夕焼けの中で祝福を
おなまえ
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「…、ここって…」
「屋上だけど。見てわかんないの?」
「いやっ、…けど、入っていいっけ…?」
「さぁ?いつも勝手に入ってるから知らない」
連れてこられたのは閉鎖されているはずの屋上。入っていいものとは思ってなかった為呆然と立ち尽くしていると、山田くんは変わらずキツめな口調で言葉を並べては頬を吹き抜けた優しい風をその体に受けている。
隣に並ぶ山田くんの横顔を盗み見ると、夕焼けに照らされているからか右目の翠色がやけに綺麗に揺れ動いている気がした。
その瞳に吸い込まれるかのように見惚れてしまっていると、ふとその目がこちらに向くのが分かり慌てて逸らす。
「なに?」
「いや、えっと…、すごい目が綺麗だなって…」
「はぁ?何だよそれ。こんなの気味悪いだけだろ」
「っ、そんなことないよ!」
私がいきなり大きな声を出すものだから、山田くんはびくりと肩を揺らして目を大きく見開いた。けれど私はそんなことなんて気にせず拳を握りしめて言葉を紡ぎ続ける。
「たしかに、左右の目の色が違うから、初めは変わってるなって思ったけど…、すごく綺麗だよ。山田くんの眼、私すごく好きなんだよ。
宝石みたいに輝いてて、…そうだ、エメラルドとサファイヤ、みたいな?ごめんあんまり国語得意じゃないから、分からないけど。………綺麗だよ、気味悪くなんてない」
「………」
柄にもなく熱弁する私を、山田くんはただただ驚くように体を固まらせて聞いていた。
私は一通り自分の想いをぶつけ終わるとハッと我に帰り、目の前で黙り込んでしまった山田くんに向かって弁解しようと今度はあたふたと焦りながら口を開く。
「…わ、ごめん!引いたよね、変なことゆってごめ______」
「本当、変な人だよね。鈴木さんって」
しかし彼は私の予想に反して、唇を緩く持ち上げて笑みを零す。
笑った所を見たことない彼から貰ったはじめての笑顔は、不器用だけれど純粋だった。
…山田くんって笑うんだ。
どきりと胸が甘く高鳴ったのを聞こえないふりして、私は誤魔化すようにへらりと下手くそな笑顔を向けた。
「そ、そういえば。なんでここに連れてきてくれたの?」
「………、鈴木さんがいつも無理してるから。ここなら僕しか見てないし、日頃の鬱憤でも晴らしてもらおうと思って」
「へ?」
「ほら、早く嫌なこと全部吐き出しなよ」
そう言って山田くんは視線を屋上の端にあるフェンスへと向ける。
私はというと急に言われた言葉に衝撃を受けて先程の山田くんのように体を固まらせていると、彼はこちらに目線を戻しながら催促するように眉を寄せた。
「…い、いやいや、急に!?こんな所で恥ずかしいよ…」
「だから他の人には聞こえないって言ってるじゃん。部活ももうとっくに終わってるし」
「でも、……〜〜そんな、…不満とかないし?」
「嘘下手くそか。そうやって我慢ばっかしてたら自分を追い込むだけだろ。さんにはガス抜きが必要、ほら」
「や、でも……、そんな、私…」
「ああ、もう。つべこべ言ってないで早く言えよ!」
恥ずかしさと少しの強がりでなかなか踏み出せない私に痺れを切らしたのか、その場でうだうだと小言を漏らす私に近づいて、背中を力強く押す。途端に前へと投げ出される私の体。視線をゆっくりと上がると、怖いくらいに美しく染まった赤い空。
それを見たら、何故か素直になれる気がした。
「…っ、先生、私に日直以外の仕事を任せないでっ、私本当は6時の電車に乗りたいんです!
…、そんで同じ日直の人!私ばっかりに仕事を任せないで!黒板消しも、日誌も、手伝って欲しかった!
みんなみんな、私に何でも任せないで、…何も言わないからってそれを良いと思わないで…!
私だってやりたくないこともあるし、たまには休みたい!……、でも、それを断れない弱虫な自分が、こうやって心の中で後からぐちぐち言ってる、そんな自分が一番嫌だ…っ
もっと、もっと…自分が好きなように、自由に生きてみたい…!」
言いたいことを好きなだけ吐き出した後、私は荒くなった息を整えるために暫く俯いていた。
…すごく、気持ちいい。
本音を叫べるだけで心に重くのしかかっていた何かが軽くなっていくのが分かる。
今まで感じたことのない爽快感と満足感に浸っていると、ハッと山田くんの存在が頭に浮かび慌てて彼の方へと視線を向ける。
「…やれば出来るじゃん」
そう言って心底嬉しそうに笑った山田くんを見て、私の心はコロッと恋に落ちた。