設定しない場合の主人公の名前は、ブラウニーとなります。
051〜100
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午後の休憩時間に、ブラウニーは教室内を見渡した。
はみ出していた椅子を一脚見つけると、彼女はそれを元に戻そうとしたが、そのとき、机の下に何かが落ちているのが目に入る。
彼女が手に取ったそれは、同じ大きさの石が連なったブレスレットだった。
乳白色がかった不透明の石をぼんやりと見つめていると、ブラウニーはふと、小さいながらも夜空に浮かぶ満月のようだと思った。
「…落とし物かね」
「はい、そうみたいです。すごくきれいなんですけど、誰が身に付けていたか全然記憶になくて…それに、今日はいくつも授業があったから、どのクラスか見当もつかないですよね」
「大事な物であれば、自ら探しに来るであろう」
「そうですね…とりあえず、夕食までは私が持っているので、もし誰か尋ねて来たら教えてください」
「ああ」
ブラウニーはローブのポケットにブレスレットをしまうと、ローブの上から手を当てて、確かにポケットに入ったことを確認した。
次のクラスの授業では、ブラウニーは主に教室内を巡回して、授業の進行のサポート役に回った。
教室の後方から見ていると、スネイプが説明をしている間に一人だけ、その長い髪を何度もかき上げたり、手櫛で髪をといたりしている生徒がいて、やけに目立って感じた。
その女子生徒は大人びていて、いつもフローラルな香水の香りを漂わせていた。
ブラウニーは香水があまり得意でなかったが、彼女の香水の場合、もう少し控えめに付ければ、きっと良い香りなのだろうと常日頃思っていた。
ブラウニーは授業の前半こそ、彼女が気になっていたものの、授業の後半になり、ペアを組んで魔法薬を作る段階になると、彼女の存在はすっかり他の生徒たちの中に紛れていった。
ペアの一方は、指示された内容の魔法薬を作り出せるかどうか、そしてもう一方は、その間、些細な変化も見落とさず、その魔法薬精製の過程をレポートにまとめることだった。
テンポ良く手順を踏んでいかないと完成しない魔法薬なだけに、教室のあちらこちらで焦りの声や失敗した時の爆発音が賑やかに聞こえた。
授業が終わり、ほとんどの生徒が教室を出ていきつつあった。
ブラウニーは、生徒たちが走り書きしたレポートをたくさん抱えて、研究室にそれらを運んだ。
次の授業はなく、夕食まではまだ少し時間があった。
彼女は研究室の机の上に載せた、たくさんの丸まった羊皮紙を見て、くすっと笑いが
それは、毎度懲りずに意地悪な課題を出すスネイプに対するものと、その求めに応じた(応じようとした)生徒たちの頑張りに対しての微笑みだった。
試しに一つ二つ羊皮紙を広げてみると、慌てて書き殴ったために単語のスペルが間違っていて、まったく別の意味の単語になっていたり、そもそも何と書いてあるのか解読不能に近いものだったりと、これはこれで採点が楽しそうだとブラウニーは思った。
そのとき、教室の方からカタンと何かが倒れたような音が聞こえた。
ブラウニーが半開きになっている扉を見つめると、その扉の向こう側から話し声も聞こえてきた。
スネイプの低い声と交代で聞こえてくるのは、例の香水の女子生徒の声だ。
扉を開けると、スネイプが女子生徒の手首を掴んでいる姿が目に飛び込んできた。
ブラウニーは、二人の距離感に混乱した。
向かい合って、そんなに近い距離で、何をしていたのだろう。
彼女の混乱はそのまま表情に表れていた。
スネイプは掴んでいた女子生徒の手首を粗雑に離し、「出ていけ。今すぐにだ」と冷たく言い放った。
むすっとした表情を浮かべた女子生徒だったが、混乱した様子のブラウニーに満足したようだった。
スネイプは、女子生徒の背中に追い打ちをかける。
「目に余る行動が続くようなら、母君に手紙を書こう。苦手科目の男性教員をたぶらかす癖がある、と」
女子生徒はスネイプをキッと睨みつけて教室を出ていった。
ブラウニーは状況を整理しようとしたが、女子生徒がバタンと大きな音を立てて扉を閉めてもまだ、頭が追いついていなかった。
スネイプも、すぐには言葉を発さなかった。
「え、っと…」
「…今しがた言った通りだが、まだ何か引っかかっているようだな。…君に危害を加えそうな言動があったからして、暫し静観していたが、我輩の首に手を回してきたのでやめさせたまで」
「そういうことだったんですね…」
「誤解は解けたかね」
首を何度も縦に振るブラウニーに、スネイプは微笑んで小さなため息をついた。
それから思い出したように言う。
「このあと、ルーピンが脱狼薬を取りに来る。我輩は、致し方ないが、奴のために薬を作らねばならない。先ほどのレポートの採点を頼めるだろうか」
「はい、もちろんです」
「…厳しめの採点を頼む」
ブラウニーは曖昧な返事をして、苦笑いを浮かべながら研究室に戻っていった。
「いつも悪いねえ、セブルス」
「そうは思っていないような軽い口振りだな」
「そんなことないよ。本当に毎回感謝してるんだ」
「感謝などいらぬから、ぜひ自分でこの薬を作れるようになってほしいものだがな」
「私みたいな一般的な知識しかない者が作れるような代物じゃないだろう?…いや、もしかして、ブラウニーにも作れたりするの?」
「彼女を巻き込むな」
「…ふーん、そうか…」
「…何だその目は」
「いや、彼女のこと、ずいぶん大切に思ってるんだなあ…と思ってね」
「…っ!だいたい貴様は何故こうも他力本願なんだ。どうせ未だにこの薬の材料を列挙することもできんのだろう」
「そうやってはぐらかす」
「はぐらかしてなどいない!」
「セブルス。顔、赤くなってるよ」
「赤くなど…!」
研究室の扉が開く音がして、スネイプとルーピンは一緒に振り向いた。
そこにはもちろんブラウニーが立っており、ドアノブを握る反対の手の中には、くるんと丸まった羊皮紙が握られていた。
それは、スネイプに採点が甘いと言われないだろうかと、事前に確認しておきたいがためのレポートだった。
しかし、扉を開けた彼女が目にしたのは、ルーピンによってスネイプが壁際に追いやられ、ましてその彼が自身の紅潮した顔を片手で覆い隠そうとしているような姿だった。
ブラウニーはただただ開いた口が塞がらず、数秒間見つめた後に、何も言えずに静かに扉を閉めた。
スネイプとルーピンは不思議そうに、彼女が閉めた扉から視線を戻し、お互いに目を合わせた。
それから、ほぼ同じタイミングで状況を理解し、接近していた体を引っぺがすようにお互いに飛び退いた。
二人は一定の距離を保ったまま、研究室の扉へと向かう。
「貴様は何故そんな我輩の近くにいたのだ!」
「君がこの薬の材料を聞いてきたんだろう?まずはこれだろうと思って、瓶を取ろうとしていたんだよ。だいたい、ここにある瓶はどれも文字が読みにくいよ」
「それはこちらに落ち度があるのではなく、貴様の老眼に文句を言うのだな!」
「お生憎様、私はまだ老眼にはなっていないのでね。瓶を取ろうにも、顔を赤くした君が退かなかったからこういうことになったんだ」
スネイプはローブを翻し、躊躇うことなくその扉を開けた。
そこには案の定、ブラウニーが立ちすくんでいた。
彼女は自身の処理能力を超えた出来事を目にし、フリーズしているようだった。
「ブラウニー。完全なる誤解だ」
「ブラウニー…?私の残り僅かな沽券にも関わる出来事だから訂正させてほしいんだけど、断じて私とセブルスは、そういう関係ではなくて…」
「そう…なんですか?てっきり私は、ルーピン先生がスネイプ先生に迫っている場面に出くわしてしまったのかと…」
「迫られてなどいない!」
「まさか!迫らないよ!」
ほぼ同時に完全に否定されると、ブラウニーのフリーズも解除され、いつもの調子を取り戻した。
「スネイプ先生ったら、ついさっきも女の子に迫られてて…」
ルーピンは呆れた表情をして、無言でスネイプを問い詰めた。
「それも誤解だ!それは先ほど誤解を解いたはずであろう」
「セブルスも隅に置けないね」
「そうなんです。ちょっと脇が甘いというか…。もしかして、実は本当に甘い香りのフェロモンを発しているなんてことは…」
ブラウニーは「失礼します」と言って、スネイプの胸元のローブを引っ張るようにしてくんくんと匂いを嗅いだ。
「我輩は何もしていない…!」
「それ、もしかして…」
ルーピンが、顎に手を当てて言う。
「セブルスに原因があるんじゃなくて、ブラウニーの問題かもしれないよ」
「私の?」
「うん。…最近、アクセサリーを新たに買ったり、もらったりした?」
ブラウニーが首を横に振る。
「そうか…それじゃあ違うな。ムーンストーンなら、もしかして、と思ったんだけど…」
「ムーンストーン?」
「うん。身に付けていると、身近な人の危険を察知したり、自分自身の感性が鋭くなったりすると言われていて、満月が近づいてくるとその力が強まる、とか何とか」
「満月が…」
ブラウニーの頭の中に、先ほど拾ったブレスレットが
「そのムーンストーンって…まさかこういう見た目じゃないですよね?」
「あ、それだよ!やっぱり持ってたんだね」
「いえ、さっき教室で拾ったんです。あとで教員室に持って行こうと思って」
「そうか。…正直、石の力って迷信の類いなのかと思っていただけに…ブラウニーは影響を受けやすいタイプなのかもしれないね」
しばらく静かにしていたスネイプが、ブラウニーの掌からブレスレットをつまみ上げた。
「これ以上、誤解が生じ、その度にその誤解を解くのでは面倒だ。我輩が預かろう」
「あ、すみません…」
それを見ていたルーピンが、ブラウニーに耳打ちをする。
「…要するに、ブラウニーに自分を誤解してほしくないってこと」
「何か言ったかね」
「いや?…ねえ?ブラウニー」
「ふふ。ええ、何でもないです」