血界
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ニューヨーカーの朝飯は遅い。ブレックファーストにしては遅いブランチなるものをゆるゆる食べているニューヨーカーを横目にしながら、コロンブスサークルの真ん中の段差に登り、彼女が来るのを待つ。背中に持っても隠しきれないくらいの花束の大きさは、当人の本日への期待の大きさを表しているかのようだった。
「ザップさん、お待たせしました。」
「待ってねえよ。おら。」
「へ?」
なんっだそのマヌケな顔は!この俺様が花なんかやるのお前だけなんだぞ。てか、私服可愛いのな。普段見えねえ脚が見えててそそられる…じゃなかった!そういうのは無しだ!今日は無しだぞ!
「やるっつってんだよ。」
「え、あ、ありがとうございます。綺麗。」
「だろ。お、おおお、おめーみてえだろ。」
「は?」
だからなんなんだよそのマヌケ面は!!女はこういう言葉に喜ぶんじゃねえのかよ!ちくしょう、まともに「お付き合い」なんてすんの生まれて初めてなもんだから、「彼女」ってもんの扱い方が分かんねえ。
「おめーみてえに綺麗だろって言ってんだよ、分かれよ!」
「え、あ、あ、ありがとうございます。本当に思ってますそれ!?」
「思ってもねえことわざわざ言うかよ!」
「いや、あのなんか、慣れなくて。その、ザップさんに女の子扱いされるの…。」
月はチェインの後輩で、ライブラにたまに手伝いに来る人狼だ。最初は完全ないじめ要員だったんだが、いじめてもいじめてもへこたれない姿や、仕事に打ち込む真剣な表情、どんな時でも明るくみんなを元気づけるこいつに、気付いたら恋をしていた、という訳だ。「本気の恋」なんてしたことがなかったもんだから、この気持ちを恋だと認識するまでにめちゃめちゃ時間がかかり、ようやく先週想いを伝え、なかば強引に彼女にした。今日が付き合ってから初めてのデートだ。
「うるっせえ。慣れろ。」
「は、はい!で、今日はどこ行くんですか?」
「今からそこのワゴンでホットドッグとアイスクリームを買ってセントラルパーク(跡地)を散歩するだろ、それからタイムズスクエア(跡地)で写真撮って、チェルシーマート(跡地)行って買い物した後はハイライン(跡地)を散歩する。夜はロックフェラーセンター(跡地)近くのレストラン行くからな。」
デートの経験は、ない。しかし、付き合った日にこっそり買った「ヘルサレムズ・ロットデートスポットブック」なるものを昨日の昨日まで読み漁って俺が立てた計画なら、こいつも満足すんだろ。
「いや、ほとんど跡地じゃないですか!」
「ああ!?おめ、人のプランに文句あんのかよ。」
「ナイデスタノシミデス。」
「分かりゃあいいんだよ。分かりゃあ。おら、行くぞ。手、出せ。」
「逮捕されるみたい。」
「黙って手出せバカタレが!」
出された手を乱暴に掴みかけ、はっと気づきそっと手を取り優しく繋ぐ。あー、調子狂う。女と手を繋いで歩くのは、実は初めてだ。女=性処理としてしか考えてなかったからな。手を繋ぐだけでドキドキと鳴る心臓。ティーンじゃねえんだから、と自分自身を罵る。自分にこんな感情があったとはな。
一通りのプランを終えるとすっかり夜になり、俺たちはディナーを食べることにした。レストラン予約なんてしたことがなくて超絶手こずったが、こいつの喜ぶ顔が見たくてひたすら頑張った。
「めっちゃ楽しかったです今日!案外、跡地観光してみるのもいいもんなんですね!ご飯も美味しいし、ザップさんありがとう。」
「…!!お、おう。良かったな。」
「ザップさんは楽しかったですか?」
「…俺は…、」
めちゃめちゃ楽しかった。こんなにも楽しいことがあるのかってくらい楽しかった。表情がコロコロ変わるこいつを一日中独占し、今まで見たことなかったような顔もたくさん見れた。観光名所なんて正直どうでもよく、今日1日、こいつばかり見ていた。
「俺も…楽しかったよ。」
「!!…あ、あは。あはは。」
急に顔を真っ赤にして下を向く月。
「どした?」
「いや、ず…ずるいですよザップさん。」
「あ?」
「今の笑顔は…反則。」
「…………ほーお!月ちゃんはこの顔が好きなんでしゅか〜?ほれ、こっち向け。」
下を向いて落ち着かない月の顔をぐいっと持ち上げ俺の顔を見させる。月を見つめたままわざと優しく微笑むと、月の瞳にはうっすら涙がたまり、顔を真っ赤にしてイヤイヤと首を振る。可愛い。このままかぶりつきてえ。
「なーんだなんだ、お前もちゃーんと俺のこと好きなのな。」
「あ、当たり前じゃないですか。好きでもない人とデート行くような女じゃないんで。」
「おーおー、そりゃあ安心だ。」
平気なふりはしているが、なかば強引に付き合い出した為、正直月が俺のことをどう思ってるか一週間ずっとモヤモヤしていた。だが、こいつの表情を見る限り、それも取り越し苦労だったみたいだ。こいつもこいつで、俺と同じで素直になれねえタイプなんだろう。
「…でも、今日もこの後、愛人さんのとこ行っちゃうんですか…?」
「……………………は?」
「え、行かないんですか?」
「おま…お前、アホか?」
「アホ…なんですかね?」
行くわけねえだろ!!!!こいつを好きと自覚してからも愛人達のとこに行ってみたことはあったが、まるで勃たなくなっちまった。なんならこいつがライブラに来た時その姿を見ただけで勃ったもんだからめちゃめちゃ焦ったくらいだ。いや、勃つ勃たないの話ではなく!
「あのなあ、俺はもうお前の彼氏な訳よ。」
「は、はい。」
「お前の事だけを大切にしたいって思ってる訳ですよ。」
「!!…あ、ありがとうございます。」
「そんなね?俺の健気な心をね?あなたは踏みにじりました。」
「いや、だってザップさん今まで…」
「今日はそういうの無しって思ってたけど気が変わった。俺の女って事、分かるまで体に叩き込んでやるよ。」
「!!わ、私はザップさんの女です!ザップさんの女って、よーく分かりましたから!叩き込まなくても大丈夫ですお疲れ様でした!」
「愛人全員切ったんだ。全員分、相手してくれるよな?」
ていうかもう限界なんだよ。待ち合わせの時から、こちとらずーっと我慢してたんだっつーの。可愛い嫉妬心見せやがって。煽ったのはおめえだかんな。
「好きだよ、月。月を、俺に頂戴?」
くいっと顎を持ち上げ、月を欲を含んだ瞳で見つめ、にやりと笑うと、どうやら俺のイケメンさにやられてしまったようだ。泣き出しそうな顔でこくん、と頷いた。
「よし、そうと決まれば善は急げだ!ホテル予約してあるからな!行くぞ!」
我慢の限界の俺は月をお姫様抱っこし、レストランを出る。
「ホテ、ホテル予約!?いや、何が『今日はそういうの無しって思ってたけど』ですか!絶賛やる気満々じゃないですか!!!!」
「そんな事もあったなあ〜。」
「そんな過去じゃないですよ!ていうか私まだデザート食べてないい!」
「これからもっと甘えもんやるから、グダグダ抜かすなっつうの。」
額にキスをすると大人しくなる俺のお姫様。これからはお前だけ、お前だけをを大事にする。だから、ずっと俺の女でいろ。お前だけを見てるから、お前も俺だけを見てろ。
「ザップさんのバカ。好き。」
「あ?」
「なんでもないです!」
「俺の方が月のこと好きだぜ。」
「聞こえてんじゃないですか!」
ニューヨーカーの朝飯は遅い。何故なら、朝までたっぷり愛し合うからだ。