夢幻泡影
おなまえ
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※乱数も夢主もまぁまぁ最低な事してます※
「乱数ちゃん、今日はすっごく楽しかった!またよろしくね♡」
「ボクの方こそありがとねっ!また誘ってくれると嬉しいなっ」
「もちろん♡誘う誘う♡」
目の前の信じ難い光景に、思わず持っていた鞄を地面に叩きつけてしまう。どさり、鈍い音が耳の奥で反響するが、今はそんな事どうでもいい。がつん、と頭を殴られたような衝撃だけが私の体を支配していた。_____何故なら、
私の恋人である筈の飴村乱数が、見るからに高級感漂う大きなラブホテルから知らない女性と出てきたのだから。
そして、去り際に熱い抱擁と共に何とも熱烈なキスを見せつけられたのだから。
……もうこれで、何度目だろうか。
*
もう夜もすっかり更けこんだ午前1時。いつも通り残業で終電を逃した私は、よろよろともたついた足取りで何とか家を目指していた。いつもならネガティブな発言や愚痴の一つでも零してその辺に暫く蹲るのだが今日は違う。
___何と明日は恋人である乱数くんとデートの約束をしているのだ。しかも2回目の。それを糧に一週間このハードな仕事をこなしてきたと言っても過言ではない。今日も今日とて上司には叱られ、ドヤされ、それを見た後輩からは馬鹿にされ、踏んだり蹴ったりな1日を過ごしてもちっとも疲れを感じないのは、やはり久々に乱数くんに会えるからなのかもしれない。恐るべし恋人パワー。
乱数くんとは付き合ってから丁度半年くらいになる。ウチの会社との乱数くんが出掛けるファッションブランドの提携の話が持ち上がったのがキッカケだ。
初めて出会った時は年相応でない目に痛い服装と甲高い声に苦手意識を持っていたものの、改めてビジネスパートナーとして付き合って見ると案外頼りになる男だった。仕事中はいつものヘラヘラした表情をしまい、企画に真剣に取り組む姿。私の失敗にもドンマイと笑顔で肩を叩いてくれる優しさ。気付けば簡単に恋というものに落ちていたらしい。私だけではない。職場の普段は厳しい上司も、人を小馬鹿にする癖のある後輩も、みんなこの飴村乱数という人間に惹かれていった。
どうやら、この男は"女性"と言うものを徹底的に惹きつける魅力を持っているようだ。
どうせ平凡な人生を歩んできた何もかも平凡で地味な自分なんかが乱数くんに相手にされるわけ無いだろうと玉砕覚悟で告白してみれば、あっさりとその恋心は肯定された。
「これからもよろしくね?オネーサン」そう無邪気に笑った乱数くんの言葉を信じ切った私は、涙でぐしゃぐしゃの顔で彼に抱きついたのを覚えている。思えば、全て計算されていたのかもしれない。
それからと言うものの私達の進展は早く、手も繋いだしキスもした。…セックスだって何度もした。
私といる時の乱数くんは周りの女からの誘いを断ってくれるし、何より自分を一番に優先してくれる。そんな彼に自分も舞い上がっていたから、自惚れていたから、バチが当たったのだ。きっと。
だって私と付き合う前は色んな女性と関係を持っていた事は噂で何度も聞いたし、けれど恋人が出来た以上もうそんな事は無いだろうと耳を塞いで過ごしていたが、本当は何も知らない無知を装っていただけだ。
会う度に見つける首筋の赤い跡に、恐らく女性から貰ったアクセサリーや服、帽子。乱数くんでは無い甘ったるい香水の香りなんて、もう鼻の感覚が麻痺するくらい匂った。浮気されている、いや。逆に私が浮気相手なのかもしれない。そんな事は百も承知だった。
けれど私はそれでも乱数くんが好きで忘れられなくて。別れたくなくて。そんな惨めで汚い心の私は彼の浮気を見過ごすしか手が無かった。全部知らないフリをして、ただいつも通り隣で笑って。他の女が触った手を握り、他の女が触れた唇にキスをして、他の女の味を知る彼のモノで気持ちよくなって_____ホント、馬鹿みたい。
_________私、どこまで我慢すればいいのだろう。
私はゆっくりとその場から離れると、重い体を引きづりながら何とか家を目指す。
しかし脳内にフラッシュバックするのはさっきのキスシーン。乱数くんは女の顔を両手で挟み込み、女の方はそんな彼の首に手を回して甘ったるい濃厚なキスを繰り返した。ああ嫌だ嫌だ、思い出したく無い。
また明日。私はあの女が触れた唇にキスをするんだと思うと、どうしようもない吐き気に襲われた。自然と目頭が熱くなり、鼻の奥がツンと痛くなる。明るい街灯の下で立ち止まると、堰を切ったように涙が瞳から溢れてきた。ポロポロとそれは止まることを知らず、アスファルトにシミを作っていく。瞬きと共に下睫毛を辿って滑り落ちる透明の粒は自然と唇に入り込み、そのしょっぱさにまた泣けてくる。止まらない、止まらないや。私はその場にしゃがみ込むと、暫くの間声を殺しながら涙を流し続けた。
そして何を血迷ったのか、乱数の行動に我慢ならなくなった私は、涙でぐしゃぐしゃの顔をゆっくりと空へと向けた。
雲に隠れる欠けた月がまるで私を嘲笑っているようで、更に惨めになってくるがもうそんな事どうでもいい。
こうなったら、私も浮気してやる。
……乱数くんに同じ目に遭わせてやるんだから。
それが、私にできる彼への唯一の復讐だ。
「乱数ちゃん、今日はすっごく楽しかった!またよろしくね♡」
「ボクの方こそありがとねっ!また誘ってくれると嬉しいなっ」
「もちろん♡誘う誘う♡」
目の前の信じ難い光景に、思わず持っていた鞄を地面に叩きつけてしまう。どさり、鈍い音が耳の奥で反響するが、今はそんな事どうでもいい。がつん、と頭を殴られたような衝撃だけが私の体を支配していた。_____何故なら、
私の恋人である筈の飴村乱数が、見るからに高級感漂う大きなラブホテルから知らない女性と出てきたのだから。
そして、去り際に熱い抱擁と共に何とも熱烈なキスを見せつけられたのだから。
……もうこれで、何度目だろうか。
*
もう夜もすっかり更けこんだ午前1時。いつも通り残業で終電を逃した私は、よろよろともたついた足取りで何とか家を目指していた。いつもならネガティブな発言や愚痴の一つでも零してその辺に暫く蹲るのだが今日は違う。
___何と明日は恋人である乱数くんとデートの約束をしているのだ。しかも2回目の。それを糧に一週間このハードな仕事をこなしてきたと言っても過言ではない。今日も今日とて上司には叱られ、ドヤされ、それを見た後輩からは馬鹿にされ、踏んだり蹴ったりな1日を過ごしてもちっとも疲れを感じないのは、やはり久々に乱数くんに会えるからなのかもしれない。恐るべし恋人パワー。
乱数くんとは付き合ってから丁度半年くらいになる。ウチの会社との乱数くんが出掛けるファッションブランドの提携の話が持ち上がったのがキッカケだ。
初めて出会った時は年相応でない目に痛い服装と甲高い声に苦手意識を持っていたものの、改めてビジネスパートナーとして付き合って見ると案外頼りになる男だった。仕事中はいつものヘラヘラした表情をしまい、企画に真剣に取り組む姿。私の失敗にもドンマイと笑顔で肩を叩いてくれる優しさ。気付けば簡単に恋というものに落ちていたらしい。私だけではない。職場の普段は厳しい上司も、人を小馬鹿にする癖のある後輩も、みんなこの飴村乱数という人間に惹かれていった。
どうやら、この男は"女性"と言うものを徹底的に惹きつける魅力を持っているようだ。
どうせ平凡な人生を歩んできた何もかも平凡で地味な自分なんかが乱数くんに相手にされるわけ無いだろうと玉砕覚悟で告白してみれば、あっさりとその恋心は肯定された。
「これからもよろしくね?オネーサン」そう無邪気に笑った乱数くんの言葉を信じ切った私は、涙でぐしゃぐしゃの顔で彼に抱きついたのを覚えている。思えば、全て計算されていたのかもしれない。
それからと言うものの私達の進展は早く、手も繋いだしキスもした。…セックスだって何度もした。
私といる時の乱数くんは周りの女からの誘いを断ってくれるし、何より自分を一番に優先してくれる。そんな彼に自分も舞い上がっていたから、自惚れていたから、バチが当たったのだ。きっと。
だって私と付き合う前は色んな女性と関係を持っていた事は噂で何度も聞いたし、けれど恋人が出来た以上もうそんな事は無いだろうと耳を塞いで過ごしていたが、本当は何も知らない無知を装っていただけだ。
会う度に見つける首筋の赤い跡に、恐らく女性から貰ったアクセサリーや服、帽子。乱数くんでは無い甘ったるい香水の香りなんて、もう鼻の感覚が麻痺するくらい匂った。浮気されている、いや。逆に私が浮気相手なのかもしれない。そんな事は百も承知だった。
けれど私はそれでも乱数くんが好きで忘れられなくて。別れたくなくて。そんな惨めで汚い心の私は彼の浮気を見過ごすしか手が無かった。全部知らないフリをして、ただいつも通り隣で笑って。他の女が触った手を握り、他の女が触れた唇にキスをして、他の女の味を知る彼のモノで気持ちよくなって_____ホント、馬鹿みたい。
_________私、どこまで我慢すればいいのだろう。
私はゆっくりとその場から離れると、重い体を引きづりながら何とか家を目指す。
しかし脳内にフラッシュバックするのはさっきのキスシーン。乱数くんは女の顔を両手で挟み込み、女の方はそんな彼の首に手を回して甘ったるい濃厚なキスを繰り返した。ああ嫌だ嫌だ、思い出したく無い。
また明日。私はあの女が触れた唇にキスをするんだと思うと、どうしようもない吐き気に襲われた。自然と目頭が熱くなり、鼻の奥がツンと痛くなる。明るい街灯の下で立ち止まると、堰を切ったように涙が瞳から溢れてきた。ポロポロとそれは止まることを知らず、アスファルトにシミを作っていく。瞬きと共に下睫毛を辿って滑り落ちる透明の粒は自然と唇に入り込み、そのしょっぱさにまた泣けてくる。止まらない、止まらないや。私はその場にしゃがみ込むと、暫くの間声を殺しながら涙を流し続けた。
そして何を血迷ったのか、乱数の行動に我慢ならなくなった私は、涙でぐしゃぐしゃの顔をゆっくりと空へと向けた。
雲に隠れる欠けた月がまるで私を嘲笑っているようで、更に惨めになってくるがもうそんな事どうでもいい。
こうなったら、私も浮気してやる。
……乱数くんに同じ目に遭わせてやるんだから。
それが、私にできる彼への唯一の復讐だ。
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