血界
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私のせいだ。死者こそ出なかったものの、また多くの市民が傷つく結果となってしまった。私にもっと、もっと、力があれば…
「って思ってそう。」
「…!?」
「顔に出てましたよ。」
ふふっと私を見ながら笑うのは、愛しい恋人の月。ブラッドブリードとの戦いを終え、本部に戻り月の手当てを受けているのだが、彼女はそのようなことを口にした。
「いや、私は…」
「クラウスさんのせいではないんですよ。」
「しかし…」
「クラウスさんのせいではないんです。」
「うむ…。」
こういう時の月は強い。はっきりと意志を持った瞳で見つめられ諭されると、自分はなんて小さい人間なのだと思う反面、なぜだか、とても安心する。
「はい、血癒終わりっ!じゃあ私はもっかい職場戻るので、失礼しますね。」
「ああ、わざわざすまなかった。感謝する。送っていこう。」
「いえ、車で来てるので大丈夫ですよ。」
「そうか…。仕事の後は…。」
「今日は夜遅くまで仕事ですね。」
「承知した。無理をしないように。」
「ありがとうございます!クラウスさんも、ちゃんと体休めてくださいね。じゃあ、行きますね。」
「…月…!その…」
「?」
「…いや、なんでもない。」
「?…では、失礼します。スティーブンさんも、お疲れ様でした!」
「ああ、お疲れ様。」
月はちゅ、と私の頬にキスをし、パタパタと忙しなく部屋を出ていってしまった。エンジンがかかり、けたたましいアクセル音と共に車が走り去っていく音がした。キスをしてくれた場所がまだ熱を持っているかのように熱い。
「月は、忙しいのに私の為に来てくれたのだな。」
「そりゃあそうだよクラウス。君のためならってやつさ。健気じゃないか。」
「ああ、私には勿体無いくらいの素敵な女性なんだ。」
「はっ。まるで片想いだな、クラウス。」
「…いや、違う。りょ…両想いだ…。」
顔がカーッと熱くなるのを感じる。何を意地になってスティーブンに話しているのだ。ずっと想いを寄せていた月と心が通い合ったのがちょうど半年前。デートに行ったり、手を繋いだりキスをしたり、その…肌を重ねたり、はするのだが、恋愛経験の乏しい私といて、月ははたして楽しめているのだろうか?
「でも、あまり恋人らしくないよね、君達。」
「!!!!?…スティーブン、どういうことかね。」
「ていうか、君がね、恋人らしくないよね。」
「!!!!!!!!!!」
心臓を鷲掴みにされたような気分だ。私は、月に恋人らしいことを何もしてあげられていないということなのだろうか。
「スティーブン、私は…私はどうしたらいい。」
「そうさなあ…君はなんと言うか、まだ月君に自分の欲望をぶつけられていないのだよ。」
「?」
「さっきだって、今日の仕事の後に会いたかったんだろ?どうしてそれを言わなかったんだい。」
「それは…月は仕事の後疲れているだろうし、そんな、私の我儘に付き合ってもらうことなど…。」
「それが恋人らしくないって言っているんだよクラウス。我儘を言えばいいじゃないか。」
「しかし…。」
「ライブラのリーダーをやっている君が我儘を言える相手なんて、むしろ月君くらいだろう。」
我儘を、言っていいのだろうか?そんな情けない姿を見せて、嫌われてしまったりしないだろうか。
「大丈夫。嫌われないよ。」
「…!?」
「顔に出ていたぞ、クラウス。」
隠さずとも情けない自分をすでに全員に見透かされているような気がして恥ずかしくてたまらない。私はどうしてこうも、不器用にしか動けないのか。と自分を責めていると、電話が鳴った。画面に映る「月」の名前に胸が高鳴る。ああ、会いたい。君に会いたい。
「はい、もしもし。」
「あ、クラウスさん、お疲れ様です!仕事、仲間達がやっておいてくれてたんです〜!感動!だから今日もう上がりなんですが、クラウスさんのお家行ってもいいですか?私、明日休みなんです。」
「!!も、もちろんだ。待っている。」
「はーい!それではー!」
「…スティーブン、我儘を言ってもいいだろうか。」
「僕にかい?」
「今日はもう、帰宅させてもらおうと思う。」
「ふはは。我儘な奴だなあ君は。いいだろう、お疲れ様。」
ライブラの本部を後にし、帰路に着いた。家の前に着くと、玄関の前に立っている愛しい月の姿。姿を見ただけでこうも自分が高鳴るとは、私は相当彼女に惚れ込んでしまっているようだ。
「すまない。待たせてしまっただろうか?」
「いえ!さっき着きました。ピザ買ってきましたよー!」
「感謝する。」
部屋の中に入り、荷物を置きネクタイを緩め、ピザをテーブルに広げる。我儘を…か。
「ピーザ!ピーザ!」
「ああ、いただくとしよう。」
「いただきまーす!おいしい〜!」
「…………。」
「あれ?クラウスさん食べないんですか?」
「…………月。食べさせてくれないか。」
「へ?」
私は、我儘の言い方が至極分からない。もしかして、今のは完全に違ったのかもしれない。しかし、自分の欲望を出していいと言うのであれば、この間街で見かけた、恋人同士がやっていたことをやってみたくなってしまったのだ。
「あーん、ってして欲しいんですか?」
「…うむ。してほしい。……すまない。」
「いや、ちょ…たんま。くくっ、はは。クラウスさん、なにそれ…可愛すぎ…。」
「か…可愛いのだろうか?」
月は涙を浮かべながら笑っている。ジョークの1つも言えない自分が、彼女をこんなにも笑わせることが出来たことはとても喜ばしいが、可愛いかったのだろうか、今のは。女性というのはよく分からない。
「はい、じゃあ、ふふっ。いきますよ、クラウスさん、あーん。」
「…あ、あーん…。」
「クラウスさん、あーんって言う時の顔、真剣!ちょ、もう無理。お腹痛い。」
「お腹が痛いのか月!?」
「いや、違います。笑いすぎてってことで…。」
月がケラケラと笑う姿が愛おしい。我儘を言ってよかった。こんなにも楽しそうな月を見たのは初めてかもしれない。
「あー、笑った笑った。どうしたんですか、今日のクラウスさん。なんかいつもと違う。」
「…スティーブンに、もっと我儘になれと言われてな。そこで、我儘を言ってみたのだ。」
「今の我儘だったんですか!?」
「うむ…。」
可愛い!と私の頭を月が抱きしめてくる。彼女の匂いでいっぱいになり、ああ、幸せだな、なんて思う。
「なんか、嬉しいです。」
「嬉しいのか?」
「はい。クラウスさん、1人でなんでも溜め込んじゃうし、いつも我慢してるから、私の前ではもっと我儘言って欲しいなーって思ってたので。」
「そうなのか。」
「そうなのです。」
へへっと笑う月は、再びピザを私に食べさせてくれる。月が食べさせてくれるからか、ピザがいつもより美味しく感じた。
「もっと、我儘を言ってもいいのか。」
「どうぞ!もうどんどん言ってください!」
「…もう一度、抱きしめて欲しい。」
「はい。」
「そのまま、頭を撫でてくれないか?」
「ふふっ、はい。」
「おでこにキスをしてくれ。」
ちゅ
「頬にもだ。」
ちゅ
「唇にも…んっ。」
私の我儘を、月は全部全部叶えてくれる。私も月の我儘を、全部全部叶えてやりたい。
「明日の朝、公園で一緒にベーグルが食べたい。」
「はい。クリームチーズ入れましょう。」
「うむ。ベーグルを食べたら、家に戻ってきて、映画を見よう。」
「はい。」
「映画を見ている時、私は月を後ろから抱きしめたい。」
「私も抱きしめて欲しいです。あと、キャラメルポップコーンが食べたい。」
「ベーグルを食べた後買いに行こう。ポップコーンは私が食べさせたい。」
「いいんですか?嬉しい。クラウスさんの指まで食べちゃおっかな。」
「ははっ。それは困るな。」
「あ、笑った。」
目を細め、幸せそうな笑顔を私に向ける月。この人を、絶対に失いたくない。
「ずっと側にいてくれ。」
「はい。」
「我儘かもしれないが、月を絶対に手放したくない。君が嫌だと言っても、離してやるつもりもない。」
「それに関しては、私の方が我儘ですよ。クラウスさんが嫌だって言っても絶対に離れてなんかやりませんからね。」
ギュッ、と抱きしめると、ギュッと抱きしめ返してくれるこの愛しい恋人に、私はこれからも我儘を言い続けるだろう。
「あともう1つ我儘がある。今、月の裸が見たい。」
「フフフフオヤスミナサイ。」
「待ち給え。」
「きゃー!エッチー!ドスケベ牙男ー!」