設定しない場合の主人公の名前は、ブラウニーとなります。
001〜050
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背中を押す強い風が吹いていた。
芝生は風に吹かれるがまま、すべてが一方方向に倒れ、風には抗えないでいた。
季節外れの肌寒さを感じる風だった。
ブラウニーは強風で広がろうとする髪の毛を耳に掛けて押さえたまま、もう一方の掌を空に向け、同時に空を仰ぎ見た。
「あれ?…雨」
ブラウニーが風の吹いてくる方角を振り返ると、そこには明度の低い厚い雲がすぐそこまでやってきていた。
「スネイプ先生…風が強いと思ったら、もうすぐそこまで雨雲が…!」
ブラウニーが指差した空を、スネイプも見上げた。
雨雲の下はカーテンが閉まっているように見え、そこだけ景色がぼやけており、豪雨が近づいているのは間違いなかった。
そうしているうちに雨の滴は、あちこちで芝を弾いては、その下の地面に吸い込まれていく。
スネイプは落ちてくる大粒の雨に目を細めながら、杖を取り出した。
ブラウニーはそれを視界に捉えると、彼の手元を覆うように掌で静止させた。
「呪文で濡れないようにするのもいいですけど、マグルの世界では、こういうとき、こうするんですよ」
ブラウニーは、庇をつくるように両手を頭上に掲げた。
彼女は大雨の兆しにワクワクしているようだった。
スネイプは、雨を楽しむ彼女の様子が可笑しくて微笑んだ。
「…スネイプ先生も、ほら早く!」
そう言って、ブラウニーは雨宿りできそうな場所に向かって駆け出して、数歩先で彼がついてきているか振り返った。
間隔の短くなる雨粒とブラウニーに催促され、スネイプも杖をローブにしまい、彼女の後に続く。
雨雲に日差しを遮られ、今や深緑色に見える芝生の上を、黒いローブ姿が二つ、中庭へと続く城門に向かって動いていった。
二人が軽く息を切らせて雨を凌げる場所に到着した頃には、雨は既に本降りとなっていた。
ブラウニーは終始笑いながら、息を整えるスネイプを見て言った。
「すみませんでした、結構濡れちゃいましたよね」
「…君もだ、ブラウニー」
「ふふ。私は大丈夫です」
ブラウニーは視線を、先ほどまでいた芝生の方に向けた。
本格的に降る雨に、彼女は柔らかな微笑みを浮かべ、その雨音に負けないように声を張った。
「子どもの頃のことを思い出しました。突然雨に降られたとき、父が目をキラキラさせて私に言ったんです、『雨の中帰るのも気持ちいいぞ』って。それで、雨宿りしていた場所から、次にまた雨宿りできそうな場所を見つけて、転々と走りながら帰ったんです」
スネイプは、雨の日の思い出を懐かしむ彼女の横顔に見入っていた。
ブラウニーはスネイプを振り返り、にこっと笑った。
「…ずぶ濡れで家に帰ると、二人して母に叱られましたけどね!」
「仲の良さそうな、素敵なご両親だな」
「ふふ。ありがとうございます」
ブラウニーは話の流れから、スネイプの両親について尋ねようとして喉まで出掛かったが、結局話題にはしなかった。
それは以前、彼の両親を話題にしたときに、スネイプ自身の反応が芳しいものでなかったことが思い起こされたからだった。
ブラウニーはふと何か思い立って、スネイプを手招いた。
城門のアーチの下を進んでいくと、雨音が少しだけ遠ざかったようにくぐもって聞こえたが、中庭に近づくに連れ、再び強い雨音が二人を迎えた。
中庭を囲む廊下を通り、地下の研究室へと向かう。
途中、何人かの生徒たちとすれ違い、その度に生徒たちは雨に濡れた二人を見て訝しんだ。
その反応に、一方は悪戯に笑い、もう一方は生徒たちを睨み返した。
研究室のドアを閉めて、ブラウニーは椅子に座るよう、スネイプに促した。
彼女自身は足を止めずに、自分の持ち物をしまってある棚に向かい、そこからタオルを手に取り、スネイプの元に戻る。
「私が言うのもあれですけど…風邪、引かないでくださいね」
そう笑った彼女は、タオルを広げてスネイプの頭を優しく拭き始めた。
スネイプは居心地が悪そうに、目線があちこちを彷徨っていたが、そのうちに彼の手が彼女の手を止めた。
「…ごめんなさい。嫌でした?」
「いや…タオルからブラウニーの匂いがすると思っただけだ」
「…それ、なんだか少し恥ずかしいです」
「良い匂いだ」
スネイプは満足そうに手を離した。
「…母が、拭いてくれたんです」
急にブラウニーの話の内容が飛んだために、スネイプは彼女の言葉の続きを待った。
「あ…すみません、さっきの、子どもの頃の話の続きです。…雨の中、びしょ濡れになって帰ってきた私を、はじめこそ母は怒ってましたけど、こうやって拭いてくれたんです」
「そうか…」
「呪文のないマグルの生活も、温かみがあって悪くないでしょう?」
「ああ」
「…とはいえ、」
ブラウニーは湿ったタオルを机上に置いて、手櫛でスネイプの髪を整える。
「本当はこのあとに、温かいお風呂が控えていると最高なんですけどね」
そう笑いながら言って、ローブから杖を取り出した。
「本当に風邪を引いちゃうといけないので、あとはこの"私たちの特権"で、さっと乾かしちゃいましょう」
「普段ならばそうするのだが…」
杖を掲げるブラウニーの手首を掴んで、スネイプは自身の脚の上に彼女を座らせた。
ブラウニーは咄嗟の出来事に驚いて、言葉にならない小さな声を上げた。
無意識に触れた彼のローブは、冷たく湿っている。
「…スネイプ先生…?」
スネイプの指先は、彼女の髪の毛の束を巻きつけたり、指の間に滑らせるように通したりして弄んだ。
それから首筋に顔を近づけ、何度か優しくキスをして彼女の体温を確かめる。
「…そんな顔をすると、やめるのが惜しくなる」
「…そ、んな顔してないです…っ」
スネイプは微笑んで、唇を重ね合わせた。
触れ合った鼻の頭はお互いに冷えていたが、キスは温かかった。
彼は、ブラウニーの手元から落ちそうになっていた杖を取り、それを机上に置いた。
「今熱いシャワーを浴びるのと、あとでシャワーを浴びるのなら、どちらがよい」
ブラウニーは一瞬考えて、困ったように口を尖らせて小さく呟いた。
「…それ…選択肢があるようで、全然ないですよね…!」
「気のせいではないかね」
スネイプはにやりと笑った。