Me with a passionate kiss
おなまえ
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「……はい、はい。……では」
「…………」
私は入間さんの殺風景なリビングのソファに腰を下ろしながら、目の前で電話越しの相手と何やら話している彼の横顔をじっと見つめていた。いや____正確に言うと、見惚れていたと言う方が正しい。
今日はなんと入間さん宅に初めてお邪魔させてもらっているのだ。
いつもなら「未成年の女性を家に泊まらせるわけ無いでしょう」の一点張りで、何度せがんでも頑なに家に入れてくれないのだが、今日は違う。
私が夜遅くまでヨコハマの街をほっつき歩いていた所を入間さんに見つかり、補導されてしまったのがキッカケだ。本来なら親に連絡されて、家へ帰されるのだが、何と言っても私の家はヨコハマからかなりの距離がある。
今から送ってもらっても2時間弱はかかるだろう。だから、いつも会うのに一苦労だし、なかなか会うことも出来ない。
困りに困った入間さんは最終的に仕方ないという感じで、取り敢えず私を家に招いてくれた。これは私にとって嬉しい誤算だ。
まぁ、その後はご覧の通り入間さんは私の携帯を使い、何処かに連絡を取っているみたいで、私はそれを待っているという状態だ。
きっと家に上げたのも一瞬で、すぐ家へ帰されるのだろうけど。
なんて思いながら入間さんの横顔を見つめると同時に、未だ彼が私と同じ気持ちであるのがまだ夢みたいで。信じられなくて。
緩む頬がどうしても抑えられなくて、だらしなく弛んだ顔を引き締めるように私は両側から自身の頬を摘んだ。
「_____何してるんですか?」
「……っあ、入間さん…、電話終わりました?」
すると不意に頭上から優しい声が降ってきて、慌てて顔を上げると穏やかな彼が微笑んでいた。
いつもの入間さんの表情を見れたことが嬉しくて、折角引き締めたはずの頬がまただらしなく緩んだ。
「はい。携帯、ありがとうございました」
「えっと、……どこに電話かけてたんですか?」
「貴方のご家族にですよ。もう夜も遅いので、一晩私が預かるとご連絡を」
「へ〜…………って、ええ!?!?」
何気なく聞いた質問の答えがあまりにも爆弾発言で、私はうっかり彼から返された携帯を落としてしまいそうになる。
当然このまま家に帰されるのだろうと考えていた私が入間さんに向けて大声を上げると、目の前の彼は不思議そうに目を丸くしながら首を傾げた。
いや〜〜……あざと………。
じゃなくて!!!!!
「あの、初耳ですけど……?」
「まぁ、今言いましたからね。嫌なんですか?」
「い、嫌なわけ……!全然嫌じゃないです!むしろ嬉しいんですけど!……やっぱり、迷惑と、か……」
携帯を守るように胸の前で握りしめながら、入間さんに伺うような視線を向ける。
すると彼は少しだけ寂しそうに瞳を揺らしてこちらを見つめ返すものだから、私は慌てて弁明しようと必死に言葉を並べた。
ちょっと入間さん、可愛すぎじゃない???ホントに署とかで襲われてないか、心配レベルなんだけど…。
先程の彼の仕草や表情を思い出しながらそんな事を悶々と考えていると、不意に頭に優しい温度を感じてハッと我に帰った。
慌てて彼の方を見上げると、優しく目尻を下げて笑う入間さんと目が合い、どきりと大きく心臓が音を立てる。
「いつもは図々しいくらい家に上げろとせがんで来る癖に、変な所で遠慮がちですね。______それに、迷惑なわけないでしょう。むしろ貴方と一晩一緒に過ごせるなんて、私にとって好都合でしかないですよ」
「〜〜〜っ!」
今まで私の髪を撫でていた掌を私の頬へと移動させ、摺り寄せるように優しく撫でる。
その上、どんなスイーツよりも甘々な微笑みを向けるものだから私の心臓は爆発寸前だ。
途端に真っ赤に染めあがっていく私の頬。40度の熱が出たのかと疑うくらいに熱くなり出す体。
そのまま私は何も言えず、暫く唇をパクパクとさせていれば、入間さんは余裕たっぷりの表情でクスリと笑った。
「_____まぁ、安心してください。まだ高校も卒業していない未成年に手を出す気はさらさらありませんから」
「っっ、手ぇ!?!?」
またもや爽やかな笑顔で爆弾発言を落とした入間さんに、私の脳内はキャパオーバーを起こしそうだ。
更に頬を真っ赤に染め、分かりやすくあたふたと視線を彷徨わせた私を見て、彼は心底楽しそうに笑みを浮かべた。
か、揶揄われてる……完全に。
***
「ふぅ………」
あれから有難い事にお風呂を使わせてもらい、冷えた体も一気にほかほかに温まった。
入間さんから教えてもらったシャンプーとリンスを使う時に、彼も毎日同じ物を使っているのだろうかとふと思い、明日起きれば同じ香りがするのかななんて浴槽で一人にやけたりもした。
そして歯磨きもドライヤーも全て終わり、まだ若干赤みのかかった頬のままリビングへ戻ると、そこに入間さんの姿はなかった。
……あれ、何処行ったんだろ。
辺りをキョロキョロと数回見回してみると、ソファから少し離れた大きな窓の外に人影を見つけて近づいてみる。
よく目を凝らしてみるとそこはベランダの様で、煙草の煙を蒸している入間さんの背中を少しの間ぼんやりと見つめていた。
…きっと私がいるからわざわざ外で吸ってくれてるんだろうな。
てか、やっぱり、入間さんって大人なんだな…。
たった数メートル離れているだけなのに、やけに入間さんを遠くに感じて胸の中が切なさで溢れそうになる。
きっと、入間さんには私なんかより綺麗で、上品で、スタイルも良い女性がいっぱい寄ってくるんだ。
_____その時、ちゃんと私を選んでくれるのかな。
私だけだ、って言ってくれるのかな。
やっぱり子供の私なんか、嫌になってしまわない…かな。
そんな不安を拭うために少しでも近づきたくて、側にいたくて、気づくと私はベランダへ続く窓を開けていた。
その微かな音に反応した入間さんが、煙草を吸うのを止めてゆっくりとこちらを向く。
暗闇の中、月夜に照らされた彼の顔はやけに綺麗に見えて、余計に虚しさが襲ってきてしまう。
「……高橋さん?どうかしたんですか?」
「あ、あの…お風呂、ありがとうございました」
「ああ、ちゃんと温まれましたか?此処は寒いですから、中に入っていて下さい」
服を裾を握りしめながら深々と頭を下げると、入間さんはいつもの様に穏やかな表情で微笑む。
私の体を心配して部屋の中へと催促されたが、今は入間さんの側から離れたくなくて、私の足は自然と彼の方へと向かっていた。
「_____高橋さん?」
「寒くても、いいです……煙草も、気にしないで吸っててくれていいんです、けど……折角一晩一緒にいれるので……その、出来るだけ、側にいたい、というか………」
彼の意思に反して側に寄ってきた事に驚いたのか、私を伺うような声が耳に入ってくる。
私は裾を握りしめる力を更に強くすると、容赦無く体を襲う羞恥を抑えて、入間さんの肩に寄り添うように体重をかけた。
そして上目遣いで彼を見上げると、半分はお風呂のせい、もう半分は恥ずかしさ、真っ赤に染め上がる頬を隠すこともなく、甘えるように彼の服を少しだけ摘んで本心を吐露した。
…こんなのホントに自分がキモすぎるし、引かれるかもしれないけど、少しでも可愛く見られたくて。他の人なんか見えなくなってほしくて。
なんて私のただのワガママだけど…。
自分の行動に鳥肌が立つのを必死に我慢しながら、次の入間さんの反応を待つ____が暫くしても彼が言葉を発することはなく、二人の間に静寂が訪れる。
そうか。もしかしなくても、失敗したのか。私は。
「_____……な、なーんて、冗談です!やっぱり寒いし、中入って待ってますね!」
この沈黙に耐えられなくなった私は、わざとらしい笑いを零しながら彼から離れようとする。
しかしその瞬間______肩を抱かれて勢い良く入間さんの方へ引き寄せられる。そのせいで必然的に逃げようとした私の動きは停止する。その行動に驚いて反射的に彼の方に顔を向ければ、思い切り煙草の煙を吹きかけられた。
「っ!____ゴホッ、……!!何……!?」
苦手な煙草特有の匂いが急に体内に入った事で、当然私はむせてしまいその場に咳き込む。
喉を激しく突くような煙と共に排出される炭化の臭気が、私は昔から大嫌いだった。
「ちょっ、急に何するんですか!」
途端に胸がムカムカとしてくるのを抑え、煙草のせいか若干の涙目になった瞳で入間さんを精一杯睨みつける。
私がいくら気持ち悪かったからって、こんな扱いは酷いじゃないか。
しかし目が合った入間さんの瞳は飢えた獣のようにギラついており、綺麗なエメラルド色が月に照らされて一層輝いた気がした。
その光景に文句を言おうとした口は自然と閉じられて、入間さんから目が離せなくなっていて。ぞくり、と何かが背中を駆け巡った気がした。
そのまま見惚れるかのようにぼんやりと彼を凝視していれば、煙草を片手に入間さんの口角が緩く持ち上がる。
「それは"誘惑"されていると、捉えて宜しいですか?」
「っは、……ゆ、ゆうわ……!?」
どうやら、私はとんだ誤解をさせてしまったようだ。
入間さんの口から飛び出たのは思いもよらない言葉で、私の体温はまた一気に上昇する。
恥ずかしさと焦りで何も言えない私の顔に色気たっぷりに目を細めて微笑んだ彼が近づくものだから、思わず体が萎縮してしまい固く目を瞑ってしまう。
きっと今の私の顔は真っ赤でど緊張していて、体も震えていてお世辞でも可愛らしいなんて言えないだろう。
仕方ない。恋愛経験0のお子様なのだから。
……けど、そんな私に本日2度目のキス_______!?
まだ付き合ってるかも分かんないのに、は、早くない!?
もしかしてそのままR18展開まで行ってしまわない!?
両思いになってから数ヶ月、早くも大人の階段を_______!?
でも、怖いけど、入間さんとなら……嬉しい、かも………。
なんて心の中で混乱しながらそんな事をごちゃごちゃと考えていると、頭上で入間さんがふっと息を吐いた。
それに気付いた私は、思わず目を開けて彼の顔をおそるおそる確認してみる。
「冗談ですよ。そんなに身構えなくても取って食ったりはしませんから、安心して下さい」
するとそこには先程までの瞳をギラつかせた雄の顔をした彼はいなくて、ただいつもの穏やかな表情をした入間さんが微笑むだけだった。
彼は私の頭を優しい手つきで撫で上げると、「ほら、早く中に入らないと風邪ひきますよ」と諭すような口調で私を部屋の中へと促す。私はそれに素直に頷くと、まだ赤みの抜けない顔を隠すように彼に背を向けた。
______は、恥ずかしい!!!!
何をやってるんだ。私、ホントに、血迷って、入間さんも困惑したよね、絶対。
温かな室内に入ると共に、チラリと入間さんのいるベランダを振り向く。
彼は何事も無かったようにまた煙草を蒸かしており、大人の余裕を見せつけられた気がして、何だか悔しくなった。
……何より、少しだけ、期待した自分が一番恥ずかしい………。
………こんな気持ちにさせられるなんて、癪だ、癪すぎる!!!!!!
_______決めた!!!!
私は拳を強く握りしめ、大きく深呼吸しながら強く心に意気込む。
今日、絶対入間さんからキスしてもらえるように誘惑する!!!!してくれるまで、寝ないんだから!!!!
なんて私のよく分からないプライドに火がつき、二人の長い長い夜が始まるのだった。
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