Encounter
おなまえ
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……どくん、
心臓がやけに耳の側で響き、私は思わず拳を強く握る。少しだけ震えたその手を抑えるために。
「よ、こはま……?」
「そうだ、ヨコハマだ。知ってるか?」
「横浜は知ってます。…けど、ディビジョンって……?」
「ああ、中央区以外の区画は4つのディビジョンで成り立ってんだ。男が生きる事を唯一許された場所がな」
…どくん、自分の一瞬想像した未来にどんどん近づいている気がして、心臓の鼓動の動きが速まる。
……ダメだ、聞いちゃ、ダメな気がする。
だって、こんな事、あり得ない。だって、彼らは二次元の存在で__________
「その区画の名は…イケブクロ、ヨコハマ、シブヤ、シンジュクだ。どうだ、何か覚えはないか?」
「………っ、ぅ、そ…………」
指を一つずつ折り曲げて説明する男性の口から発された言葉で、私の予想は当たってしまう事となった。
現実では有り得ない展開に思考が追いつかず、私の喉からは情けない声が漏れてしまう。きっと今の私の表情はさぞかし呆けたものだっただろう。
……私は、今確かに、ヒプノシスマイクの世界に来ている。
間違いない、だって、こんな事がある世界なんて_______……
けれど未だに信じられなくて、私は目を見開き動きを停止した状態で、暫く男性の顔を見つめていた。
私が我に返ったのはそれに疑問を感じた男性が、私の肩を軽く揺すりながら声をかけてきた時の事だった。
「おい、オマエさん大丈夫か?」
「っぁ、……ご、ごめんなさい、」
「まぁ無理もないさ、急に知らない街に来て混乱しねぇって方がおかしいからな。……けどな一つ助言しとくと、花子さん。…早く此処から出てって中央区に助けを求めた方が身の為だぞ」
「………え?」
男性が優しい手付きで背中を叩いてくれたお陰で、私の心も自然と落ち着いて行く。
荒くなっていた息を整えていると、ふと隣から危険な色を感じさせる地響きのような低い声が聞こえ、思わず肩がびくりと分かりやすく揺れてしまった。
ゆっくりと男性の方を向けば、眉を潜め真剣な眼差しで私を見つめていて。まるで早く出て行け、と言わんばかりの目つきに言いようのない不安が胸に渦巻く。
どうして?声には出さなかったけれどきっと私の瞳が全てを物語っていたのだろう。
男性は大きく息を吐くと、渋々と言ったように口を開けた。
「……アンタ、ヒプノシスマイクって知ってるか?」
「__________…!!!」
…やっぱり、ここは、ヒプノシスマイクの…!
まだ少しだけ半信半疑だった私の心にトドメの一撃と言わんばかりの言葉が突き刺さる。
夢にまで見たこの世界に来れた事はもちろん嬉しかったのだが、あくまで目の前の男性の表情は険しいままだった。
本当の事を言おうとも考えたが、きっと異世界から来たなんて言っても信じてはもらえないだろう。
むしろ気味悪がられるかもしれない。
取り敢えず異世界どうこうの話は自分の中に留めて話だけを聞こうと、私は黙ったまま一度だけ首を縦に動かした。
「……そうかい、その情報は知ってるのか。なら話は早い。ヨコハマは違法マイクの溜まり場だ。タダでさえヤクザやゴロツキばかりの街だってのに、それに加えて違法マイクでの喧嘩が絶えず毎日何人もの人が命を落としたり…病院送り、またはサツ送りだ。その治安の悪さに女性は専ら近づかなくなっちまった。お陰で女に飢えてる男もそこらにわらわらといる。…ここまで言えば、オマエさんでも分かるな?」
「っ………、」
威圧さえ感じさせる雰囲気に、私は思わず生唾を飲み込む。唸るような低音がさらなる臨場感を与え、恐怖に体が微かに震えていくのが分かった。
男性の表情と雰囲気からこの場所、ヨコハマがどれだけ危険な地帯であるかが伺えて、彼の問いかけに激しく頭を縦に振る。
すると私の行動に男性も表情を緩めて「取り敢えず中央区の行き方を教えてやるから…」とジャケットからレシートの紙切れとペンを取り出そうとしたその時___________……
「……っ、た、助けて、助けてくれぇ……ッッ…」
歯切れの悪い、今にも消えてしまいそうな苦しげな声が背後で聞こえた。