設定しない場合の主人公の名前は、ブラウニーとなります。
001〜050
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「このあと、薬草の採取に一緒に行くかね」
「はい、もちろん」
ブラウニーは、机の上に置かれている空になったガラス瓶を見た。
瓶のラベルには薬草名が書かれており、それは既に彼女の知識として蓄積されているものだった。
「これ、禁じられた森の…」
「ああ、以前に一度行ったことがある」
ブラウニーは、雑多に物が積まれているスペースの一番上に、飾りのように置かれていた籐籠を取り、近くにあった布巾をその中に敷いた。
彼女が今にも出発できると言わんばかりに籐籠を手にしたとき、教室のドアをノックする音が聞こえた。
スネイプの短い返答に、ノックした人物がドアを開け、そこからマクゴナガルが顔を出した。
マクゴナガルは、スネイプとブラウニーの双方に視線を送ってから、端的に要件を伝えた。
「スネイプ先生、ダンブルドアがお呼びです」
「…今行きます」
マクゴナガルが静かにドアを閉めたのとほぼ同時に、スネイプはブラウニーの方を振り返った。
「薬草は急ぎではない。また後日に」
「あ…はい」
そうしてスネイプが教室を出て行ってから、ブラウニーは再び、机の上に置かれている空き瓶を見た。
急ぎではないと言われたものの、以前にも一度行ったことがある上、その薬草についての知識も持っていたため、ブラウニーは自分一人でも事足りると考えた。
彼女は机の上の空き瓶を手に取り、籐籠の中にそっと寝かせ、それを布巾でふんわりと覆った。
ブラウニーが籐籠をぶら下げながら、エントランスに向かって廊下を歩いていると、向こう側から一人の男子生徒がやって来るところだった。
彼もまたブラウニーの姿に気が付き、声を掛けてきた。
彼の名は、ドラコ・マルフォイ。
「先生、お出かけですか」
「薬草をね、少し取りに行くだけだよ」
「あの…それ、僕も一緒に行ってもいいですか?」
ブラウニーが一瞬返答に困っていると、マルフォイは続けた。
「薬草学について、もっと知りたいんです」
彼を動物に喩えるならば、スリザリンの生徒と並ぶいつもの姿からすると別の動物を連想させるが、今こうしてじっとこちらを見つめる姿は、どこか仔犬を彷彿とさせた。
「…うん、わかった。本当に勉強熱心だね」
ブラウニーの返答に、マルフォイはにっこり微笑んで、彼女の隣に並んだ。
この日は風が強く、雲の流れも速かった。
禁じられた森に足を踏み入れると、生い茂る木々によって、辺りはぐっと暗く感じられた。
木々の葉同士の擦れる音が、不気味な雰囲気を醸し出す。
ブラウニーが先導する形で、半歩前を行き、二人がしばらく進んでいくと、突然開けた場所に出た。
「…着いたよ。ここが、この薬草の群生地」
ブラウニーはそう言いながら、空瓶の入った籐籠を少し持ち上げて見せた。
それから、今にも雨が降ってきてしまいそうな曇り空を見上げてから言った。
「早速で申し訳ないんだけど、この薬草はね…」
ブラウニーがしゃがむと、マルフォイも彼女の手元が見える距離にしゃがみ、説明に耳を傾けた。
「…というわけで、濃い緑色の葉の部分は避けて、黄緑色のこの若い芽だけを摘んでほしいの。…うん、そうそう、上手上手」
それから二人は、時折会話をしながら、手際よく薬草の若芽を摘んでいった。
「…すごい。この短時間でもう半分まで摘み終わったよ!」
瓶を手にし、腕時計と曇り空を交互に見たブラウニーは言った。
しゃがんだまま、マルフォイは微笑んで言う。
「お役に立てて嬉しいです」
「来てもらえて助かったよ。あと少し摘んだら、終わりにしよう」
そして、瓶の中身が7割ほど埋まってきたときのこと。
水滴がブラウニーの頭部に落ちてきた。
彼女が、それを雨粒だと感じるまでの僅かな間に、手の甲にも続け様に水滴が落ちてきた。
「…降ってきちゃったね!向こうで雨宿りしよう!」
大粒の、スコールのような雨だった。
二人は急いで大きな木の根本まで走ったが、着いたときには既に髪もローブもかなり濡れてしまっていた。
ブラウニーはポケットからハンカチを取り出し、濡れたローブをさっと拭き始めたが、その隣でマルフォイは、空を見上げて佇んでいた。
ブラウニーはローブを拭くのをやめて、ハンカチをたたみ直した。
「びしょびしょだよ。拭かないと…」
髪の毛から雨粒が滴る様子は、捨てられた仔犬のようにも見えた。
ブラウニーがハンカチを渡すと、マルフォイは小さな声で「ありがとうございます」と言って、顔や首周りを手早く拭いた。
「以前から何度か思ってたんだけど、マルフォイ君って時々、仔犬みたいに思えるよ」
「仔犬って…そんなかわいいもんじゃないですよ」
大木の根本でも、スコールのような雨足の強い雨では、雨宿りの効果はあまり期待できないようだった。
見計らったかのようなタイミングで、ぼたぼたっと大きな雫が落ちてくる。
彼は大木の枝葉を見上げてからローブを脱いで、それを広げた状態で二人の頭上に手を伸ばし、ブラウニーと自分がその下に収まるようにした。
「あの…これだとちょっと…近いかな…」
「緊急事態なんで」
「緊急事態って…」
「…先生、香水付けてますか?」
「いや…付けてないよ」
「薬草摘んでるときも思ったけど、すごくいい香りがします」
ブラウニーの首元に少し鼻を近づけて、くんくんと匂いを嗅ぎ、「シャンプーかな…」と呟いた。
ブラウニーは、その距離の近さに固まり、目を瞬かせた。
「…僕、警戒されてます?」
「そ、そうじゃないけど…」
「言ったじゃないですか、仔犬みたいにかわいいもんじゃないって」
「…それ、どういう…」
そのとき、雨足がすっと弱まった。
地面や木々を打つ雨音が小さくなり、その代わりに、枝や葉のあちこちで、静かに雨粒が滴る音が聞こえてくるようになった。
「先生、隙ありすぎです」
マルフォイは、二人の頭上に広げていた自身のローブを下ろし、隣のブラウニーの顔を覗き込んだ。
「そんなだから、僕みたいな奴につけ込まれるんですよ」
「…それ以上、近づかないで」
ブラウニーが毅然とした態度でマルフォイの目を真っ直ぐ見たとき、遠くのほうから小枝を踏む音が聞こえた。
マルフォイがその音の鳴る方へ目を向けると、スネイプがこちらに歩いてくるところだった。
ブラウニーもまた、目の前の彼につられるようにして、スネイプの姿を捉えた。
マルフォイが自分のタイミングの悪さに自嘲したとき、森の方から声が聞こえた。
「…離れろ」
スネイプの冷たい声だった。
杖を取り出し、構えながら近づいてくる。
マルフォイは両手を挙げ、ゆっくりとブラウニーから離れた。
「何をしていた」
「何もしてません。…まだ、何も」
マルフォイは、このタイミングでスネイプが来ることがなかったら、あたかもこれから何かが始まるところだったかのような、挑戦的な言い方をした。
スネイプは彼に杖を向けたまま、告げた。
「寮に戻れ。あとで、たっぷり話をしよう」
マルフォイは、杖の先端とスネイプを睨みつけるようにして、来た道を戻っていった。
マルフォイの耳に、自分たちの会話が届かないであろうタイミングまで待って、スネイプが口を開いた。
「…すまなかった」
怒られることはあっても、謝られるとは思っていなかったブラウニーは、スネイプの一言に驚き、言葉が出なかった。
スネイプは、遠ざかっていくマルフォイの背中から視線を外し、ブラウニーを見た。
「何かされたかね」
彼女が頭を横に振ると、彼から安堵の息が漏れ、大きな手が彼女の頭に載せられた。
そして髪の毛をぐしゃぐしゃにするだけして、彼は言った。
「びしょ濡れだな」
「スネイプ先生…!」
ブラウニーがぐしゃぐしゃにされた髪を一生懸命直している間に、スネイプは大木の根本に置かれたままの籐籠を手にした。
「薬草…摘んでくれたのか」
籐籠からは、黄緑色の薬草の入った瓶が顔を出していた。
「あ…はい。でも、半分以上はマルフォイ君が手伝ってくれたんです。薬草学に興味があるみたいで、最近熱心で…」
「ほう…我輩には初耳だな。熱心なのは、違うものに対してだったのでは?」
スネイプは顔を動かすことなく、横目でブラウニーを捉えた。
ブラウニーは、自信のない小さな声で否定した。
「そ、そういうことじゃ…ないと思いますけど…」
スネイプは、彼女の顔にかかっていた少量の毛束を見つけると、そっと掴んで、それを彼女の耳に掛けた。
「二人で来たかったんだ、散歩がてら」
ブラウニーは、スネイプが何について話しているのか即座に理解できず、目の前の彼を見つめた。
「次にこの薬草がなくなったときは、ここに一緒に来よう」
そう言われて初めてブラウニーは、教室でスネイプに誘われたことの主旨を理解した。
「…それから、隙を見せるのは、我輩の前だけにしてくれ。これでも心配している」
ブラウニーは照れ笑いをして頷いた。