夢幻泡影
おなまえ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「な、………で、………?」
「あっはは!オネーサンってば、すっごい驚いてる!僕の情報網甘く見ちゃメッ!だよ!」
最早喉から溢れるのは声とも言えない掠れたノイズ。絶望の淵に立たされた私とは裏腹に乱数くんの表情は至っていつも通りで。あどけない笑顔で私の前に一本指を立てると、軽くウインクをしながらおどけてみせる。
…ぜんぶ、ぜんぶ、乱数くんには、見抜かれて……
「じゃあ、……ぜんぶ、知って」
「もっちろん!本当はもっと楽に殺してあげるつもりだったんだけど、コイツがあんまり暴れてくれるからこんなひっどい姿になっちゃったんだよね〜」
悪いのは自分なのに、
変わらない笑顔の中に、ボソリと吐かれたあまりにも無慈悲で冷徹な声。
けれど怯えきって何も考えられない私の耳にその音が届くことはなかった。
とりあえず、謝らなきゃ、頭下げなきゃ、
捨てられるのだけは、嫌だ。
嫌だ、絶対に嫌だ、
「…らむだ、くん…ごめ、ごめんなさい、…本当に魔が差しただけなの、」
「へぇ〜、オネーサンって魔が差すと他の男ともセックスしちゃうんだ〜。僕だけ愛してくれてると思ってたのに、裏切られて悲しいよ……エーン」
私は捨てられたくない一心で必死に何度も彼に向かって謝罪する。回らない頭を何度も何度も地面に向ける。
するとそれを聞いた乱数くんは感情の籠らない声で嘘泣きを零しながら、顔を手で覆ってしまった。
ちがう、ちがうの、
「私が、好きなのは乱数くんだけだから…、あんなの、一夜だけ仕方なく相手しただけっていうか、もう会うつもりもなかったし…、だから、信じて、お願い…」
懇願するような瞳を彼に向けて、彼の華奢な肩に縋り付く。すると顔を覆っている手の隙間から僅かに見えた口元が意味ありげに緩むのが分かった。それに気づいた瞬間にはもう時すでに遅し。急に心臓が大きく脈打ったかと思うと、激しい動悸と息切れに襲われ彼の腕を掴む手がずり落ちて空を切る。
なに…、これ……
頭がフワフワと宙に浮かぶような感覚、目の前が霞んで乱数くんの顔がよく見えない。
そうしているうちにもどんどんと体が熱に浮かされ、外気にさらされているだけの肌が勝手に反応し始める。
「あれ〜?もう効いてきちゃったかな?」
「な、に……、なにした、の…」
「ん〜?オネーサンが飲んだお酒にちょーっとおクスリを混ぜただけだよ?」
息を何とか整えようと胸に手を当てて深呼吸を繰り返す私に、乱数くんは見世物を見るかのように楽しそうな視線を寄越す。
どんどんと思考に靄がかかり、正常な判断が出来なくなる。薬…?わたし、毒殺でもされるのかな、
そんな事を考えながら思い瞼を閉じかかっていると、不意に軽く肩を押され私は呆気なくその場に倒れこむ。その上に軽々と乗ってくるのは、きっと乱数くん。…もう動く気力がない私はされるがままで、とろりとした瞳をゆらゆらと揺らしてはぼんやりと目の前のピンク色を抽象的に捉えることしか出来ない。
ああ、…このまま私も乱数くんに殺されるのだろうか。
でも、乱数くんに殺されるのなら、本望だ。
「今回は薬漬けで僕が満足するまでセックスするだけで許してあげる、けど……
次おんなじことしたら、アンタの事も殺してやるから」
そう言ってニヒルな笑みを浮かべる乱数くんの瞳にはギラついた色が宿っていた。獲物を仕留める猛獣のように。
ああ、きっと私はこの人から逃げられない、
このあおいめをしたあくまから、きっと、
こんな狂った愛され方、きっとみんなは怖いと思うだろう。
けど、わたしは、ただただうれしい。
こんなに狂気的な愛され方でも、わたしの浮気で彼がこっちを向いてくれただけだも、すごくうれしい。
数時間前までセックスしていた男の顔なんて、もう思い出せない。
むしろこのためにしんでくれてありがとう、なんて思うくらいで。
そんな私も、きっと狂っているのだろう、
「ころして……、」
蕩けた瞳の中に恍惚の表情を浮かべてそんな言葉を吐く私も大概異常だけれども、それを見た乱数くんは更に笑みを深めて顔を近づけた。
「…お望み通り、死ぬまで愛してあげるね」
その言葉を最後に、私の口は息をする事を忘れた。
END
5/5ページ