Awakening
おなまえ
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「っ…!携帯…!」
携帯の着信音が耳に入った途端、私は我に帰ったように顔を上げる。
そうだ、なぜ今まで気付かなかったのか。私には携帯という便利な器具をあるというのに。
一筋の光が見えた気がして、私の心は不安や恐怖から少しばかり解き放たれる。
きっと誰かが私が消えた事に気付いて、連絡をくれたんだ。私はそう信じて、先程から着信を告げている携帯を取り出し、ディスプレイを覗いた。
そこに表示されていたのは、和子という文字だった。
和子だ……!
先程見えた一筋の光は明確な物となり、私は思わず顔を輝かせる。それと共に安堵の感情が一気に胸中に流れ込んで来て、自然と頬が綻んでいた。
和子、気付いてくれたんだ…!
支配していた負の感情は全て消え、今度は希望に満ちた心情だけが私を包んでいく。
私は喜びを隠す事もなく、頬を緩ませたままその電話に出た。
「和子…!良かった、気付いてくれたんだね!」
「ねぇ!花子今どこ…!?私、変な所に来ちゃった…!」
「…え?」
明るい声で電話に出た私とは逆に、和子の声色は切羽詰まったようなもので。
泣きそうなのか、泣いているのか、彼女の声は電話越しでも分かるくらいに震えていた。
____まるで、さっきまでの私のように。
「…っ、花子、どうしよう。帰り道、分からないよ、ここ、どこかも分からない……!」
「っ、……落ち着いて、和子」
暫く放心状態で何も言えなかった私の耳に、不安そうに震えながら微かに息を漏らす和子の声が響き、慌てて意識を取り戻す。
私より混乱している様子を感じ取ると、何故か私の心は自然と冷静なっていく。
取り敢えず和子を宥めようと、不安にさせないように落ち着いた穏やかな口調で彼女に話しかけた。
「和子は今、全く見覚えのない所にいるの?」
「うん…、昨日から記憶がなくて、どうしてこんな所に居るのかも、分からなくて……、怖いよ…」
状況を整理しようと投げかけた質問に、和子は途切れ途切れだけれどしっかりと答えてくれる。
けれどその言葉遣いからは、かなりの混乱と不安とストレスを感じられた。まるで悲痛な気持ちを訴えかけるように。
でも、おかしい。……全く私と状況が一緒だ。和子もどこか知らない場所で目覚めて、記憶がなくて……。
私ももちろん不安だったけれど、やはり同じ境遇の人がいるだけでだいぶ心が軽くなった気がした。しかも、それが和子だし。
もし奇跡的に近くにいるのなら、どこかで会えればいいんだけれど…。
そう思いながら頭の中で色々と打開策を模索していると、「…花子……?」と電話越しに和子の不安げに揺れた声が聞こえ、ハッと我に返った。
まぁ、まず和子に私も同じ境遇である事を伝え、安心させてあげなければ。
「…和子。よく聞いて。私も今和子と同じ境遇みたいなの。私もさっき目が覚めて…そしたら見知らぬ町にいて、記憶も全くなくて…」
「嘘…!花子も?」
「そう…、だから和子一人じゃないから、安心してほしい」
あくまで穏やかな口調で、私も自身の状態を丁寧に和子へと伝える。
すると今まで混乱しっぱなしだった和子が画面の向こうで小さく息を吐いたのが聞こえ、少しだけ安心してくれたようだった。
それだけで私も幾分か心が落ち着き、また話を続けるために口を開けた。
「だからね、取り敢えず合流しない?…もしかしたら、遠い所にいるのかもしれないけど……会えたら絶対心強いと思うし!」
「も、もちろん!早く会いたい……!取り敢えず周りにある物を確認するために歩くね!」
私の提案を食い入るように二つ返事で承諾した和子が、嬉しそうに上ずった声を出しながら立ち上がる音がする。
すっかり元気を取り戻した和子の姿に、私の頬はすっかり緩みきっていて。
「私も取り敢えず歩くね!」
まだ抜け切らない不安を振り切るように、私も明るい声を出しながら勢いよく立ち上がった。