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ささくう

 イケブクロは豪雨。
その日はパチモンの群青日和でも歌い出してしまいそうな鬱屈した午後だった。
事務所には空却と自分しかいない。
左馬刻は妹を迎えに、一郎は傘を忘れた弟を迎えに行ったらしい。
先程までソファに横たわってすやすやと昼寝をしていた空却は激しい雨音に目を覚まし、体を起こして窓の外を眺めていた。
それを俺は煙草をふかしながら見ている訳だが、外をじっと見つめて何が楽しいのか。
こういう時の空却は何も無い宙を見つめる猫みたいで、時々不気味に感じる。

「お前、雨、って感じする」

窓に顔を向けたまま口を開いたと思えばこれだ。
やはり不思議ちゃんの気があるのか、はたまた坊さん由来のスピリチュアルかなにかなのか。
知らんけど。

「なんやの急に」
「うるせーし、鬱陶しいし」
「いやシンプルにディス。流石に泣くで」

依然空却は外を眺めている。
俺を見ようとしない空却に何だか腹が立って、わざわざ立ち上がると向かいのソファに向かう。
隣に腰掛けたと同時に入れ替わりで空却が立ち上がり、必然的に見上げる形になる。

「まぁ拙僧は嫌いじゃねぇけど。雨」

金色の眼と目が合ったのは一瞬で、それだけ言い残して空却は部屋から出てってしまった。
空却の突然の行動には慣れてきたとはいえ、対応出来た試しはない。
今回も案の定、面を食らって思考回路が停止している。
空却は雨が嫌いじゃないと言った。
それで、今話していたのは雨と俺が似ているということ。
それってつまり。 
慌てて振り返るも既に空却の姿はない。

「……ん?んん?ちょいまち空却!待や!」

イケブクロは豪雨。あなた何処へやら――って喧しいわ。
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