設定しない場合の主人公の名前は、ブラウニーとなります。
001〜050
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「…あ」
ブラウニーは個室の扉を前に立ち、ここまで来ておきながら今更ノックしようかと悩んでいると、抜群のタイミングで目の前の扉が開いたので、彼女は驚いて目が点になった。
「すみません…っ、今ノックしようと思っていたところで」
ルーピンは嬉しさと気恥ずかしさが相まった笑顔を浮かべた。
「おはよう。実は私も、これからブラウニーに会いに行こうかと思っていたところなんだ」
ブラウニーは笑顔になって、「良かった。おはようございます」と言った。
ルーピンは横目で自室を見てから言った。
「入る?…あ、いや、変な意味はないんだ。ただ…」
彼の慌てて弁解する様子に、ブラウニーは少し緊張がほぐれた。
「ふふ。入ってもいいですか?」
「…うん。どうぞ」
初めて入る彼の部屋は、ブラウニーが思っていた以上にこざっぱりとしていた。
壁や机上には、こちらに手を振ったり、微笑みかけたりする写真立てもなく、年季の入った備品の本棚も、並ぶ本よりも空いている棚が目立った。
部屋を見渡した彼女の言わんとすることがルーピンにも伝わり、彼は自嘲気味に言う。
「転々とする生活が多かったから、いつからか荷物は、一度に運べる分しか持たなくなってしまってね。私にはこれで十分なんだ」
「私の部屋も、見習います」
ルーピンは控えめに笑った。
「見習わなくていいんだよ。でも…今度、ブラウニーの部屋にも遊びに行くよ」
「はい。…ふふ」
「…ん?何かおかしかった?」
「いいえ!ただ…部屋の行き来をするなんて、恋人みたいだなあと思ってしまって…」
「…だってもう、恋人に…なったでしょ?」
ルーピンはブラウニーの顔を覗き込むように首を傾げた。
彼女はにやけた顔をそのままに、大きく一度頷いたが、視界に動くものを捉えて、ふと窓の外を見た。
窓の外は、空の青と雲の白、山の緑のコントラストが鮮やかで、窓枠を額縁に見立てた風景画のようだった。
ブラウニーは感嘆の声を漏らし、ルーピンの方を振り向いてから、窓に近付いた。
窓枠に手を掛けて外を見ると、一羽の鳥が気持ち良さそうに滑空しているのが見えた。
「ルーピン先生!きれいな景色だと思ったら、あそこに虹も出てますよ!」
「どれ…ブラウニーはラッキーだね」
「ルーピン先生こそ、虹が見られるお部屋だなんて幸せですね」
「北向きの部屋の特権かな。ブラウニーの部屋は?」
「私の部屋は…」
ブラウニーは指を差しながら考え込んで、「こっち…いや、こっち向き…ですかね」と言いながら、ぐるりと体の向きを変えた。
振り向いたすぐ正面には、彼女を愛おしそうに見つめるルーピンがいた。
「…南向き?太陽が差し込んで、それは明るいだろうね」
「はい…眩しい、です…」
それから二人は数秒見つめ合い、引き寄せられるようにして唇を重ねた。
そしてお互いに照れ臭そうに笑い、ルーピンがブラウニーを抱き締めた。
ブラウニーも遠慮がちにルーピンの体に手を回し、彼の腰の辺りのローブを掴む。
「ずっとこうしたかった」
「はい…私もです」
「…本当かい?それは嬉しいな」
それからしばらく、二人は無言のまま抱き合って、好きな人に触れられる喜びを感じ、好きな人の匂いを感じた。
「ブラウニー。せっかくの休みだし、ホグズミードに行こうか」
「それって、デート…ですか?」
彼女が嬉しそうに言ったその単語に、ルーピンは頭を掻いた。
「…初めてのデートがホグズミードか…これじゃあ、そのうちブラウニーに愛想を尽かされてしまいそうだね」
「そんなことないです!行きたいです、一緒に」
「うん。遠くへ出かけるのは、また満月の日でないときにしよう。約束するよ」
「はい、楽しみにしてます」
ホグズミードに着くと、ホグワーツ生があちらこちらで楽しそうな笑い声を上げていた。
二人は引率で来ている他の教授に紛れ、堂々とその中を歩く。
ハニーデュークスの店内は特に生徒たちがごった返していて、目が回りそうなくらいの商品の種類と色づかいの中、二人は、どれを買おうか悩んでいる3・4年生たちにアドバイスをしたりして楽しそうに店内を回った。
店を出るときには、二人の手元には生徒たちと同じく、カラフルなお菓子が握られていた。
「ふふ。懐かしいですね。今食べます?それとも帰ってからに…」
ブラウニーがルーピンを見上げた際、近くの店のショーウィンドウが目に留まった。
何かに興味を奪われた彼女の目線の先を見て、ルーピンは微笑んだ。
「お菓子は帰ってからにして、向こうも行ってみようか」
「あ、いえ!すみません、キラッと光ったのが気になってしまって…」
「いや、いいんだよ。気になったところに行ってみよう」
二人は手に持っていたお菓子をローブのポケットにしまい、生徒たちの間を縫うようにして店先まで歩いた。
ショーウィンドウを見ると、天球儀や古書、装飾のきれいな額縁など、アンティーク雑貨を扱っているお店のようだった。
ブラウニーが目に留めたのは、そこにぶら下がっていたシンプルなサンキャッチャーで、細めのチェーンに大小あるクリスタルガラスが連なり、周囲に虹色のスペクトルを写し出していた。
「きれいだね」
「…はい、とても。ちょうどよく陽が当たって…」
キラキラ輝くサンキャッチャーに見入っているブラウニーの横顔を、ルーピンはちらっと盗み見た。
ブラウニーはそのことには気付かず、ショーウィンドウに飾られている他の商品を指差して、「これ、校長先生の部屋にありそうですね」と悪戯に笑った。
ルーピンはまた違う商品を指差して、「こっちは、マクゴナガル先生が身に付けていそうだよ」と切り返した。
それから二人は、生徒たちと同様にホグズミードをたっぷり散策して、帰路に就く。
「…すまないね。夜まで一緒にいられたら良かったんだけど」
「いいえ、十分楽しかったです」
「また今度…ちゃんとデートしよう」
「今日のも『ちゃんと』デートですよ」
「はは。そうかい?それは良かった」
ルーピンは立ち止まって、ローブのポケットを探る。
ブラウニーもまた彼が立ち止まったことに気が付いて、振り返って足を止めた。
ポケットから出てきたのは、先ほど買ったお菓子だった。
「あ…いや、お菓子を出したかったんじゃないんだ」
ブラウニーは疑問符を浮かべながら、くすっと笑った。
「…これを、ブラウニーに」
ルーピンの手から胡桃ほどの大きさの透明な雫のような塊が零れ落ちると、その雫の重さによって、彼の指先からピンと細いチェーンが張られた。
「え…これ…!」
「うん。気に入っていたみたいだから」
彼の指先からぶら下がっているのは、アンティーク雑貨店のショーウィンドウで見た、あのサンキャッチャーだった。
「うわあ…ありがとうございます…!いつの間に!」
ルーピンは「どういたしまして」と、にこにこと笑って誤魔化した。
彼女の両掌がサンキャッチャーの下に差し出される。
「嬉しいです」
「ブラウニーの部屋は日当たりが良さそうだから、これでいつでも部屋の中に虹を感じられる」
「早速このあと、窓際に飾りますね」
「うん」
「さて、それじゃあ私はもう行くね」
「…次のデートでは、敬語がなくなって、お互いに名前を呼び合える関係になるといいな」
はっとした表情のブラウニーの頭に、彼の手が載せられた。
「楽しみに待ってるよ」