設定しない場合の主人公の名前は、ブラウニーとなります。
001〜050
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夕方の授業が終わった。
生徒たちはようやく魔法薬の授業から解放されたと言わんばかりに足早に教室を出て行き、夕食までの間、自由時間を過ごす。
今やホグワーツの誰もが認めるスネイプの右腕・ブラウニーだが、彼女には教授になりたいという願望があった。
教授登用試験には、当日の筆記試験に加え、事前に公表されている選択問題もあり、ブラウニーはその中から比較的得意と言える魔法薬に関する問題を選択するつもりだった。
その選択問題とは、「上級魔法薬を元に独自の魔法薬を精製し、その効用について述べよ」というものだった。
「前に話した魔法薬のことなんですけど、試してみたいものが一つあって…今夜ここを使ってもいいですか?」
「…構わんが…一体何を作ることにしたんだね」
ブラウニーは思わせぶりに、にっこり笑った。
「魔法薬が出来上がったら、そのときに改めてきちんとお話しします。ベースは…『生ける屍の水薬』でいこうかと」
一瞬、スネイプの顔に緊張が走ったのをブラウニーは見逃さなかった。
「あ!…と言っても、濃度には十分気をつけます」
この「生ける屍の水薬」とは、眠り薬の別名で、その濃度が高すぎた場合には二度と目覚めることが出来なくなってしまうため、精製には十分な注意を要するものだった。
「我輩も付き合おう」
そう言われたブラウニーは、笑いながらも困った表情をした。
それから教室のドアの外を覗いて、左右を見渡し、誰もいないことを確認してからスネイプの方を振り向き、笑ったまま少し小さな声で言った。
「それは、指導教授としての立場からですか?それとも…」
スネイプが答えずとも、口角が上がったのが何よりもの答えだった。
ブラウニーもまたそれを見て、やっぱり、とでも言いそうな微笑みを返した。
「…それじゃあ、先に戻ってますね。教室、あとで使わせてくださいね!」
そう言って、ブラウニーも教室をあとにした。
夕食後、ブラウニーが教室に戻ると、教室の真ん中に大鍋が用意してあった。
そのそばにはメモが一枚置いてあり、手に取ると、筆圧の薄い文字で一言だけこう書かれていた。
『見回りのあとに来る』
ブラウニーは数秒間メモを見つめて、自然と微笑んだ。
そしてメモを机に戻すと、「よし」と呟いて袖を捲った。
大鍋に湯を沸かし、まずは「生ける屍の水薬」の精製手順を踏んでいく。
時折独り言を呟きながら、上級魔法薬の本を見ては鍋の様子を覗き、材料を加え、タイミングを見て混ぜる、その繰り返しだった。
何度か作ってみたものの、出来上がったものはすべて、濁ったり、異様な匂いがしたりして、どれも「生ける屍の水薬」とは言えないものだった。
ブラウニーが参っていると、ちょうど教室のドアが開いて、スネイプが入ってきた。
「…助っ人が必要な頃か」
ブラウニーの顔を見るなり、全てを察したスネイプは、彼女の隣に並んで袖を捲った。
「『生ける屍の水薬』の作り方については、書物にはこう書いてあるが、いくつかポイントがある。まずは…」
スネイプは上級魔法薬の本に書かれた精製手順の該当箇所を指差して、ブラウニーにいくつかメモを取らせた。
そしてそのメモ書きを取り入れて、再度「生ける屍の水薬」を精製してみたところ、きれいに透き通った液体が出来上がった。
ブラウニーは、驚きと感嘆の入り混じった声を上げた。
スネイプはほくそ笑む。
「ありがとう…恐れ入りました!」
「…さて、この後どうするつもりか白状してみろ」
「そ、それは…」
「教えないつもりではあるまいな」
スネイプに気圧されて、ブラウニーはこれから作ろうと思っている魔法薬について話して聞かせた。
「…出来上がったこの『生ける屍の水薬』に、ポプラの綿毛をひとつまみ溶かして、トケイソウの雌しべのすり潰したものを少量加えて、時計回りに3回回すんです」
「ほう…」
「それを飲むと、睡眠に落ちて、3時間後に目が覚める…そんな計時的眠り薬を作って、レポートにしようと考えていて…」
「理論上はできそうだな」
話しながら、一蹴されたらどうしようと考えていたブラウニーにとって、スネイプの一言はとても嬉しかった。
「…しかし、君のことだ。出来上がったそれを、生物を使わずに自分で試すというのだろう?」
「…そ、それは…」
「だめだ。危険すぎる」
ブラウニーはスネイプにそう言われると思っていたからこそ、魔法薬の精製については用意周到に進めてから打ち明けたかった。
「…じゃあ、まずは、作るだけ」
ブラウニーは唇を尖らせて、ポプラの綿毛をひとつまみ手に取った。
指を擦って大鍋に入れると、しゅわっという音を出して綿毛は溶けた。
それから最後の材料である、トケイソウの雌しべのすり潰したものを、透明な液体の中に入れた。
そして黙って3回、時計回りにゆっくり混ぜた。
すると、先ほどまで透明だった液体に色が付いた。
「…ほら!いい反応!」
出来上がった魔法薬を近くにあった試験管に注ぐと、その色はピンクがかった紫色になっていた。
ブラウニーは、まるで子どもの頃に遊んだ朝顔の色水のようだと思った。
スネイプは腕を組んだまま、むっつり黙って不機嫌そうだ。
「…貸せ。我輩が飲む」
眉間に皺が寄ったまま、スネイプが手を差し出した。
ブラウニーはもはや反射的に、持っていた試験管に口を付け、中身を一気に飲み干した。
いくら自信作だからといっても、自分が実験的に作った魔法薬を、自分以外の誰かに一番に飲ませるわけにはいかなかった。
スネイプが止める間もなく、ブラウニーの喉がごくりと音を立てた。
「ばっ…!」
「お願い。きっちり3時間か計って…くだ…」
言い終える前に、ブラウニーは意識を失った。
私の名前を、これまでにないくらい大きな声で呼ばれた気がした。
スネイプ先生の声だろうか…
女性の声も聞こえた。
「…何をやっているんですか!あなたがついていながら!」
この声は…マダム・ポンフリーの怒ったときにそっくりだ。
誰かが怒られている…
「…教授になって、君のようになりたいそうじゃ」
ダンブルドアのような話し方だ。
誰に話しかけているんだろう…
3時間が経ち、日付が変わっても、ブラウニーは目覚めなかった。
いつも顔色の悪いスネイプが、いつも以上に顔色悪く見えたが、マダム・ポンフリーはそのスネイプが抱えるブラウニーの姿を目にした途端、スネイプの顔色のことなど忘れてしまった。
「夜分に申し訳ない」
「どうしたんです…!」
医務室内に手招きをして、ベッドに寝かせてと合図をしたマダム・ポンフリーは、状況を説明するスネイプの声に耳を傾けながらも、目は洗面器を探し、両手は引き出しからタオルを取り出していた。
洗面器に勢いよく水を張って、そこにタオルを浸し、ぎゅっと固く絞った。
タオルをぎゅっと絞る際に、マダムは声量を落として、怒りの感情も搾り出した。
「まったく!何をやっているんですか!あなたがついていながら!」
そうして冷たく絞ったタオルを、ブラウニーの額や首筋に当てながら、マダムが聞いた。
「…それで、スネイプ先生はいつ頃目覚めるとお考えですか?」
「…正直、分かりません」
スネイプの一言に、タオルを持つマダムの手が一瞬止まって、また動き始めた。
「『生ける屍の水薬』の濃度には、問題がなかったとおっしゃいましたね」
「ええ…そこまでは問題ありません」
傍らに立ち尽くすスネイプに、マダムは言った。
「それならば、大丈夫ですよ。スネイプ先生は明日も授業がおありですから、もう戻ってお休みください。彼女には私が付いていますから」
「いや、しかし…」
「大丈夫。目が覚めたら、すぐに呼びに参ります」
有無を言わさぬマダムの笑顔だった。
翌朝、スネイプとともにダンブルドアが医務室へやってきた。
「…ふむ。顔色は悪くないようじゃの」
スネイプは眠るブラウニーを見つめたままだった。
「試験勉強中だそうじゃな。この時期は皆、周りが見えなくなってしまうんじゃよ。わしもかつて、そうじゃった…」
スネイプの肩に手を載せて、ダンブルドアは続けた。
「ブラウニーは言っていた…教授になって、君のようになりたいそうじゃ」
「我輩のように…?」
「博識で、自分よりもまず周囲の人間のことを考える、心優しい君のようにな」
無言のスネイプに、ダンブルドアは微笑みかけた。
「想像に難しくないじゃろう、いつも隣にそんな君がいるんじゃぞ…彼女が焦るのも仕方ない」
そして、そばにいたマダム・ポンフリーに言った。
「教授登用試験はまだ先じゃ。この週末は、このまま休ませてあげなさい。月曜になっても目が覚めないようなら、私がなんとかしよう」
「承知いたしました」
それからダンブルドアはマダムに聞こえないよう、スネイプの耳元で小声で告げた。
「…案外、王子様のキスで目が覚めるかもしれんがの…」
突然のダンブルドアの言葉とウインクに、スネイプは固まらざるを得なかった。
週末は面会謝絶となり、スネイプも医務室内に立ち入ることは許されなかった。
日曜日の夜、スネイプはまだ立ち入りを許可してもらえないだろうと思いつつも、医務室へ立ち寄った。
「…スネイプ先生がこんなに心配性だったとは、知りませんでしたわ」
マダムは笑いながら医務室のドアを大きく開けて、自分は脇に避けた。
入ってもよいということだ。
マダムは就寝準備をするところだったようで、代わりに留守番を託された。
「私は隣の部屋に行きますので、戸締まりをお願いしますね。…それでは、おやすみなさい」
ベッドの脇の椅子に腰掛けてから、スネイプはため息をついた。
見ると、ブラウニーの手が、布団から少し覗いていた。
スネイプは振り返って、マダムがいないことを確認してから、その手を握った。
「…そろそろ起きないか」
ブラウニーの手は温かいものの、それでも握り返すことはなかった。
スネイプは手を握ったまま、ブラウニーの頬を撫でた。
そしてその瞬間、ダンブルドアに言われた一言を思い出した。
『…案外、王子様のキスで目が覚めるかもしれんがの…』
自分でも何を考えているのかと、ダンブルドアの一言を払拭しようするが、思いとは裏腹に、スネイプの視線はブラウニーの唇に注がれていた。
そうしてまた、日付が変わる。
ブラウニーの瞼を見ても、ぎゅっと手を握ってみても、すぐに目が覚める気配はなさそうだった。
そんなおとぎ話のようなことが起きるわけがない。
しかし、もしもそれで彼女の目が覚めるなら…
スネイプは腰を浮かせて、唇を重ねた。
それからそっと唇を離し、ブラウニーの顔を見た。
やはり、あれはおとぎ話の中でだけの出来事だ。
スネイプが自分の行いに自嘲したときのことだった。
衣擦れの音がした。
スネイプがはっとしてブラウニーを見ると、彼女がちょうど目を覚ましたところだった。
「あ…おはようございます」
そう言って、何事もなかったかのようにブラウニーは微笑んだ。
「ブラウニー…!」
「3時間、ぴったり?」
「3時間どころではない!丸3日だ!」
誤差と一言で片付けるには無理のある時間差に、ブラウニーは息を呑んだ。
「まったく、後先考えずに実験途中の魔法薬を飲み干すとは…どれだけ心配したと思っている」
「すみません…スネイプ先生が代わりに飲むって言うので、つい…」
ふとブラウニーが自分の手を見ると、スネイプに手を繋がれていた。
視線に気付いたスネイプは手を離そうとしたが、ブラウニーに握り返されてそのままとなった。
そしてようやく、自分が医務室で横になっていることに気付いたブラウニーは、恐縮した。
「先生方にご迷惑をおかけしちゃったんでしょうか…」
スネイプは、医務室のベッドを借りてマダムの看護下にあったこと、ダンブルドアから週末は休ませるよう言われたこと、今夜目が覚めなかった場合にはダンブルドアが手を施そうと言っていたことなどをかいつまんで伝えた。
「…そうだ。私、いくつも夢を見たんです」
ブラウニーは、繋いだ手にもう一方の手を重ねた。
「中でも印象的だったのが…スネイプ先生にキスされる夢でした」
照れながらそう言って、スネイプをまっすぐ見つめた。
スネイプもまた見つめ返したが、いたたまれず視線を外した。
「夢ではない…」
ブラウニーは、その言葉に続く言葉を待った。
スネイプはまるで怒っているかのような表情をしていたが、ブラウニーには、照れ隠しの表情だと理解できていた。
「もう目を覚まさないかと…藁にもすがる思いだった。…もう心配させないでくれ」
そう言って、スネイプは優しい眼差しで、ブラウニーの頭に手を載せた。