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001〜050
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6年生の冬のことだった。
調べ物をするために図書室へ向かう途中、見覚えのある同学年のレイブンクロー生に声を掛けられた。
彼とは特別仲が良いというわけではなかったが、この学校での生活も6年目となると、同学年の生徒の顔と名前くらいは一致させることができた。
彼に悪い印象は持っていなかったので、当たり障りのない挨拶を交わしていると、彼は私に手紙を差し出してきた。
彼には申し訳ないけれど、私の中で答えは出ていた。
答えが出ているのだから、そもそも受け取るべきではないのではないか。
そう思っていると、彼は私の手を取って、半ば押し付けるようにして手紙をよこした。
そこでようやく私は、彼がここで私と居合わせたのは偶然ではないのだということに気が付いた。
この廊下を、寒い冬の日に、まして冷たい雪の降る日に好き好んで通る人はいない。
私がこの時間帯にここを通るということを、いつからか知っていたのだろう。
そして指先が冷たくなるほどに、ここで私を待っていたのだ。
私は彼に対する申し訳なさで一杯になった。
「…ごめん」
それは私の声ではなく、彼の声だった。
私の手に触れたことだろうか、それともその触れた手が思いの外冷えてしまっていたことに自分でも気付いたからだろうか。
いや、その両方か。
「…それ読んで、返事聞かせてほしい」
私が他のことに気を取られている間に、彼は端的に用件を済ませ、私に手紙を返す間を与えずに去っていく。
「えっ、あの…!ちょっと…!」
私は手紙と彼の背中を交互に見て、追いかけることを諦めた。
そして、心の中で呟いた。
私も、ごめんなさい。
私にも想う人がいるの。
叶わぬ恋ほど辛いものはない。
思わぬタイミングで実感した切なさに、図書室へ向かう気分でなくなってしまった私は、数歩後退り、今さっき曲がってきたばかりの廊下をまた戻ろうとした。
そのとき、誰かにぶつかりそうになった。
ひっ、と自分から変な声が発されたのが分かった。
「ごめんなさい、ちゃんと前見てなくて…」
目の前のその人は、その人こそが、私の諦めようにも諦めきれない人物に他ならなかった。
「スネイプ先生…!」
スネイプ先生は、私と目が合うとすぐに、視線を外した。
「え…どういう…。いっ…今の、聞いてたんですか…!」
「さて、何のことかね」
「盗み聞きとは、ずいぶんじゃないですか…!」
私の言い方が癇に障ったのか、スネイプ先生は顔の向きを変えずに視線だけを私に向けた。
「聞かれてまずいことならば、然るべき場所で話すべきだと、そうは思わないかね」
「確かにそうですけど…私も、まさか…ここで、こんなことになるとは…」
「生憎だが、我が輩は生徒である君の、まして恋愛事情にはなおさら興味がない」
「やっぱり、ちゃんと聞いてたんじゃないですか…」
「…おめでたいことかと思ったが、君はあまり嬉しそうではないな」
スネイプ先生は私の手に握られた手紙を見て言った。
「全然おめでたくないです、これは返しそびれたものなので…」
私はそれを隠すようにローブのポケットにしまう。
そして心の中で、それはさておき、と前置きをして、話題を変えた。
「スネイプ先生にご相談したいことがあったんです」
「学業に関することならば聞かないこともないが、その場合も、我が輩ではなく、他の先生に相談するのが得策だと思うがね」
「進路のことなら、スネイプ先生も聞いてくれますか?」
「…」
「そんな、あからさまに嫌そうな顔しなくても…!」
「魔法薬学の成績が優秀な君だ。甘んじて聞こう」
「ふふ。ありがとうございます。…実は私、ホグワーツで先生になりたいと考えてます」
「…君が、教員に?」
「はい。スネイプ先生は、闇の魔術に対する防衛術の先生に…なりたいんですよね?」
スネイプ先生は無表情のまま、降りしきる雪を見た。
「あ、えっと…すみません…そうではなかったですか?」
「いや、確かに」
「私は…魔法薬学の先生になりたいです。つまり…」
スネイプ先生がふっと微笑んで言う。
「つまり、君にいま勉強を教えることが、将来、我が輩にとってのプラスになると、そう言いたいのかね」
「…ふふ。バレちゃいました?我ながら、いい話だと思ったんですけど…」
「そうだな、悪くない」
「えっ」
「今夜から毎週、20時に研究室に来るように」
「あ…は、はい…!」
「…思い出しました?ここで、そんなやりとりがあったこと」
あの日と同じように、今日も静かに雪が降っている。
「…どうであろうな、はっきりとは」
「あれって今思うと…スネイプ先生はあの当時から、ちょっとは私に好意を持ってくれてたっていうことですかね…?」
彼は何も言わず、含みをもたせるかのように彼女を見つめた。
「…ブラウニーの気持ちに気付かぬふりをし、それ以上踏み込ませないようにしなければならなかったこちらの苦労が分かるかね」
「ふふ。教員という立場になった今なら理解できます」
「参考に聞かせてほしい。あのときの手紙の男子生徒とは、あのあとどうなった」
「今になって気にすることですか?」
「当時に聞けるはずもないであろう」
「それって…あのときも気になってたってことですよね…」
スネイプが目を逸らす。
ブラウニーは、彼の横顔を見てにんまりと笑みを浮かべた。
「私の初めては全部スネイプ先生だって言ったら、その答えになりますか?初恋の相手も、初めてのキスも、それから初めての…」
「分かった、分かったからもうそれ以上…!」
スネイプは慌てて周囲を見渡した。
誰もいないことを確認して、咳払いをする。
「ちなみに、ああして個人授業を設けた理由を誤解しないでほしいのだが、君には当時から魔法薬学のセンスに抜きん出るものがあった」
「はい、それは分かってます、買ってくださったんですよね、私の将来性を」
「ああ。だからこそ、我が輩の下で、助教で落ち着いていないで、一人前になってくれたまえ」
「私が一人前の魔法薬学の先生になったら、スネイプ先生は闇の魔術に対する防衛術の先生ですよね。一緒にいられる時間がぐっと減っちゃいますけど、いいんですか?」
「それでもだ。その代わり、休日に仕事はしないこと。…我が輩と過ごす時間だ」
「ふふ。約束します」