英雄
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昨日の夜から熱っぽく、予感はしていたが案の定風邪をひくというクソな状態になった。このため学校は休み、家で1日寝ていた。まあ、寝れば治るわな。
ピンポーン
頭がガンガンする。爆破したろか。イライラしながら玄関へ向かい扉を開けると、そこには心配そうな顔をした月が立っていた。
「な…。」
「かっちゃん大丈夫!?」
「なんで来とんだお前は…。」
「かっちゃん全然連絡とれないし、相澤先生が風邪って言ってたから心配して来ちゃった。大丈夫?」
まさか来てくれるとは思わず、思わず顔が綻びそうになる。月に会いたかったのだと、全身が自分に伝えてくる。今日も可愛い顔してんなこいつ。心配したんか俺のこと。マジで可愛い。来てくれたのは嬉しいけど、こいつに風邪が感染っちまったら良くねえな。
「感染るだろが。早よ帰れ。」
「何言ってんの、そんなフラフラで。どうせご飯も食べてないでしょ。」
「寝ときゃ治るわアホ。」
「まあ、まだそんな悪態つける元気があるならいいんだけど、とりあえず中入るからね。おばさん達は?」
「夜まで仕事。てか、おま、まじで知らんぞ。」
感染ったらいけないとか、こんなだらしない格好見せたくないとか思う前に、家に入る月を見て、ああ、一緒にいてくれるのか、とホッとしてしまう自分は相当弱っているらしい。
「とりあえず、脱ごっか。」
「は、はあ!?」
「汗かいてるでしょ?拭いたげるよ。」
「じ、自分で出来るわボケが!」
「そう?じゃあ、食べられるもの作ってもってくから部屋で汗拭いてなね。」
「…おう。」
テキパキ指示を出してくる月がとても頼もしい。こいつ絶対将来いい嫁になるな。俺の。なんて思いながら部屋で汗を拭いて彼女を待つ。それにしても、急に動いたり喋ったりしたせいか、フラフラする。頭全体が茹でられてるみたいにあちい。
「かっちゃーん。おばさんが作ってくれてたうどんがあったから温めてきたよ。食べれる?」
「おう…。」
「自分で出来そ?」
「…………出来ん。」
「え?」
「食べさせろ…。」
自分でも何を言ってるのか分からないが、大好きな月の顔を見た途端、なんだかめちゃめちゃ甘えたくなってしまった。頭が働かないせいにしている自分がいるのかもしれない。
「ふふ、甘えん坊だね?」
「うん…。」
「!!…ちょ、かっちゃん、可愛すぎ。キャラ違うよどしたの。」
「わりい…。」
「いや、いい!いいよ!甘えて!」
「…いいんか?」
「うん!私に出来ることなら!何でもするから!」
「あーん、てやつ、やれ。」
月は何かに撃たれたかのようにのけぞり、何故か悶えながら震えている。なんか悪い事言ったか…?気を持ち直した月が、うどんを口に運んでくれる。
「今日ホント可愛すぎるよかっちゃん…。私心臓もたない…。じゃあ食べさせるからね。はい、あーん。」
「あーん。」
「おいしい?」
「うめえ。」
「かっちゃんのお母さん料理上手だもんね!」
「……月が食べさせてくれるからうめえ。」
「ちょ、ほんと身がもたないから。これ以上可愛いのやめて。」
「可愛くねえだろ…。」
「可愛いよ!いつもよりめっちゃ素直だし!」
…可愛いのか?俺は今素直なんか?確かに、してほしい事、言いたい事をそのまま口に出せてはいる。未だ頭はポーッとするが、もしかしたら、このまま病気のせいにして普段伝えられない事を伝えられるかもしれない。
「月の方が可愛いだろ。」
「へ!?え、ちょっとかっちゃん。」
「…今日は、来てくれてありがとな。」
「い、いえ。どういたしまして…。」
「めっちゃ好きだ。」
「!!!!ちょ、か、か、か、かっちゃん熱あるんじゃない?あるか!あはははは。」
「熱なくても好きだわバーカ。」
熱がある俺と同じくらい赤くなる月の顔が面白くて愛おしい。そっと頬に触れると、嬉しいような泣きそうなような顔になっている。可愛いな、ほんと。
「わ、私もかっちゃんのことめっちゃ好き…です。」
「おう。」
「〜っ!じ、じゃあ、はい、うどん全部食べれたし、薬飲んで寝よう!ね!」
「…帰るんか?」
「え、うん。あとはもう寝るだけだからね。夜にはおばさん達も帰ってくるでしょ。」
「やだ…。」
帰ろうとする月の手をキュッと掴む。普段の力が全く出ない。急に手を掴まれて顔を真っ赤にして戸惑う月。でも、お前が甘えていいって言ったんだぞ。
「帰んな。」
「かっちゃん…。」
「月がいねえと寂しい。」
「〜っ!じゃあ、さ!かっちゃんが寝るまで手繋いでたげよっか。」
「足りねえ。一緒に寝ろ。」
「え!?ダメだよ安静にしてなきゃ!」
「何すると思っとんだスケベが…。」
「ちょっと調子戻って来てるじゃん!」
「いいから早よ入れ。」
手を掴まれながらオロオロする月をぐいっと引き、布団の中に引きづり込み後ろから抱きしめる。月の匂いがする。俺の世界で一番好きな匂いだ。
「寝れそう。」
「そ、それはよかった…。」
「月、チューしろ。口だと風邪感染るからデコな。」
「え!?う、うん。」
くるんと俺の方を向いた月が俺の額にちゅっとキスをしてくれた。それで安心したのか、俺はすぐに眠りについた。
「………かっちゃん、かっちゃん、起きて。」
「…ん?」
「おばさん帰って来たみたいよ。」
「んー。」
「んー、じゃなくて!私帰るから離して〜。」
「!!」
月の看病と薬のおかげか、頭がスッキリと冴え、病気のせいにして自分が行った、そして言った全てのことが鮮明に思い出された。
「お前、何勝手に人の布団入っとんだクソが!」
「いや、かっちゃんが引きずり込んだんでしょ!?」
「そうだわボケ!」
「分かってんじゃん!」
俺はなんて事をしてしまったんだ。というか良く言えたなあんな事やこんな事…。思い出すだけで自分を爆破したい。いくら頭が朦朧としてたからって、そのせいにして言いたい放題やりたい放題だった。
「ま、元気になってよかったよ。私帰るね。」
「お、おう。」
「あれれ〜?今度はやだって止めてくれないのかな〜?」
「早よ帰れ!」
「あー、可愛かった。じゃあ、また明日学校で!」
「〜っ!月!」
「ん?」
「……………あ…ありがと。」
「……まだ熱が…?」
「ねえわ!早よ帰れお前ホント!」
あはは、と笑いながら笑顔で去っていく月。本当はまた引き止めたくなってしまっているくらい俺が彼女に惚れていることを、彼女は知らない。どんな姿を見せても変わらず俺を受け入れてくれる月のことを思い、つくづく俺は甘やかされてるし愛されていると感じた。
「へー!かっちゃんがそんな事を!?すごいねえ。」
「そうなの、それでね…!」
「おい!クソナード、クソ月!表出ろや!」