ。
「分かってるよ!どんくさいから、やっとまともにサッカー出来る様になっているから上手くないのだって。」
思い出すのは小さな頃。初めて吹雪と出会い、サッカーを教えて貰った。初めてだからこそ出来ないのは当たり前であるが、時間が経過しても上達するのは人よりも何倍も遅かった自覚がある。
理解するのが人よりも遅い。不器用で、勉強も理解して納得するまでもが遅い。唯南の全ては誰よりも遅かった。
サッカーだけでなく、吹雪の隣にいれば様々な雪や氷にまつわるスポーツを半強制的にするが、どれも鈍くさい結果である。
それでも続けれたのは、吹雪としたサッカーが楽しかったから、面白かったからだ。
今も面白いと言えば面白いが、小さい時に遊びでやっていた時の方が格段に面白かったと、唯南は思う。吹雪とするサッカーが好きであった。
彼女の流れ出てくる気持ちに、言葉に吹雪は焦りの顔を見せる。
「やっぱり、私じゃあ……士郎の隣にはいられないよね。」
「違う!唯南が強くないからってパスを出さなかった訳じゃ――」
「白恋中でのエイリア戦まで!!それまでの間だけ、目障りだとは思うけど一緒にサッカーさせて?というか、今の色々な事、忘れてよ!」
「唯南!!!」
面倒くさい奴だ。唯南自身も自覚している。そう思っている。
だが、見て見ぬふりをしていた態度が本当であったと確信してしまえば、どうする事も出来なくなる。吐き出さなければ、心が死にそうだ。
笑って誤魔化す。吹雪の目には唯南の笑顔はどう映っているのだろうか?困った笑顔か?泣きそうな笑顔なのか?
彼女の中では心底、どうでも良くなっていた。
エイリアとの攻防戦を終えたら、サッカーを辞めよう。瞳子に付いて行かないと言おう。
(私は……ただ、認めて欲しかっただけなのかもな……。)
他の誰でもない、吹雪士郎という存在に。
新しく仲間となった吹雪、白恋中での攻防戦にだけ参加をすると今は決めている唯南とチームメイトとしてサッカーをする事から、コンビネーションを高める為の練習をする事になった。
練習方法は至ってシンプル。二つのチームに分かれ、攻守を交代しながら練習をしていく。
だが、一つ問題はあった。
「あの……人数的に奇数になるから、綺麗に分かれないけど。」
恐る恐ると簡単な説明をしてくれる円堂に唯南は口を開いた。円堂はゴールキーパーである事から人数から除外するとしても、吹雪と唯南を含めると11人であった。
練習に対しては納得はしている事と、必要である事は解っている。しかし、たった一人増えるか否かで攻守の難易度も変わる。
人数の多い方が攻めに回れば、少ない方の守備の難易度が上がる。また攻守を変えた場合でも少ない方にとっては難易度が上がる。
「では、僕が外れましょう!氷室さんは僕達とは初めてですし、エイリア学園と戦ってくれるのであれば、コンビネーションが一番必要になってきますから!」
「ただ単に、目金さんがやりたくないだけじゃないすか?」
「ち、違いますよ!!」
(良いのかな……?)
目金欠流の申し出におどおどとした表情で雷門のメンバーを見かえす。それから視線は決定権がある瞳子へと移る。
迷惑であるのであれば、練習を見学する事にしよう。そう考えていた唯南の思考とは真逆に、瞳子は承諾をした。
「貴方がそれでいいのであれば、私はとやかく言う事は無いわ。唯南も大丈夫かしら?」
「え、……はい。」
「では、僕はベンチに行きますね!」
意気揚々と目金はベンチへと行く。唯南の目にはスキップしている様に見えて仕方がなかった。壁山が言っていた事も少なからず当たっているのかもしれない。
目金がいたのは赤チーム。吹雪も一緒である為、必然的に同じとなった。
白チームはチーム分けしたメンバーが解る様に、雷門のセカンドユニフォームを着ている。
「唯南、一緒だね。」
「うん。宜しく!士郎。」
現状、雷門はFWが染岡一人な為、吹雪はFWで疑似的な試合のポジションに入れられる事となった。そういう主旨を伝えた後、瞳子は笛を吹き、手に持っていたフィールドに向けてボールを投げた。
唯南はDFの立ち位置に置かれた。
全員が投げられたボールを目指して駆けて行く。唯南は置いてかれない様に、必死に食いついて行く様に走り出した。
――――――
ボールは足元で鬼道と風丸の間を転がっていく。何度か彼等の間を行き来した後、ボールは風丸の元で落ち着き、必殺技で自身のスピードを活かして鬼道を抜く。
ドリブルでゴールに向かって上がっていく中、風丸を追い、吹雪も上がる。
風丸だって十分に速い。だが、吹雪は容易に風丸の隣に並んだ。そして風丸の足元で転がされていたボールは簡単に吹雪に奪われた。
その時間は一瞬。瞬きをする間も無く、ボールは吹雪の所へ行ってしまった。
後は吹雪のワンマンであった。鬼道や一ノ瀬がパスを出して欲しいと言うが、その言葉は耳に入れどパスは出さなかった。
風丸は自慢だった足の速さを簡単に凌駕され、自分以上の速さを見せられ放心状態になってしまった。それも染岡の叱咤で我に返り、なんとか吹雪の背後を捉える。ディフェンスの成功範囲内に入るとスライディングでボールを獲ろうとした。だが、吹雪はFWの時の荒々しい吹雪となり、軽々とスライディングを躱したのであった。
「士郎!パス出して!!これはコンビネーションの練習だよ!?」
こうなる事は解っていた。一人で先走りし、誰にもパスを出さないで一人でドリブルをする状態になると見えていた。
吹雪に任せてしまう。白恋中のサッカーがそれで成り立っていた事の弊害が出てしまっていた。唯南は余りのワンマンショーに怒りが少し出ていた。雷門サッカー部は白恋とは違う。全国大会で日本一になった実力者が集まっている学校だ。
荒れた雪の様に、猛スピードで駆けて行く彼を必死に食らい付いて行く。まだ、息が苦しくなるまでには至っていない。
(ああ、士郎と対等にサッカー出来る人がいなかったからなのかな?士郎に任せっきりな名ばかりのサッカーをやっていたからかな?)
唯南は唇を力強く噛み締めた。
自分自身にもう少し、サッカーの巧さや強さがあったのなら、対等にサッカーが出来たのだろうか?本当の意味でのサッカーが出来たのだろうか?
自分を責める言葉が次々と浮かぶ。自分が弱いから、そう吹雪に言われている様で苦しくなる。
パスを要求せよ、唯南の言葉でさえもパスの応答はしない。それが吹雪が彼女に示した答え。弱いと言っている証拠であった。
本人がそうは言ってはいなくとも、唯南自身はそう捉えてしまっている。ずっと、今日までそうであったから。
(姉さんは私が勘違いしているって言うけど、勘違いなんてしてない。私には力がない。)
私は弱い人間なんだよ。勘違いではない、確信。自信が無いから言っているのではない、態度で示されて痛い程に痛感した事だ。
声をかける前からパスが来るとは微塵も思っていなかった。そして案の定、パスなどは来なかった。
こんな状況に雷門の過半数が呆れる。そんな中、呆れではなくコンビネーションのコの字もない吹雪の状態に怒りを覚えた染岡の言葉で練習は中断した。
「お前な……一ノ瀬も鬼道もこっちに回せって声かけただろが!!」
「だって、ボク達はいつもこうだったから。」
こうだった、というのは吹雪に任せっきりの状態の事である。それを自覚しているからこそ、唯南も染岡の言葉に目を逸らす。雷門の様なコンビネーションを主にしたサッカーが出来ないでいた。
唯南はなんとか合わせる事は出来るのかもしれない。だが、吹雪に至ってはワンマンが常であった状態をコンビネーションに変える事は容易い事ではなかった。
「吹雪の言っている事は本当か?氷室。」
「えっと……うん。」
隣り合う事になった鬼道と一ノ瀬の視線に気づき、鬼道の言葉に頷く。
「同じ仲間である氷室にも?」
「同じ仲間だとしても、私もサッカーが上手い訳じゃないから。パスが来る事の方が珍しいんだ。」
「……もしかしたら、氷室にはパスが来るのかと思っていたが……このメンバーで唯一、吹雪の速さに付いていけて、対等だと――」
「対等だと向こうが思ってくれているのなら、私の所にだってパスが来るよ。」
ボールが来ない事がその証拠だよ。弱弱しい笑顔を鬼道と一ノ瀬に見せ、視線を一方的な口論となっている吹雪と染岡に向ける。
(ボールが奪えたのだって偶々であり、ずっと長く隣にいたから出来る事であって、巧いから出来たっていう訳でもないんだよ。)
頼る立場から頼られる立場へ。唯南は吹雪に頼って欲しいと思う事は常であった。だが、頼られないという事はそういう事。
迷惑を掛けるから頼りたくないのではなく、頼るには頼りないから頼ることが無いのだ。そう唯南は考えている。
一人で考え、考えた事で気持ちが沈んだ頃、吹雪と染岡の言い合いはヒートアップをしていた。どうやら染岡の逆鱗に触れる言葉を吹雪が言ったのか、土門に羽交い絞めされ、一ノ瀬に宥められている姿になっていた。
「自己中心的なコイツに、豪炎寺の代わりなんて出来やしねえんだよ!!!」
新たなFWを探しに北海道まではるばる来た。離脱をしてしまった本来のエース、豪炎寺修也の代わりが欲しいだけであった。宇宙人、エイリア学園を打倒し、勝つ事が出来る強力な得点源を。
吹雪は吹雪であり、豪炎寺その人ではない。吹雪士郎という一人の人間だ。それ以上でもそれ以下でもない。
「士郎は豪炎寺っていう人じゃないよ……。」
染岡の言葉に唯南は独り言の様に小さな声で反論をした。その声は誰にも聞こえない、聞き届けられない声。聞いて欲しいとも唯南本人は思ってもいない反論。
弱い奴が言える事ではない。弱い奴が強い奴の事を心配する。可笑しいとは思えど、頭に血が上り正常な判断が出来なくなっている激昂型の人間と一緒にこれから旅をする幼馴染みを心配する気持ちが大きくなるばかりであった。
――――――
吹雪の仕様に合わせる。今の自分の速さでは、同じ事の繰り返しでまた敗れる。風丸が自分の気持ちを吐き出した際に、吹雪は一つ提案をした。
――風になればいい。
それはいつも遊びの一環で行っている特訓の様で遊び。スノーボードでの特訓であった。
校舎の裏側に大きなゲレンデがある。場所をグラウンドからゲレンデへ移し、吹雪の提案した特訓を行おうと移動する。そんな時であった。
唯南は吹雪の名を呼び、吹雪はその声に足を止めた。
他の人達は他の白恋の仲間に案内をしてもらっている為、問題はない。グラウンドにいるのは唯南と吹雪だけであった。
「どうしたの?」
「何で……何で、私にもパスを出してくれなかったの?何で、誰にもパスを出さなかったの?」
予想外の問いに吹雪は面を食らった。まさか、幼馴染みからも、常にそういうプレーでいた仲間に言われたからであった。
それは染岡が言い放った問いと同じである。だから、吹雪の中での答えは全く同じである。
「僕一人でやる。それがいつものスタイルでしょ?白恋中のスタイル。」
「そうだけ……そうだけどさ!!白恋中は私も含めて、みんな頑張っているけど、結局は士郎に頼らなきゃ成り立たないほどだけどさ!これから一緒にサッカーするのは、あの日本一になったチームだよ!?白恋とは違う人達だよ?頼れる人達だよ?一人で頑張らなくとも、支えてくれる人達だよ?」
「そうだとしても、簡単には変えられないよ……。」
困った様に吹雪は眉を八の字に下げる。
変えられない。否、変える気はない。そう言われているかの様に、唯南の耳には入って来た。
いつから、吹雪は一人でサッカーをする様になった?いつから、協力している様で個人なスタイルになった?
(ああ、全ては
あの日を境に吹雪は元気がなくなった。あの日を境にもう一つの人格を創り出した。あの日を境にワンマンが多くなった。
「……士郎。」
「何?」
「私って、そんなに弱い?サッカー上手くない?頼ることが出来ない?君の隣に立ってはいけないの?」
あの日が関係あろうが無かろうが、今も今までも、唯南の目の前で起こっていた事は少なからず事実だ。吹雪の行動は紛れもない気持ちの表れだ。
「分かってるよ!どんくさいから、やっとまともにサッカー出来る様になっているから上手くないのだって。」
思い出すのは小さな頃。初めて吹雪と出会い、サッカーを教えて貰った。初めてだからこそ出来ないのは当たり前であるが、時間が経過しても上達するのは人よりも何倍も遅かった自覚がある。
理解するのが人よりも遅い。不器用で、勉強も理解して納得するまでもが遅い。唯南の全ては誰よりも遅かった。
サッカーだけでなく、吹雪の隣にいれば様々な雪や氷にまつわるスポーツを半強制的にするが、どれも鈍くさい結果である。
それでも続けれたのは、吹雪としたサッカーが楽しかったから、面白かったからだ。
今も面白いと言えば面白いが、小さい時に遊びでやっていた時の方が格段に面白かったと、唯南は思う。吹雪とするサッカーが好きであった。
彼女の流れ出てくる気持ちに、言葉に吹雪は焦りの顔を見せる。
「やっぱり、私じゃあ……士郎の隣にはいられないよね。」
「違う!唯南が強くないからってパスを出さなかった訳じゃ――」
「白恋中でのエイリア戦まで!!それまでの間だけ、目障りだとは思うけど一緒にサッカーさせて?というか、今の色々な事、忘れてよ!」
「唯南!!!」
面倒くさい奴だ。唯南自身も自覚している。そう思っている。
だが、見て見ぬふりをしていた態度が本当であったと確信してしまえば、どうする事も出来なくなる。吐き出さなければ、心が死にそうだ。
笑って誤魔化す。吹雪の目には唯南の笑顔はどう映っているのだろうか?困った笑顔か?泣きそうな笑顔なのか?
彼女の中では心底、どうでも良くなっていた。
エイリアとの攻防戦を終えたら、サッカーを辞めよう。瞳子に付いて行かないと言おう。
(私は……ただ、認めて欲しかっただけなのかもな……。)
他の誰でもない、吹雪士郎という存在に。
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