夢幻泡影
おなまえ
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次の日。私はいつもより化粧を濃いめにして、いつもより露出の多い服を着て、ある小さなBARへと足を向かわせている。
あの後____化粧もぐずぐずに崩れた顔のまま私は彼にメールを打った。
『明日、用事ができてしまったので会えなくなりました。ごめんね』
この日、私は初めて乱数くんとの約束を破った。いつもだったら意地でも乱数くんと会うために色々なことを犠牲にしてきたというのに。
けれど、もしかしたら、あわよくば。
この私の行動に、少しは乱数くんも何か感じてくれるかなと小さな期待も寄せていた。
_____しかし。そんな期待は一瞬で塵となって空気に紛れてしまった。
『そっかぁ。用事から仕方ないよ〜!また遊ぼうね♡♡♡』
いつもと何ら変わらない。テンションの高い文面。やっぱり、私なんて彼にとって大勢の中の一人だという事を思い知らさせられた気がした。悲しくて、寂しくて、また涙が出そうになるのを必死に堪えながら、私は携帯画面を閉じて布団に潜り込む。
乱数くんが好き。大好き。だから他の人と浮気したって私の気持ちが彼から動くことはない。
けれど、彼の気持ちはどうなの?きっと、…………
浮気をしても涼しい顔で、何も気にしてなんてくれないだろう。____きっと。
そんな事を考えていたら、いつのまにか瞳から大粒の雨が降り注いで枕を濡らしていた。
***
____浮気をするということは少し心苦しいし罪悪感も感じるけれど、バレなければ大丈夫だ。
私も浮気ばかりされて心が寂しいのだ。自分だけを深く愛してくれる人が欲しいのだ。たとえそれが偽りだとしても。
なんて…そんなのは建前で。本心は彼への密かな復讐。あわよくばバレてしまって彼にも私の気持ちをわかって欲しいだけだ。
まぁ、きっとあの人には一生わかってもらえないかもしれないけれど。
そんな事を考えていたら目指していたBARに着き、中のカウンターに腰を下ろす。
するとグラスを拭いていた髭の生やした男らしいマスターが「…いらっしゃいませ」と小さな声で挨拶をしてきた。
私はそれに会釈で返すと、椅子二つ分開けた実質隣の男性へと視線を向ける。見た目からして30代後半くらいのスーツの男性。顔も悪くないし体格も細すぎず太すぎず。………この人でいいや。
入って早々目星の男を見つけた私はマスターの注文を尋ねる声を無視して、素早く彼の隣へと移動する。
自ずと彼の視線もこちらに向く。戸惑ったような彼の瞳が長めの前髪から覗いた。
私は会社で身につけた笑顔を武器にし、彼へと柔らかく微笑んで見せる。
テーブルに置いていた男の手の甲に自身の掌をゆっくりと被せて。
「……ねぇ、今日暇?……良かったら、私と遊びませんか?」
「………ん………」
「目、覚めた?」
「うん………良かった、すごく」
ゆっくりと瞼を浮上させると、上半身裸の男の顔が瞳に映る。あれからホテルで致した後どうやら気を失ってしまったようだ。
優しく微笑まれるものだから、自然とこちらの口元も緩んで喉からは甘ったるい声が漏れた。
まだ眠気の残った私の猫撫で声に男も気分を良くしたのか、私の前髪を優しい手つきではらいながら唇にキスを落とす。
私も特にそれを拒む事なく彼の首に手を回すと、男の心に火が付いたのか二回戦へと流れ込んでしまった。
全然、良くない。乱数くんとは全然違う。
体温も手つきも、顔も声も何もかもが違う。
…やっぱり私、乱数くんじゃなきゃ……
なんて心の声を必死に殺す代わりに、甘ったるくてわざとらしい喘ぎ声を漏らした。