Awkward
おなまえ
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「…何をしているんですか」
「おー、げんたろー」
「あっ…お、おはようございます」
襖の向こう側から現れたのは幻太郎。徹夜したのだろうか顔色も悪く心なしかやつれている気がする。帝統が機嫌良さそうに挨拶をすると、私もそれにつられて頭を下げた。
「実は俺が腹減ったって言ったら和子が朝飯作ってくれてよ、これがマジ美味ぇんだよなー。あ、俺が食材使っていいっつったから怒るなら俺を怒れよ!」
「えと…良かったら夢野さんの分もあるのでどうぞ…!」
後で部屋にでも持っていこうとお盆に乗せていた夢野さんの分の朝ご飯を渡そうと、彼に歩み寄った時_____心底不機嫌そうで、辛そうな声が耳に響いた。
「_____いりません」
「え…」
「小生は別に作ってくれなど一言も言ってませんし、…はっきり言って迷惑です」
私を思い切り睨みつけながらそんな言葉を吐き捨てると、料理になんて目もくれずにさっさと部屋へ戻って行ってしまった。
私はあまりのショックに暫くその場から動けずにいた。
「んだよ幻太郎の奴…、ちょっと和子に対してキツすぎじゃねぇか?…俺言ってくるわ」
「っい、いいです…、いいんです。私は大丈夫ですから…」
帝統が居心地悪そうに舌打ちをすると、立ち上がって幻太郎の部屋へ向かおうとするが私は慌ててそれを止める。振り向いた帝統に口元を緩く上げながら小さく首を振ると、彼は不満げに眉を顰めながらも渋々引き返してくれた。
…あーあ、上手くいかないなぁ。何であんなに嫌われてるんだろう。まぁ、急に来て暫く家に居させてくれって言われて嫌じゃない人の方が少ないか。…一ヶ月だ。一ヶ月我慢して何とか他に住める家を見つけなくちゃ…
「じゃー俺は行くけど、なんかあったら言えよ」
「はい、ありがとうございます」
玄関で帝統を見送り、ドアが閉まるのを見届けるなり居間へと戻る。さっきまでの帝統がいた空間とはまるで別物のように静寂に包まれた場所に、何故か寂しくなってしまう。馬鹿だな。今まではこれが当たり前だったのに。少しでも人と関わるとすぐこれなんだから。
私は机に置きっぱなしだった彼のために残した朝食をお盆に乗せ直すと、幻太郎の部屋に向かう。部屋の前にお盆を置くと、障子越しの幻太郎に向かって勇気を出して声をかけた。
「あの、夢野さん。…帝統さんから聞きました。今原稿中だって……、あの、体壊すといけないので、朝ごはんはちゃんと取った方がいいと、思って。もしかしたら余計なお世話かもしれないですけど…一応、ご飯ここに置いときますね」
_____返事はない。
途切れ途切れに紡いだ言葉の返答は悲しい沈黙となってこの空気を包む。まぁ、そりゃそうか。これ以上待っても仕方ないと判断した私は、小さく息を吐きながらその場を後にした。