血界
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月がライブラ本部に行くと、そこには金髪青目の美しい女性がクラウスの横に凛と立っていた。
「クラウスさん、こんにちは!…その人は?」
「ああ、月、紹介するよ。この人は…。」
「初めまして。ギルベルト様のご休暇中、坊ちゃんの身の回りのお世話をさせていただきます、メイドのマリーです。よろしくお願い致します。」
「と、言うわけだ。1週間だけだが、仲良くしてやってくれ給え。」
「あ、ああ、ご、ご丁寧にどうも!月と申します!こちらこそよろしく、マリーさん!」
働いてばかりのギルベルトに休暇を与えたのだが、その間の私のことをメイド長が心配し、1週間だけマリーをヘルサレムズ・ロットに寄越してきた。マリーは月と歳が近いので、月も新しい友人が出来て嬉しいだろう。
「それより月、何か用があったのかな?」
「…あ、そうだ、クラウスさん、私クラウスさんをランチに誘おうと思って来たんです。」
「そうだったのか。嬉しいよ。どこに行こうか。」
「えへへ、えっとですね、実はこの近くに…」
「申し訳ございません、月様。坊ちゃんは先程私の作った昼食を召し上がられたばかりなのです。」
「!?…あ、ああ!あ、そーだったんですね!ク、クラウスさんもそうならそうと言ってくださいよ〜!」
「いや、行こう。私はまだ食べられる。」
「坊ちゃんいけません。適度な分量を毎日食べることも体づくりの資本ですよ。」
「し、しかしだな…」
「いいんですクラウスさん!じゃ、私、失礼します!」
「あ、月…!」
バタン、と扉が閉まる音がし、月は行ってしまった。そんなに腹が減っていたのか。しかし、せっかく会えたのだからもっと話をしたり触れたりしたかった。ランチも、月となのだから行きたかった。
「坊ちゃん、どうされたのですか?」
「いや、うむ。なんでもない。」
そうだ、ランチは無しになってしまったが、ディナーに誘えばいいではないか。月とディナーを共にすると考えただけで心が躍る。ディナーの後は、手を繋いで街を歩こう。月がいいと言うのなら、街中でもいいから抱きしめたい。あの唇に口付けもしたい。逸る気持ちを含みながら、月の写真が待ち受け画面のスマートフォンを取り出し、電話をする。
「…はい。もしもし。」
「おお、月か。先程はすまなかったね。代わりと言ってはなんだが、今夜ディナーに誘ってもいいだろうか?」
「あー…今日はちょっと…すみません。」
「うむ、用事かな?」
「まあ…。」
「ならば仕方ない。また連絡するよ。」
「はい、それじゃあ。」
月と喋れた…。可愛い声の持ち主と喋れたことだけで幸せだった。しかし忙しそうだな。大丈夫だろうか。無理はしていないだろうか。なんだか元気もなかったような気がする。頑張っている分、たくさんたくさん甘やかしてやりたいのだが、月は1人で抱え込んでしまう節があるからな。
「明日のランチに誘おう。」
「何かおっしゃいましたか?」
「いや、なんでもない。」
なんでもないとは言ったものの、スティーブン曰く、月のことを考えている時の私の顔はいつもと違って大層緩んでいるそうなので、マリーもおかしく思ったかもしれない。そんなことよりも、早く明日にならないだろうか。会いたい。早く会いたい。
「む…………………。」
ここ3日間、月に全く会えていない。電話にもなかなか出ないし、メールをしても返信が遅く、返ってきたとしても業務連絡感が否めない。普段は仕事の合間にちょくちょく顔を出してくれたり、とりとめもないメールを送ってくれたりするというのに。今日も今日とて仕事だからという理由でランチもディナーも断られてしまった。正直、月に会えなさすぎて色々と限界が来ている。
「マリー、すまないがちょっと出掛けてくる。」
「お供致します。」
「いや、その必要はない。」
「…そうですか。では、お気をつけて。」
月の職場の幻界病棟ライゼズへと足を向ける。顔を見るだけ。顔を見るだけならば迷惑をかけないだろう。
「月〜!こっち!大した傷じゃないから止血だけお願ーい!」
「はーい!今行きます!」
いた。3日ぶりに見る月。胸がドキドキとうるさい。ああ、私の恋人はなんであんなにも可憐なのだろうか。仕事をする月の顔は真剣で、仕事がしやすいように上で1つにまとめた髪のせいで見えるうなじがまた艶やかだ。その首元に思い切りかぶりつきたいと思ってしまった。自身の野蛮な欲望に驚く。止血されている青年がもはや羨ましい。
「はい、止血終わり。次診察室呼ばれるまでここで待っててくださいね。」
「どーも。こんな可愛い子に手当てしてもらえるなんて俺ラッキー。」
「あはは、お上手ですね。じゃあ、失礼しますね。」
「ねえ、仕事何時に終わるの?彼氏とかいる?」
「あの、ちょっと離してください…。」
「彼氏ならここにいるが?」
「うわぁ!!!!」
「ク、クラウスさん!?」
私ですら3日も月に触れていないというのに、この青年は月の手を掴んだのだ。その瞬間かっとなり患者ということも忘れ、背後から全力で威圧してしまった。すぐさま青年はバツが悪そうに逃げていった。
「なんでここに…?はっ!もしかして怪我したんですか!?見せてください!」
「いや、違うんだ、月。」
「呼んでくださったら駆けつけたのに!」
「…呼んだら、来てくれたのか?」
「へ?」
「怪我はしていない。大丈夫だ。しかし、怪我をしていなくても、呼んだら会いに来てくれたのか?」
「どういう…。」
「会いたかった。」
ぎゅうっと月を抱きしめる。もう我慢出来なかった。胸元にすっぽりと埋まる月が愛おしい。このままもう離したくない。また会えない日が続くのは、月を感じられない日が続くのは、耐えられない。
「ずっとこうしたかった…。」
「!!!?ク、クラウスさん、ちょっとここ、病院!ですから!あの!」
「月に会えないだけで、私はもう息も出来んのだ。」
「〜っ!」
病院だとか、人が見ているとか、もうどうだっていい。目の前に月がいる。ずっと会いたかった月がいる。この感触、この匂い、この表情、全部全部、私のものだ。
「月ちゃ〜ん。」
「ルシアナ先輩!あの、これは。」
「患者さんもう来なさそうだし、今日もう上がりでいいからさ、それ、月の診察室でやってくれる?」
「いえいえいえいえ!戻ります!仕事戻りますから!」
「面目無い、ルシアナ先生。お借りする。」
「面目無くない!」
ルシアナ先生のウィンクに見送られ、月の手を引き診察室へと向かった。診察室は病院独特の消毒臭と、私の大好きな月の匂いが混ざっていた。机の上の額に入った写真を手に取る。
「私の写真…飾ってくれているのだな。いつ撮ったのだこれは。」
「きゃー!見ないでー!」
月の診察室はとてもシンプルで、自分の写真が飾られていることにすぐ気がついた。会えない時であっても自分が写真として、月と一緒にいられたのだと思うと、それだけでも嬉しい。
「で、クラウスさんは、どうしちゃったんですか!」
「月に会いたくて会いたくて堪らなかったのだ。」
月が普段座っている方の大きな椅子に座っている私は、立っている月の腰に抱きつき顔を埋めながら話す。月は私の頭を自然と撫でてくれる。その手がとても気持ちいいと同時に、なんだか泣きそうな気持ちになる。ああ、本当に私はこの女性が好きなのだ。
「…クラウスさん……。」
「この3日間、忙しかったようだな。デートを断られるのは仕方ないし、邪魔をしてはいけないと思っていたが、耐えられなかったのだ。すまない。」
「デート……ごめんなさい断ってばかりで。……でも、実は、忙し………くは、なかったんです。ごめんなさい……。」
「!?では何故…!?」
「あの…。」
言葉をまごまごさせている月も可愛いが、何か問題があるのなら、はたまた私が何かをしてしまったのだとしたら絶対に知らねばならない。
「どのような事情であれ受け止めよう。言ってくれ給え。」
「……………マリーさん。」
「マリー?マリーがどうかしたのか?」
「おっぱい、私よりも大きかった…。」
「……?」
「あと、髪とか、サラサラだし、顔綺麗だし…」
「??」
「2人が一緒にいるの…その…見たくなくて…。」
「!!!」
つまり…
「嫉妬…していたのか…?」
そう聞くと、月は顔を真っ赤にさせて頬を膨らませ、こくん。と頷いた。
「何だこの可愛い生き物は!!!!!」
「声、大きいです!クラウスさん!一応病院なんで!」
「月は、私がマリーと一緒にいるのが嫌だったのか?」
「……嫌でした。」
「どうしてだ?」
「だって…。」
「だって?」
「…………クラウスさんは、私のなのに、ずっと一緒とか…ずるいですもん。」
メガネが割れたかと思うくらいの可愛さの衝撃を食らった。少し口を尖らせ顔を逸らしているが、顔が赤くなっているのがバレバレだった。月がちらつかせる可愛い嫉妬心と独占欲のせいで、自分の中の欲望が目を覚ます。椅子に座っている私は、月のことを反転させ、膝に座らせ、後ろから抱きしめた。月の頭をよしよしと撫でる。
「うわぁ!?…ク、クラウスさん…?」
「そうだな、マリーはずるいな。私は月のものなのに。」
「………ごめんなさい。」
「謝る必要は無い。私も配慮が足りなかった。」
「…クラウスさん…。」
「で、」
「?」
「これかな?マリーと比べたおっぱいというやつは。」
「ひゃんっ!?」
後ろから月の胸を鷲掴みにし揉みしだく。突然の事に月はひどく驚き、体を震わせた。
「私にはこのおっぱいの方がずっと魅力的なのだがなあ…。」
「わ、分かりま、した。だからやめ…ん!」
「髪もとてもいい匂いがしてサラサラだ。」
「…や…、耳元で喋らな…。」
「顔も、見せてごらん。」
顎に手をかけこちらを向かせると、真っ赤な顔をして涙目の月の顔。ああ、どうして君はこんなにも私を煽るのが上手いのだろう。
「綺麗だ。」
「やぁ…。」
「誰よりも、なによりも綺麗だ。」
「クラウスさん…。」
「愛しているよ、月。」
「私も…愛してます…。」
「これでもまだマリーがずるいと思うかね?」
「……思いません。」
「私は、月だけ。月だけなんだよ。」
溢れんばかりの気持ちで彼女のことを抱きしめ、キスをした。1人で抱え込んで悩んだりしないでくれ。もう、私から離れようとしないでくれ。
「だが、マリーには屋敷に帰ってもらおう。」
「え、でも…。」
「どうやらここに、マリーの代わりに1週間、私のメイドをやってくれる女性がいるみたいだからな。」
「え、メイ…ド?え!?私!?」
「ああ、メイド服の採寸をせねばな。」
「いやいやいや、仕事ありますから…。」
「どれ、ルシアナ先生に頼んでくるとしよう。」
「ちょ、クラウスさんー!!」
君の全てを受け止めるから、ずっとそばにいてはくれないか。
「すまないね、マリー。感謝する。」
「いえ、坊ちゃんの未来の奥方様も見れたことですし、よかったです。」
「!!!?」
「嫉妬なんて可愛いじゃないですか。私の旦那にも見習わせます。」
「マリー、君って人は…。」
「それでは、飛行機が来ますので、失礼します。」
「うむ。今度帰る時には、月も屋敷に連れていくよ。」
「楽しみにしています。」