Awakening
おなまえ
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「あ…、あの、実は私気付いたらこの場所で倒れてて…その時の記憶もないし、ここがどこかも分からなくて……少しだけここの話を聞かせてもらえませんか?」
「……誘拐か。オメェさんも災難だな。よりによってここに連れてこられるなんて」
私が男性の前まで行き伺うような視線を向けると、彼は一瞬目を見開いた後大きく溜息を吐く。低くて嗄れた声はこの騒がしい街には少し聞きづらいけれど、それでも確かに私の耳には届いた。
男性はゆっくりと私を見上げると視線を横にスライドし、まるで隣に座れと言っているみたいだ。私は何度も首を振ると、喜びの心情を抑えながら男性の隣に腰を下ろした。
「…取り敢えず、お前は中央区以外の4区の事は知ってるだろう?」
「え…、中央区以外?ごめんなさい、東京の事はよく分からなくて…」
「……はぁ?だから、H法案だよ。男はみんな政治が行われる中央区以外での生活を余儀なくされてんだ。女なら、それくらい知ってんだろ?」
「え、えいち…法案?……ごめんなさい、何のことかさっぱり…」
男性が切り出した言葉は私には全て理解し難いもので。本当はここは日本ではないのかもしれないと錯覚してしまう。
H法案…ヒプマイでよく耳にしたその言葉が男性の口から飛び出した時は驚いたが、きっと何かの間違いだ、そんな事有り得ないと心の中で大きく首を振った。
すると男性は信じられないというばかりに瞳孔を大きく開かせると、胸内ポケットから出そうとしたタバコをゆっくりと戻した。
「…こりゃ驚いた。まだこの国にオメェさんみたいなやつがいるなんて。名前は何だ?」
「えっと、山田花子です。高校三年生です」
「…花子サン…か。オマエさんどこに住んでるんだ?」
「えっと……○○○という所です。ど田舎なんですけど、自然が綺麗で…老若男女仲が良くて……」
「……そんな場所、この国にはねぇぞ」
がつん、頭を鈍器で殴られたような衝撃が体を駆け巡る。男性も聞いたことのない場所に戸惑っているようで、目を白黒させながら深く被っていた帽子を少しだけ上げた。
私はというと、自分の住む場所がこの国にないと言われ一瞬思考が停止する。しかしすぐに我に帰ると、慌てて口を開けた。
「え……ここ、日本ですよね?」
「…あぁ、違いねぇ」
「だったら、あります!私、昨日までそこで普通に過ごしてたんです!」
「ンな事言われても、男はみな4区以外は入れねぇ。…ここは女尊男卑の世界なもんでね」
どくん、胸が大きく脈打つ。
背中に冷や汗がどんどん伝い、私の体は冷えからか_____それとも他の何かか、すっかり震えていた。
『女尊男卑』
…私達の世界ではあり得ないこと。
けれど最近はヒプマイにハマっていることもあり、その言葉をよく耳にした。
女性が全ての政権を握り、中央区で政を。野蛮な男性はそれ以外の区での生活を強いられた。
H法案の制定により、人を傷つける武器の製造を禁止。全ての武器が廃棄されて______……。
似ている。男性の話とあまりにも類似している。
「あの……では、…ここは、何処なんですか……?」
どくん、どくん、大きな心音が頭に響く中、私はゆっくりと男性の方へ顔を向ける。
すると男性は被っていた帽子を取ると、髭ですっかり隠れた口元を少しだけ動かした。
「________此処は、ヨコハマだ。ヨコハマ・ディビジョン」