ヘリオトロープ*
おなまえ
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《ごめん、11日仕事の都合で会えなくなっちゃったm(_ _)m》
「…送信っと」
質素で簡略な文章を目視でサッと確認すると、私は画面の送信ボタンを押す。
送信しました、の文面が画面に映し出され、それをしっかりと認識すると私は携帯を置いてふぅ、と一息吐いた。
これで準備は整った、あとは当日を待つのみだ。
私は彼の反応が早く見たいが為緩む頬を抑えきれなかったので、誰が見ているわけでもないのに思わずその口元を携帯で隠した。
_____そう、全ては恋人…左馬刻への誕生日サプライズの為の計画だった。
*
「誕生日サプライズ?」
「そう!一昨日彼氏が誕生日だったんだけど、サプライズでプレゼント用意したらめっちゃ喜んでくれてね!」
「へぇ〜」
事の始まりは、仕事の同期であり仲良しの友達でもある子の惚気を聞いている時だった。
その子は付き合って2年ほど経つ彼氏がおり、今まで倦怠期や喧嘩なども一切なく常にラブラブの羨ましいカップルだ。
そんな彼氏が一昨日誕生日だったらしく、サプライズを計画していた様でそれが何とも想像以上にうまくいったらしい。
嬉しそうに頬を緩めながらニンマリと一昨日の出来事に思いを馳せる友達は、今まで見てきたどんな表情より幸せに満ちていて。
「こっちまで、すっごく嬉しくなっちゃったなぁ〜」
なんて蕩けたような甘い声で頬杖をつく友達を私は半分バカップル、半分羨ましいという感情が入り混じった気持ちで見つめていて。
けれどすぐさま我に返った私は、何だか飲んでいたカフェオレがいつもより甘く感じて胸焼けしそうになるのはきっと目の前の友達のせいだと心の中で勝手に八つ当たりをしてみた。
…あれ、そう言えば左馬刻も誕生日もうすぐだなぁ。
ふと、脳内に思い浮かんだのは恋人である左馬刻の姿。
彼とは付き合ってもうすぐ1年になる。アニメにでも出てきそうな白髪。綺麗な赤い瞳。それでもってヤクザなモンだから、本当にアニメキャラの様だ。
だからか、未だに彼と会うと何だか実感が湧かない時がある。本当に碧棺左馬刻という人間は存在しているのだろうか、なんて馬鹿な事を考えたりしたこともある。
まぁ恋人な訳だから色んな事は経験してるし、今更そんな事は言わないけれど。
左馬刻の誕生日か…。11月11日、そうポッキーの日だ。
あんなに怖い奴が、ポッキーの日生まれなんてちょっと可愛い。
ポッキーを無心で頬張る左馬刻の姿が頭に浮かび、危うく飲んでいたカフェオレを友達に向かって吹き出しそうになってしまった。
去年の誕生日は、確かまだ付き合っていないから適当にコンビニとかで奢ってあげたんだっけ?
_____けれど、今は違う。今年はちゃんと恋人として迎える初めての左馬刻の誕生日なのだ。
やっぱり彼女としては、良い誕生日にしてあげたいし喜んでもらいたい。
その気持ちだけは決して揺るがない。
脳内に左馬刻の喜んだ表情が浮かんで、自然と頬が緩んでいた様だ。
友達が「なににやけてんの?」と目の前で小首を傾げたが、私はそんな事を御構い無しで大声を上げて立ち上がる。
「私も、左馬刻に誕生日サプライズする!」
すっかり私は心身ともにやる気に満ち溢れていた。
*
取り敢えず友達にも色々とアドバイスを貰い、大まかなサプライズ内容は決めた。
①まず11日会う約束をしていたのに仕事の都合などでドタキャンする。
②誕生日当日左馬刻には家を空けてもらう。
③左馬刻の家で料理を作りながら帰りを待つ。(ケーキとか色々)
④左馬刻が帰宅した瞬間クラッカーでサプライズ!プレゼントもそこで渡す。
うん!我ながら完璧な計画だと思う。
自作した計画ノートの文字を確認しながら、私は小さく鼻を鳴らす。
その後。ノートを胸元で抱きしめながら、最近あまり会えていない彼の事を思い浮かべた。
左馬刻…喜んでくれるといいな。
「…どうか、11日の午前中から夕方ほどまで左馬刻と出かけてもらえませんか?」
「……なるほど、大体の内容は理解しました」
「……ふむ。貴殿は左馬刻にサプライズをしてあげたいという事だな」
11日目前の横浜で、私はとある男性二人に頭を下げていた。
この人達は、左馬刻と同じチームを組んでいる入間さんと毒島さんだ。
そう。私の計画では当日左馬刻には家を空けて貰わなければならない。
私との予定を入れているから、当然急に仕事が入るわけでもない。
よって家で過ごす可能性が高いのだ。
そうなると私の計画が全て水の泡になってしまうので、それだけは避けたい。
だからといって左馬刻と出掛けるほど仲良しな人なんてそうそういないだろうし、いたとしても私は絶対接触できないと思う。
その打開策に浮かびあがった人物は、目の前の二人だけだった。
急いで入間さんに連絡を取り、毒島さんともコンタクトを取って貰い、何とか二人に会う事が出来た。しかし私も仕事があるのでやっとの事で彼らの姿を確認できた頃には、すっかり辺りが暗い闇に覆われていたけれど。
私が必死に頭を下げて事情を説明していると、不意に入間さんが頭上で小さく息を漏らした。
「…こんなに必死になってまで喜ばせてあげようとしてくれる恋人がいるなんて、左馬刻は幸せ者ですね」
「そういう事なら、小官達も喜んで協力させてもらおう」
顔を上げた先にいた彼らの表情は、酷く穏やかで幸せそうで。
目を細めて優しげに微笑む二人は、何だか子供の恋路を見守る親の様だった。
「…っ!入間さん、毒島さん、ありがとうございます…!」
私はそんな二人の瞳が、心が。
その全てがとても温かくて、つられる様に頬を緩めながらまた深く頭を下げた。
これで、準備は整った。
あとは、作戦を決行するだけだ。
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