やってしまった。
彼女の愕然とした顔を見た時にそう思った。自分の気持ちを落ち着けるために胸を上下させ呼吸を整える。
「○○…」
僕が名前を呼ぶと、床に座り込んでいる彼女はびくっと肩を震わせ僕を見た。僕の視界に見えるのは、真っ赤に腫れあがった彼女の左顔面。
「ご、ごめんなさい…」
だんだん尻すぼみになっていくの声を聞きながらどうしてこうなったのかを思い返す。
切っ掛けは些細な喧嘩だったと思う。試合のゲーム運びのことで、生活のことで、今の自分にはすべてを思い返すだけの冷静さは残されていないが、確かに彼女と僕は言い合いをした。そんな中、彼女のとある一言が僕にとって触れて欲しくない場所へと触れてしまった。その瞬間、本当に一瞬の出来事だった。
…僕の拳が彼女の顔面を殴りつけていた。鈍い音が響き、○○が床にたたきつけられる音がした。
「ァ…」
少しずつ、冷えてきた頭が僕の愚行を、現実をまざまざと見せつける。彼女を殴りつけた僕の右手がぶるぶると震える。
・
・
・


「○○…ごめん…僕、ぼく…」
「の、ノートン…？」
先ほどまでぷるぷると震えていたノートンは、今は私の体を包むように、縋るように抱きしめていた。抱きしめる力はとても強く、肺を圧迫され少し苦しい。
「苦しいよ、ノートン」
少し微笑んでそう言えば、ノートンは不安そうな顔で私の顔を覗き込んできた。彼の暗い目と、かさかさとした火傷跡が私の視界いっぱいに映る。
「あぁ…君のかわいい顔に痣が…」
「っうぁ…」
ノートンの指が私の痣を撫でる。その感触に痛みを覚え、思わず口からくぐもった悲鳴が上がる。
「○○…」
ふと気が付く。彼の瞳がどろりとした、何か良くない熱を孕んでいることに。
「ふふふ…」
蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっている私を見つめると、彼は優しく、壊れ物でも扱うかのような繊細な指つきで彼の火傷跡と同じ場所にできた痣を撫で続ける。私は彼の瞳から目を離すことができなかった。
彼は私の痣にキスを落とすと首筋にすり寄ってきてこう言った。
「お揃いだね…♡」