血界
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「もーいいじゃ〜ん、飲みに行こうぜ陰毛様〜。陰毛パーリナーイ〜。」
「変なパーティ主催しないでくださいよ。ダメですからね。2人で報告書出さないと、スティーブンさんに怒られるのはごめんですから!」
「はー、たりぃー。」
任務が終わり、報告書を出さなければいけないため陰毛野郎と本部へ向かう。しかし俺はすこぶるやる気が出ない。理由は分かってる。何日も何日も月に会えてないからだ。顔見てえし声聞きてえし抱きしめてえ。あー、くそ。
「はー、神様陰毛様仏様〜!月に会わせてくれよ〜!なぁ〜!も〜!無理ぃ〜!」
「ちょ、暴れんなよ…あ、そいえば、月さん今日ライブラいますよ。」
「は!?」
「なんか、任務が…。」
「お前それを早く言えよ陰毛糞陰毛野郎!飛ばせ飛ばせ!」
「2回言ったな。今2回言った。」
月に会えると分かっただけで弾む心。ドキドキワクワク止まらないこの気持ちが彼女に恋をしている証拠だ。月。俺の月。待ってろよ、今行くからな!
「あ、ザップ!久しぶり!」
「お、おお、久しぶり…。」
ライブラに戻り扉を開けると、そこには久しぶりに見る愛しい月の姿……とその月の頭を撫でる番頭の姿。
「おお、ザップおかえり。いやあ、月が大活躍だったんだよ。」
「そんな、何もしてないですよ!」
「いやいや、あそこで君が背後から忍び寄ってくれたおかげで敵にスキが出来たんだよ。あれがなかったら今僕はここにいないね。」
「大袈裟ですよスティーブンさん。」
「大袈裟なもんか。本当に助かったよ。」
「へへへ。」
どうやら月は任務で活躍したらしく、それを褒める番頭が頭を撫でてやっているという状態らしい。元々番頭に上司としての絶対的な信頼と敬慕を抱いている月は、とても嬉しそうだ。………いや、ダメだろ。ダメダメダメダメ。月は俺のだから触んじゃねえ、と間に割り込みそうになるのをグッと堪える。仕事に支障があってはいけないと思い、陰毛以外には月と付き合っていることは言っていないため、ここで止めに入るのはとても不自然だ。
「番頭、報告書書けました。」
「早いなあんた!いつ書いたんだよ!俺まだペンすら握ってないよ!」
「おお、じゃあそこに置いといてくれ。お疲れさん。」
頭を撫でる手を、今度は月の肩に置く番頭。何してんすかちょっと。うちなる嫉妬心がぐわっと燃え上がり、思わず全身の血が沸き立つ。肩に置く手をスリスリと動かす番頭はもうただのスケベ親父にしか見えない。絶対わざとだろ!触んな!月も抵抗しろよ!
「じゃあ、俺は帰りますわ。あ、おい、月。飯まだなら奢るけど、来るか?」
「え、あー、……えっと…」
「なんだよ?」
「月はね、今から僕とディナーに行くんだよ。今日のご褒美にね。」
「…は?」
いやいやいやいや、それはもう完全にアウト。アウトだろ。他の男と飯とか完全にアウト。絶対許さねえ。やだ。
「いや、月は俺と飯食いに行くんで。」
「ザップ、聞こえなかったのか?月は僕とディナーに行くんだよ。美味しいものを食べさせてあげよう。」
「いやいやいや、俺の方がうめえもん食わせてやるんで。な?月。早く行くぞ。」
「え、え、ちょ…。」
俺と番頭に片腕ずつ引かれて状況の飲み込めていない月と、オロオロするレオ。なんで、俺の事をすぐに選ばないんだよ。俺は月だけなのに。何よりも、誰よりも月を真っ先に選ぶのに。月しか見てないのに。月も俺を見て、俺だけを選べよ。
「……もういいっすわ、アホらし。飯、楽しんで来てください。」
「え、ちょっ、ザップ!………っ!スティーブンさんごめんなさい、お誘いとっても嬉しかったんですが、ご飯、私、ザップと行きます!」
「おや、振られてしまった。」
「申し訳ないです!今日はありがとうございました!お先失礼します!」
「……………少年。ご飯一緒に食べるかい?」
「え!いいんすか!?はい!食べます!」
あのままライブラを飛び出して来てしまったが、あれは完全に不自然だった。バレたかもな。いや、もうどうでもいい。あいつは今頃番頭とお洒落なディナータイムってか。
「………ザップ!ザーップ!」
「…。」
「アホ猿!」
「あ!?」
「聞こえてんじゃん!」
不貞腐れて歩いていると、聞き慣れた愛しい声色。心臓がドクンと動く。俺のことを追いかけてきたのか。どれだけ拗ねていても声を聞くだけで心臓が高鳴る己が恥ずかしい。それ程までに、彼女に惚れ込んでいるのだ。
「んだよ。すてぃいぶんさんとのでぃなあはどうちたんでちゅかあ〜。」
「ザップが食べさせてくれるんでしょ、うめえもん。」
「………ふん。」
「拗ねないの。嫉妬猿。」
「誰が嫉妬猿だ!」
「嫉妬、してたでしょ。バカ。」
月の目は、俺を見ていた。なんちゅー可愛い顔で見てくんだよ。可愛い顔、綺麗な瞳。その瞳に映る自分を見て、心がギュッとなる。今、月が見ているのは俺だ。俺だけの月なんだ。抑えていた気持ちが爆発し、人が見ているとか、道の真ん中だとか、そんな事何も気にならなくなり、彼女を強く抱きしめた。
「…お前は、俺のもんだろ。」
「そうだよー。」
「他の男に触らせんなよ。」
「男って…スティーブンさんは上司でしょー。」
「やだ。やなもんはやだ。」
「もー。わがままー。」
「うるせえ。」
キュッと抱きしめ返して来る月が愛おしい。誰にも渡したくないし誰にも見られたくない。俺の、俺のものだ。俺の可愛い月。もう、どこかに閉じ込めてしまおうか。そしたらずっと俺のもんだ。こんなドス黒い愛情が自分の中にあるのだと驚く反面、酷く納得もした。好きなんだ。月のことが。どうしようもないくらい。
「…会いたかった。」
「私も会いたかったよ。今日会えた時嬉しかったもん。」
「嘘つけ、番頭にデレデレしてたくせに。」
「してませーん。」
「してましたー。」
「もう…ザーップ。」
「…んだよ。」
「好きだよ。」
「…!おま、それはずりぃ。」
「好き好き大好き。」
「〜っ!」
腕の中で俺を見上げながら好きだ好きだと伝えて来る可愛い月に、赤い顔が隠せない。なんだかうまくあしらわれたようで腹が立つが、嬉しいものは仕方がない。月から好きと言われただけでこんなにも満たされるんだな。やべえ。超嬉しい。月も俺の事好きなんだ。
「私は、ザップだけが好きだよ。だからもっと自信持って。」
「…俺も、お前だけが好きだ。」
「スティーブンさんは上司だから無下にできなかっただけだよ。」
「うん…。」
「触らせちゃって、ごめんね。私はザップのなのに。」
「うん…。」
「今度からは気をつけるから、許してくれる?」
「…うん。」
子供みたいに「うん。」としか繰り返せない情け無い俺。何故だか泣きそうなのだ。月が好きすぎて、狂いそうだ。なんでこんなにも愛おしいのか。好きという言葉だけでは全然足りない。大好きでも足りない。なんだこれ。こんな気持ち、今まで抱いた事がない為、訳が分からない。
「もう…不安にさせんな。」
「はい。」
「もっと俺と会える時間作れ。」
「頑張ります。」
「ずっと俺の側にいろ。」
「もちろん。」
「好きだ。大好きだ。大好きよりも、もっと好きだ。」
「ふふ、私もだよ。大好きよりも、もっと好き。」
もう、月しか見えない。月のことしか考えられない。絶対に、離さないからな。俺だけのもんだ。俺だけの。昂ぶる独占欲を吐き出すかのように、俺は月の唇に自分の唇を重ねた。
「スティーブンさん。2人が付き合ってるの知ってて、からかってましたよね。」
「ありゃ、少年にはバレちゃってたか。」
「しょうがないですよね。月さんのこととなると、ザップさんキャラ違いすぎで面白すぎますから。」
「おお、分かってくれるか少年!」