設定しない場合の主人公の名前は、ブラウニーとなります。
051〜100
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「スネイプ先生、このあとって…お時間ありますか」
授業が終わり、まだ教室内にまばらに生徒が残っているときに、ブラウニーは小さな声でスネイプに声をかけた。
彼は一瞬考えを巡らして、何も予定がないことを伝えようとしたが、そのとき、教室に残っていたスリザリンの女子生徒から、彼を呼ぶ声が聞こえた。
「スネイプ先生!質問があります」
女子生徒が3人、教科書を広げたまま、彼の近くへやってくる。
彼はちらっとブラウニーを見て、尋ねた。
「急ぎの案件か」
ブラウニーは微笑みを浮かべて、頭を小さく横に振って、下がっていった。
スネイプは僅かに1秒、彼女を見つめたが、スリザリンの女子生徒たちの視線も感じていたため、何も言わずに視線を戻し、生徒たちの対応へと切り替えた。
試験前という時期ゆえ、授業後に質問を受けるのは珍しくなかった。
ブラウニーは教科書を揃えて、胸の前に抱き抱えた。
女子生徒のうちの一人が話し始めたが、その前置きが長かったために、スネイプはそれを聞き流しながら、視線を教室の出入り口へと移した。
ちょうどブラウニーが教室を出ていくタイミングで、こちらを向いて会釈し、去っていくところだった。
翌朝、食堂で顔を合わせたスネイプとブラウニーは、いつもと変わらぬ挨拶をした。
「おはようございます」
「おはよう」
周囲の教授陣の手前、当たり障りのない会話をするのがやっとだった。
「きのうはすまなかったな」
「いえ。私のタイミングが悪かったです」
「何の要件だった」
「あー、いえ…急ぎではないので…またタイミングを見て、お声がけしますね」
「ああ…」
そうしてブラウニーは、スネイプの席とは少し離れたところにある自席に向かった。
彼女が自分の席に向かう途中、笑顔で教授陣に挨拶をする姿もまた、いつもと変わらぬ様子に見えた。
彼は彼女の様子だけをずっと窺っているわけにもいかないため、興味はなかったが、食堂に集まってくる生徒たちのほうに目を向けた。
それからは、いつもと変わらぬ慌ただしい一日だった。
夕食後、試験問題の作成に時間を費やすスネイプの側で、ブラウニーは、罰として提出されたグリフィンドール生のレポートに目を通していた。
レポートをどうにか早く終わらせようとする生徒の気持ちが誤字や脱字となって現れていて、彼女はふふっと微笑んだ。
「…この時期にレポートを出せなんて、ちょっとかわいそうじゃないですか?」
「ふん…グリフィンドールの輩が悪い」
「ふふ、本当に意固地なんだから。体裁はちょっと雑ではありますけど、頑張って書いてありますよ。あとできちんと読んであげてくださいね」
スネイプが顔を上げ、「それはそうと」と話題を変えた。
「我輩に話があったのでは?」
「…あ、よく覚えてますね」
微笑んだブラウニーは、少し間を置いて、それについて話し始めようとしたときだった。
廊下のほうから大きな物音が聞こえた。音の感じからすると、すぐ近くではないようだ。
「ピーブス…!」
スネイプは、まるで監視カメラを見ているかのように、即座にその音の犯人を特定した。
スネイプが立ち上がるのと同時に、ブラウニーも立ち上がった。
「スネイプ先生は、試験問題を作っていてください。私が行ってきます」
「だが…」
「大丈夫です。私、結構ピーブスには好かれてますから」
ブラウニーは得意気に笑って、「それじゃあ、おやすみなさい」と言って颯爽と教室を出ていった。
スネイプはブラウニーの足音が遠ざかってから、またしても彼女の話を聞きそびれたことに気がついた。
翌日の授業が終わるまで、二人は示し合わせたかのようにその話題には触れなかった。
決して約束したわけではなかったが、スネイプもブラウニーもこの日の放課後の時間は空けておいたのだった。
「このあとは」
「大丈夫です。良かったら、外を歩きませんか」
「そうするか」
「用意する物があるので、ここで少し待っていてください」
ブラウニーは踵を返すと、足早に自室に戻っていった。
まだ夕暮れ時には少し早かったが、戻ってきたブラウニーはランタンを手にしていた。
反対の手には大判のブランケットも抱えている。
「一緒に行きたいところがあるんです」
スネイプは、ランタンとブラケットとブラウニーを順番に見た。
彼女も、そんな彼の視線に気付いて笑った。
「気になりますよね。もしかしたら夕食に遅れちゃうかもって、ダンブルドアには話してあります」
スネイプは、ブラウニーが行き先を言わない手前、それを聞くのは愚問だと思い、言葉を飲み込んだ。
そして嵩張っていた大判のブランケットを、彼女の代わりに持つことにした。
二人は湖の周りに沿って歩いていく。
「これから行くところは、もしかしたら、スネイプ先生はもう既に行ったことのある場所かもしれないです」
「そう思うか」
「学生時代、一人で過ごすことが多かったって言ってたでしょう?」
「ああ…そうだな」
「奥まってて、一人で過ごすには贅沢なくらいちょうどいいと思います」
「…それならば、行ったことはないな」
「そうですか?」
「『贅沢なくらいちょうどいい』…そんな場所などなかった」
ブラウニーは、遠い目をするスネイプの横顔が寂しく思えて、空いている手を差し出した。
「ここまで来たら、手を繋いでもいいですよね」
ブラウニーの手は温かく、スネイプは繋いだ手をぎゅっと握った。
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
「…じゃあ、今日は二人で『贅沢』しましょう」
さらにしばらく歩いたところで、ブラウニーが口を開いた。
「ほら、見えてきました」
ランタンを持った手で、ブラウニーが少し先を指差した。
スネイプは、自身の目を疑った。
まるでその一箇所だけ、雪国から切り取られてきたかのような情景だった。
その立派な木の下でだけ、細かい雪が舞っている。
しかし、一歩また一歩と近づくにつれて、スネイプはそれが雪ではないことに気がついた。
「桜…?」
独り言のようなスネイプの呟きに、ブラウニーは返事をした。
「そうなんです。ホグワーツにも、桜の木があったんです」
二人は手を繋いだまま、桜の木のすぐ近くまで歩いた。
「雪ではなく、花びらだったか」
「ええ、きれいですよね」
「本当だな」
「スネイプ先生と一緒に来られてよかったです」
ブラウニーの言葉に、スネイプの沈黙があった。
「…別れの挨拶ではあるまいな」
「え?別れの…?」
ブラウニーはスネイプを見たが、彼は目を合わせようとしなかった。
「ホグワーツを…辞めるのか」
「辞めないです」
「じゃあ何だ、長期研修か」
「行かないです!」
「…ダンブルドアには、何と言った」
「それは…スネイプ先生と…桜を見にデートに行ってきてもいいですかって…」
スネイプは、大きなため息をついた。
それから口元を覆って、桜の木をぼんやりと見た。
「君がいなくなってしまうのかと…」
「いなくならないですよ。もう少し一緒にいさせてください」
そう言って微笑んだブラウニーを、スネイプもまた見つめて微笑んだ。
「…『もう少し』と限定せずに、そばにいてくれないか」
ブラウニーは首を何度か縦に振り、「もちろんです」と答えた。
それから二人は、確かめ合うようにゆっくりキスをした。
春の冷たい風が吹いてきた。
辺りはすっかり夕暮れ色に染まっていた。
「スネイプ先生、寒いでしょう。キスのとき、お鼻が冷たかったから」
ブラウニーは悪戯に笑って、いつの間にか足元に倒れていたランタンを起こして火を灯した。
ブランケットの中に挟んでおいた自分のマフラーを取り出して、それを広げてから背伸びをして、スネイプの首に巻いた。
「私は今日ここに来るつもりでいたので、こう見えてもローブの下は暖かくしてきたので大丈夫です」
「…ありがとう」
「ホグワーツ城に戻る前に取らないとダメですよ。みんなにからかわれちゃいますから」
大判のブランケットの一枚を敷いて、その上に二人は座った。
もう一枚のブランケットは、二人の背中に掛けられ、足元にはランタンの火が灯っている。
「暗くなったら、帰りましょうね。ダンブルドアが心配しちゃう」
「ダンブルドアは何か言っていたか」
「ええ。ホグワーツに桜があるとは、ダンブルドアも知らなかったみたいです。今年はデートの邪魔になるから遠慮するけど、来年は自分も一緒に行かせてくれって」
二人は笑い合った。
「…でも、何で私がいなくなっちゃうと思ったんですか」
「それは…」
「気になります」
「桜の花びらが…君と重なった。桜が散っていく様を見たら、ブラウニーもどこかへ行ってしまうのではないかと思った。…それだけだ」
「スネイプ先生って風流ですね。しかも結構センチメンタル…」
悪戯に笑うブラウニーを、スネイプは恥ずかしそうに睨みつけた。
「…そういう愛情深いところ、大好きです」
彼は彼女の言葉にため息をついたが、口元はしばらく緩んだままだった。
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