夢幻泡影
おなまえ
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「じゃあこれ、電話番号。またいつでも連絡して」
「うん。ありがとう」
ネオンが目に痛いロゴのラブホテルの前で、私たちは別れようとしていた。
男から渡された紙切れをポッケに入れながら微笑むと、彼は名残惜しいのか少しだけ寂しげに瞳を揺らす。
…なんだか、犬みたい。
微笑ましい気持ちになっていると不意に男の顔が近づいて頬に手が触れた。
あ、キスされる_____なんて思う頃には唇に温かな温度が染み付く。数秒触れ合った後、ゆっくりと唇が離れて男の表情が目に映った。
「じゃあ、また……」
「うん。またね」
男は小さくはにかむと、ゆっくりと手を振って私に背中を向ける。
私も暫くぼんやりとその背中を見つめていたが、ハッと我に帰り自分も帰路につくため足を動かした。
はぁ………虚しいなぁ。こんな事して、何にもならないのに………。
家に向かいながら自分の行った事に少し後悔していると、ふと携帯が着信を知らせる。相手を確認すると乱数くん。…少し罪悪感が胸を掠めたが電話をくれたことが嬉しくてすぐに応答ボタンを押した。
「乱数くん?どうしたの?」
「オネーサン!ちょうど今オネーサンの家の前にいるんだけど会えないっ?せっかくだし!」
「あ……う、うん。全然いいよ。私も今から帰るから合鍵で先中入ってて?」
「分かったっ、中で待ってるね!」
いつも通りの高くて可愛らしいテンションの高い声。バレていない事に安心する反面少し複雑な心境だった。
もしかしてこの後そういう空気になるのだろうか…さっき結局4回もされちゃったし、正直腰がキツイんだけども……
まぁ、乱数くんと久々に会えるんだからいいか。
少し浮き足立った気持ちになった私は先ほどよりも早足で帰り道を歩いた。
「ただいま、乱数くん」
「お帰りオネーサン!昨日は会えなくて寂しかったんだよ〜?」
「ごめんね。ちょっと外せない用事があって…」
家の中に入るとチューハイ片手にほろ酔い気分の乱数くんが笑顔で迎えてくれた。
久々に見る彼の顔に私の頬は自然と綻んで、靴を脱ぐのも忘れて抱きつこうとしてしまう。…まぁ直前で気付いて抑えられたけど。
取り敢えずラフな格好に着替えて化粧もナチュラルめに変えて、完全なお部屋モードに変身するなり乱数くんの隣に腰を下ろす。
乱数くんはもうかなり出来上がってるみたいでいつもは真っ白で透明感のある肌がほんのり桜色に色づいているのがとてつもなく色っぽい。
それに加えてふにゃりといつもより締まりのない無防備な笑顔を向けてくるものだから、自然とこちらこ頬もでれでれに緩みきってしまう。
「はい、オネーサンの分のお酒〜」
「ありがと。…てか、乱数くん飲みすぎじゃない?明日も仕事でしょ?」
「んっふふ、実はね、明日オフになったんだ〜、だから明日は一日中一緒にいられるよ」
「ほんとに!?」
蕩けた瞳を細めながらチューハイを差し出してくる乱数くんから缶を受け取り、早速喉にアルコールを注ぎ込む。チューハイ特有の強い炭酸と甘ったるい柑橘系の味はやはり疲れた体によく効くものだ。
それだけでも満足感に包まれているというのに、更に明日は仕事だったはずの乱数くんの急なオフの知らせに私の心はどんどん高ぶりいつもより酔いが回るのも早い気がした。
そんなこんなで、お互い幸せに満ちた表情でしばらくの間談笑していると、ふと乱数くんの携帯が着信を知らせる。
「あ、僕だ〜、ごめんちょっと出るね!」
「うん、いってらっしゃい」
仕事か、女の子からかのどっちかだろう。まぁもう詮索するのも疲れちゃったし、明日はどうせ一緒に居られるんだからいいや。ぼんやりした頭で彼の背中を追いかけながら、ふと先程の一夜を過ごした男性の事が脳内に浮かぶ。
あの人とは、カラダの相性は悪くない…顔も、まぁ大丈夫だし…、これからも寂しくなったら会えるだろうか。そう言えば、電話番号貰ったはずだし登録だけでもしとくか…
一旦チューハイを煽る手を止めて、恐らく入れたであろう先程着ていた服のポッケを探ろうとハンガーのかかっている別室へ移動する。
「んー、確かここに、…あった」
服のポッケを手当たり次第に探るとやはりぐじゃぐじゃに丸められた紙切れが放り込まれており、捨てていなかった事に心なしか安堵する。…これでいい。寂しくなった時、穴を埋めるだけの関係でいいから、…
そう考えながら紙切れをしばらく見つめていると、ふと自身の服がかかった横のハンガーに乱数くんの上着もかけられていることに気づいた。
今日はどんな服なんだろう、些細な興味本意でその服を手に取った瞬間______私は言葉を失った。
_____何故なら、その服の後ろ側には大量の血痕が付いていたからだ。