血界
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今日は格別疲れた。久しぶりの休みかと思いのんびりしていたところ、テレビに映るブラッドブリードの姿。長い戦いにはなったが、早急な対応により被害を最小限に抑えることが出来たのが救いであった。しかし今日はまた手酷くやられてしまったものだ。満身創痍の体を引きずり、本部へと足を運んだ。
「あ!おかえりなさい、クラウスさん!」
「!?月君、来てくれたのか。」
「ギルベルトさんに呼んでいただきました!ありゃあ、派手にやられちゃいましたねえ。」
よくやったぞ、ギルベルト!ヘトヘトになり帰ってきた本部で待っていたのは、自分の想い人。ライブラ構成員ではあるが、普段は幻界病棟ライゼズにおいての仕事で忙しい為、こうして本部にやってくることは稀だ。会えて嬉しい、と伝えたいのだが、どうも私は自分の気持ちを言葉にして女性に伝えることが苦手らしい。
「今日はスティーブンがいなかったからな。少し手間取ってしまった。」
「ありゃりゃ。まあでも無事で何よりですよ。怪我、見せていただいてもいいですか?」
「ああ、すまない。」
「血、結構使っちゃったんですね。傷口からもかなり出ちゃってますし。足しますから、ジッとしててください。ヒーラワウンド流血癒術、スフェルエルハヌン!!」
本部の真ん中にあるソファに座り、傷口を見せると彼女は早速治療を始めた。月君の能力はライブラの構成員達にとって欠かせない能力だ。傷だらけの私達を彼女はいつも癒してくれるのだ。最も、私が癒されているのは彼女の能力のおかげだけではないのだが。
「ふぅ…。あ、クラクラする。」
「大丈夫か!?」
「平気です。も〜、クラウスさん、体大きいんですもん。血がいくらあっても足りないですよ。」
「す、すまない。」
「冗談ですよ。大きいのは本当ですが。」
彼女の能力の内の1つは、自身の血液の型を自由自在に変化させ、相手に移すことを可能にする。私のように自身の血液を使用し戦う者にとって、瞬時に血液補充が出来るこの能力はとても助かる。しかしそれと同時に、元々そんなに血液保有量の多くない月君は、すぐ貧血になってしまい動けなくなるため、余程のことでない限り戦場には来ない。大切な宝物として隠されている、というわけだ。
「クラウスさん。」
「どうした?」
「今週毎日、力を使いましてですね、あの、もうそろそろ、貧血マックスと言いますか…限界…眠…ごめんなさい、ちょっと眠っ…て…いい…で…す…か?」
「ああ、ありがとう月君。おやすみ。」
「おやすみなさ…。」
ポスッと肩に寄りかかる月君を受け止める。力を使い過ぎ貧血になった彼女は、このように所構わずすぐに眠ってしまうので場所によっては危ない。私の側で眠ってくれてよかった。肩に触れている頬がとても柔らかく、不謹慎にもずっとこうしていたいと思ってしまう。
「君の血が今、私の中にあるのだな。」
彼女の全てが愛おしくなり、肩に寄りかかっていない方の頬にそっと触れる。ぷにっとした感触が手のひら全体に広がり、心臓がギュッとされたような気持ちになる。どうしてこの生き物はこうも愛らしいのか。
「さながら、眠り姫にキスをする王子様ってとこか?クラウス。」
「スティーブン!」
「やっと終わったよこっちも。こっちはブラッドブリードではなかったんだがね、数が多くて今の今までかかってしまったよ。」
「ご苦労だった。」
「ああ、僕も姫の癒しを頂きたいところだが、屈強な王子様付きのようだから、遠慮しとくよ。」
別にそんなに怪我はしなかったからね、と笑うスティーブンは、私が月君に想いを寄せていることを知っている。
「嬉しそうだな、クラウス。」
「ああ、月君の頬が柔らかいんだ。」
「…そういう情報は別に報告しなくていいんだぞ。」
「なあ、スティーブン。」
「どうした?」
「月君にこうして触れていると、月君のことをもっと力強く抱きしめ、この柔らかそうな唇にキスをしたいと思ってしまうのだが、この気持ちはいけないものなのだろうか?」
「!!……それを僕に聞かれてもだな。」
月君に触れていると、自分がおかしくなったような気分になる。閉じられた瞳、少し開いた口、私に頼り切った身体全体が、私のことを魅了してくる。
「まあ、君も男だということだよ、スティーブン。いけないことなんかじゃあない。」
「そうか。」
「そして、彼女の周りには君以外にもたくさん男がいる、ということを忘れてもいけない。」
「?」
「君がグズグズしている間に、月に近づこうとせんとする者が何人もいる、ということだよクラウス。君には危機感というものが足りない。」
「そうだな…。私はどうしたら良いのだろうか。」
「はあ…、全く君ってやつは。僕なりに、『早く気持ちを伝えろ』と急かしたつもりだったんだがね。」
「気持ちを…。」
「苦手かもしれないが、言葉でないと伝わらないこともあるんだぞ、クラウス。じゃあ、僕は帰って寝るから、後は頑張るんだぞ。」
私にアドバイスを残し、スティーブンは帰って行った。そうだ、スティーブンの言う通りだ。ただ想っているだけでは気持ちは伝わらず、行動した者のみが幸せを掴みとることが出来るのだ。
「起きたら、君が起きたら、伝えよう。」
絶対に守るからいつでも側にいて欲しいというこの気持ちも、誰にも見られないように君をどこかに閉じ込めてしまいたいというこの気持ちも、どこにいても君に笑顔でいて欲しいというこの気持ちも、全部、全部伝えよう。君を、私だけの君にしたいんだ。こんなにも、好きなんだ。
「…。ん…?あれ?おはようございます、クラウスさん。朝…?」
「ああ、おはよう月君。」
「あれ、私クラウスさんにずっともたれて…すみません。」
「いや、気にするな。」
「どれくらい寝てました?」
「15時間ほどだ。」
「15時間!?ずっとこのまま!?ご、ごめんなさい!」
「いや、いいのだ。それより月君。」
「は、はい!どうかしましたか?」
どうも私は、自分の気持ちを言葉にして女性に伝えることが苦手らしい。しかし、言葉でないと伝わらないこともあるらしい。私は、月君の目を真っ直ぐ見つめた。
「私は、月君のことを女性として好いているんだ。もしよければ、君の恋人にして頂けないだろうか。」
言葉を飾ることの出来ない不器用な私には、気持ちをそのまま言葉にするしか術がなかった。
「…へっ!?は…はい!?え…!?わた、私…ですか!?」
「そうだ。」
「クラウスさんが私を好き…?」
「そうだ。」
「ライブラのリーダーが私を?」
「そうだ。」
「好きなんですか?」
「うむ、愛おしいと常日頃思っていた。」
月君は落ち着きがなくなり、あっちを見たりこっちを見たりしている。コロコロ変わる表情が可愛らしいと思っていたのも束の間、 月君の顔が赤くなり、何故か泣きだしそうな表情になってしまった。私が一方的に気持ちを伝えたせいで、困らせてしまったのだろうか。
「月君…」
「無理だと、思ってたんです。…叶わないって。」
「?」
「ライブラのリーダーのクラウスさんに恋するなんて、恐れ多いって、だから、ただ側で支えられるだけで、必要とされるだけで私は幸せだって…思おうと、なのに…」
「月君。」
「いいんですか?あなたのことを好きなこの気持ちに…素直になっても。」
私は笑顔の月君が好きだ。しかし君は、泣き顔もこんなにも美しいのだな。…君も、私のことを想ってくれていたというのか。全身に暖かな光が駆け巡るかのように、私の中は月君を好きだという感情でいっぱいになった。あんなにもずっと上手く伝えられなかったこの感情が、今度は逆に何度も何度も伝えたくて溢れてくる。
「好きだ、好きなんだ、月君。」
「私も、クラウスさんのことが大好きです。ずっと好きでした。」
「君を、ずっと側で守らせてくれるかい?」
「あなたを、ずっと側で守らせてくれますか?」
優しく重なり合う視線に重なり合う心を感じ、私は力強く彼女を抱きしめ、キスをした。
「はあ…損な役回りだよまったく。ここにもその『男』が実はいたんだけどなあ…。ま、勝ち目がないことは完全に分かっていたけどね。」
「あーれ?番頭?朝っぱらからそんなドアんとこで何してんすか?入らないんすか?」
「聞いてくれるなザップ。いや、聞いてくれるかザップ。」
「どっちっすか。」