設定しない場合の主人公の名前は、ブラウニーとなります。
051〜100
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001:君の名前(L)←
生徒や教員がいつものように朝食をとっていると、大広間にふくろうたちが次々と入ってきて、彼らもまたいつもと同じように、目当ての生徒たちにそれぞれ郵送物を届けた。
上級生たちはスマートにそれを受け取り、また、彼らのふくろうたちも慣れたもので、一仕事を終えると、すっとふくろう小屋へ戻っていくようだった。
一方、新入生たちのテーブルを見ると、生徒もふくろうもお互いにまだその加減を心得ておらず、郵送物の受け取りにもたついていた。
ブラウニーは三角にカットされたトーストを齧りながら、そんな光景に微笑んでいると、視界に何やら気になる物体を捉えた。
彼女が思わず目をやると、それは一際大きなふくろうだった。
彼女の思い違いでなければ、そのふくろうと目が合っている気がしてならなかった。
「え…?」
ブラウニーのこぼした声に、隣に座るルーピンが彼女の横顔を見て、その視線の先のふくろうも捉えた。
彼女は自分の元へと一直線に飛んでくる大型のふくろうを前に、目を離すことができず、口の中のトーストを急いで咀嚼し飲み込んだ。
ふくろうが近づいてくるにつれて、彼女だけでなく、ルーピンまでも、テーブルの上に載っているゴブレットやお皿を一方に寄せ、ふくろうのために場所を開けた。
ふくろうは直前でスピードを落とし、テーブルに着地すると、嘴を軽く上下に動かし、茶色の封筒を咥えていることをアピールをした。
ブラウニーは、その封筒に記されている宛名が、確かに自分の名前であることにどこか驚きつつ、そっと手を差し出した。
「ありがとう…」
彼女は封筒を受け取ると、瞬間的に、思っていた以上の厚みと重量を感じた。
封筒を裏返すと、差出人欄に押してあるスタンプが目に留まる。
スタンプは金色で、洋書を象っており、彼女がそれに既視感を抱いたのも当然だった。
かつて、ブラウニーがホグワーツの教員になるために勉強に励んでいた頃、足繁く通っていた書店の看板と同じデザインだったからだ。
それから彼女は、改めて差出人の名前を確認すると、表情がふっと和らいだ。
その様子を静かに隣で見ていたルーピンが声を掛ける。
「嬉しそうだね」
「うん。…あっ、リーマスも知ってる人だよ」
「私も?」
ブラウニーは、手紙の差出人について思案しているルーピンをよそに、ふくろうに話しかけた。
「あとで返事を書いたらあなたに持って行くから、他の子たちと一緒にふくろう小屋へ行って、待っていてくれるかな?」
ブラウニーは感覚的に、自分の言ったことがふくろうにきちんと伝わった気がした。
ふくろうは大きな羽を広げて、ふわっと飛び立ち、他のふくろうたちに交ざって大広間を後にする。
その姿を見届けながら、ルーピンは手紙の主に思い当たる人物がいることを思い出し、彼女に話しかけた。
「もしかして、その手紙の送り主って…本屋の?」
ブラウニーは首を縦に振り、差出人欄が見えるようにして封筒を差し出した。
それを見て、彼も先ほどの彼女と同じ表情になった。
「このスタンプ…あの店の看板と一緒だ」
「うん、懐かしい。リーマスが壊れてた看板を直してくれたんだよね」
「ははは。よく覚えてるね」
「うん。だってリーマスと初めて会ったときのことだから、忘れないよ」
ブラウニーはそう言ってしまってから、ルーピンの微笑みに恥ずかしくなった。
「て…手紙っ、なんて書いてあるかな。開けてみるね…」
周囲の教員たちは、生徒たちと同様に朝食を食べ終えた者から立ち上がり、大広間をあとにしていく。
ブラウニーは封を開け、取り出した手紙を広げると、そこから白い封筒が滑り落ちた。
「あっ…」
「いいよ、拾う」
「ごめん。ありがとう」
手を伸ばしかけたブラウニーを制止して、ルーピンが手を伸ばした。
彼がその白い封筒を彼女に差し出そうとしたとき、二人の視線は自然とその宛名に注がれた。
丸みを帯びた筆跡で「リーマスへ」と記されている。
「私宛て…?」
ルーピンの言葉に、ブラウニーの表情が固まった。
なぜなら彼女はその字を見るなり、自分自身が過去に彼に宛てた手紙に間違いないと思ったところだったからだ。
そしてほぼ同時に、内容を必然的に思い出す。
ルーピンはその様子に微笑んだ。
「この手紙、もしかして…ブラウニーが?」
「う…うん」
「ははは。やっぱり。筆跡はそんなに自信がなかったんだけど…ブラウニーがすごく分かりやすいものだから」
ブラウニーは認めてしまってから、適当にこの場をやり過ごしたほうが良かっただろうかと今更ながらに後悔しつつ、両手で頬を撫でたりつまんだりして、顔の筋肉をほぐした。
「でも、どうしてこの手紙をおじいさんが?」
「それは…」
ブラウニーは周囲を気にして言葉に詰まった。
しかし幸いなことに、近くにいた他の教員たちは既に離席していたため、彼女は手短に話すことにした。
「あの日、リーマスは突然姿を消したでしょう?私はあの後も、それまでと同じように、毎日のようにおじいさんの本屋さんに通ったの。ただ、あの日からは…もしかしたらリーマスがふらりと戻ってくるかもしれないと思ったりもして…」
「…そうか。悪かったね」
「ううん、そんな!私が勝手にそう思っていただけだから。…しばらくして、ありがたいことにホグワーツでの私の勤務が決まって、あの場所を離れることになったから、そのときにおじいさんに手紙を託したの。いつかリーマスがお店に来たら渡してほしい、ってお願いをして」
「…ところが、私がおじいさんに会いに行くよりも先に、ここ、ホグワーツでブラウニーと再会したわけか。…私も正直、ブラウニーとはもう会えないだろうと思っていたよ」
ルーピンはブラウニーの目をまっすぐ見て言った。
彼女は嬉しくなった。
彼が照れ混じりに時計を見ると、まもなく始業の時間を迎えようとしていた。
「…おっと、続きはまた夜にでも」
ブラウニーも彼同様、授業が控えていることを思い出し、慌てて立ち上がる。
彼女は手紙や封筒をさっとまとめると、ルーピンとともに大広間の出口へと向かった。
ブラウニーは歩きながら、先ほどの白い封筒を見つめる。
大広間を出てすぐ、ルーピンとブラウニーはそれぞれの教室に向かうため、左右に分岐する。
彼が「それじゃあ、」と振り向いたとき、彼女は「ごめん、10秒だけ!」と懇願した。
思いの外、大きい声が出たことに彼女自身が驚き、意識的に声量を抑える。
「う、受け取ってもらえないかな?一度は私の手元を離れたものだし…!」
「いいの?」
「…うん」
「ありがとう。あとで読ませてもらうよ」
「それじゃあ…じ、授業、行くね」
ブラウニーは踵を返すと、授業に急ぐためか、この場から早く逃げ出したいがためか、早足になった。
ルーピンは少し躊躇ったが、意を決してその後ろ姿に声を掛ける。
「今夜…!話したいことがある」
階段に足を掛けていたブラウニーが振り返る。
「あ、いや、手紙をもらったから、っていうわけじゃないんだ。それはきっかけに過ぎなくて…。つまり、その…ブラウニーと再会したときから、考えてた。…これからの、私たちについて」
彼女は、後悔からのあまりの急な展開に、開いた口が塞がらなかった。
ルーピンはその姿を見て、意味深長な微笑みを浮かべると、名残惜しそうに教室へと向かう。
程なくして始業のベルが鳴る。
ブラウニーは、はっとして階段を駆け上がっていった。