Awakening
おなまえ
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「…え…?女の人がいないって、嘘でしょ…?」
「ホントなんだって!さっきから歩いてても、女の人と全然すれ違わなくて…!!」
電話の向こう側で息を飲んだ和子の声は、まだ少しだけ疑いの眼差しを向けている。
しかし私は再度周りを見回して女性がいない事を再確認すると、焦りを含んだ声を隠せずに大きな声を出してしまった。
その時の私が余程切羽詰まっていたのだろう。
和子はすぐに信用してくれたようで、「花子、一旦落ち着こう?」と何処かで聞いたセリフを冷静な声で私に投げかける。
そんな彼女の声にだんだんと取り乱した感情が落ち着き、私は胸に手を置き一度深呼吸するとゆっくりと言葉を発した。
「…ごめん、ちょっと混乱してた」
「無理ないよ。いきなり知らない街に連れてこられて、落ち着いていられるわけない…。むしろさっきまで冷静でいてくれたのが凄いくらい」
「…だよね。でも和子も一緒だって思えば、怖くないよ」
「………私も。…早く会いたいよ。そんで、いつもの場所に戻りたい」
「…大丈夫。きっと会えるから。今は情報収集を優先しよう」
「……うん」
やはり電話で繋がっていても、直接顔が見れないのは不安なものだ。
しかしそれを拭い去るようにポジティブな言葉を発せば、和子も同調し明るい声で返事をしてくれる。けれどその言葉自体は弱々しく、彼女も相当メンタルをやられているのが伺えた。
私はそんな和子をどうにか勇気付けたくて、どうにか前向きな言葉を頭から引っ張り出す。
すると和子もそれを汲み取ったのか、嬉しそうな声が電話越しに聞こえて、何だか胸に温かいものが込み上げてくる気がした。
私は気を入れ直す為に唇を強く噛み締めて、未だジロジロとこちらを凝視してくる男の人たちを睨み付けると、力強く地面を蹴って歩き出した。
***
それから新たな収穫を得たのは、気を入れ直してから然程時間は経っていない頃だった。
取り敢えず充電が無くなるとまずいので、10分から15分ほど散策をしたら電話で情報を伝え合おうと決め、お互い一度通話を切った。
それからというもの、何だかどんどん路上の治安が一気に悪くなっていく気がする。
周りでは怒鳴り声や喧嘩、それに対しての血痕も多く見られ、それだけで私は胸の奥がひんやりと冷えた。
タバコをふかして路上に座り込む男性の腕には入れ墨を入れている人もおり、私は思わず情けない悲鳴を上げてしまうのを必死に抑えて目を逸らした。
〜〜なんで、こんなにここ治安が悪いの……!?
出来るだけ存在を知られないように、小さく体を丸めて早歩きで街を通り過ぎていく。
しかしこれでは何の情報も掴めないままだ。でも仕方ない。こんな治安の悪い街で女の人もいなければ怖いのは当然だ。
どうするべきか…真っ青な顔を俯かせながら、必死に考えていればふと100メートルほど先にコンビニが見える。
取り敢えずそこへ避難すれば安全だ、少しだけ安心した私は、早歩きだった足を更に大股に動かそうとした。
「……珍しいな、こんな所に女一人でほっつき歩いてるヤツがいるなんて」
「っ………!!っえ…」
不意に背後から低い声が被せられ、私の動きも自然と停止する。
そのままゆっくりと後ろを振り向けば、路上の端にタバコを加えながら座り込む一人の男性がこちらをじっと見つめていた。
____40、50代くらいか。白い髭を生やし、デニムのジャケットと羽織り、帽子を深く被っていた。
私が一瞬思考を止め、何も言えずに黙り込んでいると、その男性は目を細め、鋭い眼光でこちらを捉える。その瞳に宿る冷たい色に思わず背筋に悪寒が走り、私の体は硬直してしまった。
けれど今まで私を見てくる人はいたけれど話しかける人は初めてだったので、私は勇気を出してその人に言葉を発してみることにした。
「……あ、あの、この街の人ですか?」
「…そうだが、アンタはどこのモンだ?ここにはもう、女なんてすっかり寄らなくなっちまったってのに」
情けなく震えた唇を何とか動かし、男性に近づきながら問いかける。
すると男性はタバコを口から離し、コンクリートの地面に赤色の先端を押し付けると、少しだけ嗄れた声で返答してくれた。
……やっと、話せた…!ここの人と…!!!
少し怖い人みたいだけれどここの人と接触出来ただけでだいぶ大きな収穫だ。
胸の中が安堵と期待で埋まっていくのを感じ、私は少しだけ胸を躍らせた。
…絶望していた私に、一筋の光が見えた気がした。