獣星
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「なあー、レゴシ、おめえ、本当に見てるだけでいいって言うのかよ。」
「カイ…もうその話はいいじゃないか。」
昨日の夜、美術チームのみんなでオス会をするって言うもんだからみんなで照明ブースにお菓子や飲み物を持って集まったまでは、なんだかいけない事をしているみたいで楽しかった。しかし問題は、「恋バナ」というのに発展してしまったという事だ。
「おい!お前ら好きなメスはいねえのかよ!」
「僕はメスにはあんま興味ないかな〜。友達が酷い目に遭ってて怖かったし。アリシェイクの方がいい。」
「かー!キビ!しけてんなー!俺はジュノちゃん!絶対ジュノちゃん!かっわいいんだよなー!でも役者チームの奴らもみんな狙ってんだよくっそー!」
「はは。」
「はは、じゃねえよレゴシ!お前はどうなんだよ!」
「え、俺?俺は別に…」
いる。いる…と思う。
なんか、好きなメスとかでくくっていいのかわからない。この感情がなんなのかも。
可愛いとか、彼女にしたいとか、そういう感情なのだろうかこれは。
とにかく、みんなに教えて、からかわれるくらいなら言いたくない。
「見てるだけでいい、かな。」
間違えた。いない、って言わなきゃいけなかったのに。
「え!レゴシいんのかよ好きなメス!ジュノちゃんか!?ジュノちゃんなのか!?」
「ジュノさんじゃないよカイ…。」
「え、じゃあ誰なんだよ!」
「僕も気になる〜。」
完全に自分のミスだ。言いたくない、言いたくはないけど、カイのしつこさを考えると、演劇部中に聞き回られるより今教えておいた方がいいだろう。
「はぁ…月先輩だよ。あんまみんなに言わないでね。」
「あの、役者チームのニホンオオカミ!?かー!お前それは無理だって!月先輩って言ったら演劇部の人気者、草食獣にさえ好かれちまう肉食獣じゃねえか!」
「僕も月先輩好き〜!」
「分かってるよ。だから、別にどうしたいってわけじゃないから。」
本当に別に、どうなりたいとかそんな恐れ多い事考えたことはない。月先輩はみんなの人気者だ。ただ俺は、あんなにも肉食獣として目立ってるのに、草食獣を恐れさせない、あの生き方に感動したんだ。彼女の姿を新入生歓迎会の舞台で見た時から、俺は彼女の虜だ。彼女を支えられるのであれば、と思い演劇部の勧誘を受け、美術チームに入ったことは、言わないでおこう。
「なんだそれ!オスなんだからさ、月先輩と手を繋ぎたいとかキスしたいとか思ったことくらいはあるだろ!?」
「な…っ!は…!?キ…」
そんなこと、思っていいわけがない。綺麗な口元、優しく、それでいて力強い瞳、すらっと伸びた美しい手足を俺は、
「そ、そんなこと、思ってないよ…。」
触りたい、と思ってしまった。
今まで無理だと、どうにもならないからと押し込めていたはずの感情が、カイの言葉により自覚させられてしまった。
「俺は、見てるだけでいいから。」
見てるだけでは、嫌だ、と。
「って昨日は言ってたけどよ、やっぱ無理でもぶち当たって行くのがオスってもんじゃねえのか!?告れよレゴシ!」
「自分がジュノさんに告白しようとしてるからって、玉砕仲間を増やそうとするのはやめてよ。」
「な!まだ、玉砕って決まったわけじゃねえだろ!」
カイは確実に玉砕だろうけど、俺も確実に玉砕だろう。でも、本当にこのまま何もしないでいいのかとモヤモヤ感情が渦巻く。そんな俺の気持ちも知らず、俺の大好きな匂いが近づいてくるのが分かった。ああ、どうして今なんだ。
「レゴシ君!」
「…月先輩。」
「今日生態の日でしょ、なんか、メス部屋が壊れちゃったからオスメス仲良く月光浴らしいよ。」
「そうなんですか。」
「月先輩こんにちは!」
「あ、カイくんごめん!こんにちは!」
「俺、用事あるんで行きますね、じゃあな、レゴシ、頑張れよ!」
カイのウインクがここまで鬱陶しかったのは今日が初めてだろう。
「何か頑張るの?レゴシ君。」
「いえ…。」
「ふぅん?ねえレゴシ君、実は私、レゴシ君とこうやって話してみたかったんだよね!」
「!! …そうですか。」
気の利いた事なんて全く言えない俺に、月先輩はつまらなさそうな顔1つせず話しかけてくれる。
「だから今日せっかくだし、月光浴の時にさ、隣座っていい?」
「!! え、あ、はい。どうぞ。」
「ラッキー!」
舞台で輝くあなたと、あなたを照らす照明の俺。そんな俺が月先輩の隣で月明かりに照らされる日が来るとは…。なんだか足に風がくる。ああ、バカ。止まれ。
「ふふふ。レゴシ君、嬉しいの?」
止まれと言う意思に反して、俺の本当の気持ちを知っている尻尾はブンブンと動いてしまっている。
「あ、いや…これは、あのですね。」
「ふふふ。見て、レゴシ君!」
俺に向かってお尻を突き出すと、俺と同じくブンブン動く月先輩の尻尾。
「私も嬉しいみたい!へへっ!」
「!!!!!」
尻尾が止まらないのと同じくらい、俺のこの恋なのかなんなのか分からない気持ちも、止まりそうにない。ただ一つ確信したのは、あなたと目が合うのが、嬉しいという事。