Awkward
おなまえ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
_____早朝。
私は鼻歌を交えながら朝食を作っていた。昨日は起きるのが遅くて左馬刻様を見送れなかったし、お弁当も作らないとだしね。
家の者を見送り迎えるのが当たり前だった私は、他の家でもそうだと疑わなかったので眠たい体に鞭打って早起きをした。
機嫌よくお弁当箱に卵焼きやウインナー諸々を詰めていると、まだ眠そうな瞳を揺らした左馬刻様が無防備な姿でリビングに入ってくる。
「ああ、おはようございます!」
「……何してやがんだ」
「朝ご飯……とお弁当作りです」
まだぼんやりとしていて思考がはっきりしていない左馬刻様は新鮮で。その上恐らく朝だけだろうが低く掠れた声ははっきり言ってセクシーすぎる。一郎、こんな私が聞いてしまっていてごめんな。本当はセックスした後にベッドで一郎が聞く声なんだろうけど…てか、お腹!お腹出てる!肌白っ!てか腹筋エロいね……
少しめくれ上がったシャツからは惜しげも無く晒された左馬刻様のお肌。華奢に見える体はしっかり鍛え上げられており、きっと細マッチョなんだろうと妄想が膨れ上がる。気を緩めたら鼻血が出そうなので、ガン見してしまいたい欲望を抑えてキッチンに向き直る。
「別に朝なんてテキトーに済ませんだから、わざわざ早起きしてまで作る必要ねぇよ。まだ寝とけや」
「え…だって、や、やっぱり見送りたいから……〝行ってらっしゃい〟と〝おかえり〟はちゃんと言いたいんです。そのついでみたいなものですから、気にしないでください」
背中からかかる声はちょっぴり不機嫌そうで少しだけ怖いけど、私は特に気にしない振りをしてフライパンに肉とキャベツを炒める。油の蒸発する音にかき消されただろうか、私の言葉が聞こえたかは分からないけれど。
…だって、もう誰かを〝見送ること〟も〝迎えること〟も、誰かに〝見送られること〟も〝迎えられること〟も、出来ないと思っていたから。それが出来ることが、何より嬉しいんだ。
だから……私のただの我儘ってことで通してほしい。
「……チッ」
調子を狂わせられたように、舌打ちを一つ零しながら渋々席に着いた左馬刻様には気づかなかった。
*
「おい、んだよこれ」
「えと……お弁当です…?」
「それくらい分かってるわ。…俺が言いてぇのは何でその弁当を俺に差し出してんだよ」
左馬刻様がそろそろ仕事に行くとの事で、私はリビングを出ようとする彼を呼び止めお弁当箱を差し出す。すると左馬刻様は途端に怪訝な表情になって私を睨みつけた。
その目さ…好きよ!!!!モブレされても必死に堕ちないように反発する瞳だよね…興奮します。けど結局快楽に勝てずに最後「お●んぽダイスキィ♡♡♡」「俺のガバガバま●こにぶっとい注射さしてぇ♡♡♡」とか言うやつだよね???性癖ですね。
なんで悶える心は置いといて…私は目の前で威嚇の視線を向ける左馬刻様の意図が分からず首を傾げる。
「なんか…ダメでした…か?あの、味見もしたので不味くはないと思うんですけど…」
「そう言う問題じゃねぇんだよ。いいか?俺の仕事に弁当はいらねぇ」
「あっ……そ、そうだったんですね。私勝手に張り切っちゃって……すみません、」
高圧的な瞳で見下ろされ、私の体は途端に凍っていく。…そっか、お弁当いらないのか。普通そうだよね。私あの頃に戻れたみたいに調子乗っちゃった。ダメな癖だ…まだずっとあの頃を求めてるなんて。
出しゃばり過ぎた自分が恥ずかしくなって、滑稽に見えて、私は小さく肩を落としながら差し出していたお弁当を背中に隠す。あからさまに落ち込み過ぎただろうか…私ってめんどくさい女だ。
「……チッ。どうせ家に残しても食わねぇだろ。今日は持ってくから明日からは作んじゃねぇぞ」
「っ……、ごめんなさい。無理させてませんか…?」
「いいから寄越せ」
そんな私を見てか、左馬刻様は不機嫌そうに舌打ちを一つすると仕方なくと言ったように手を前に差し出す。きっと私が気を使わせてしまったのだと頭を下げながらなかなか背中の後ろに隠した物を渡せずにいると、痺れを切らした左馬刻様が私の手から無理やりお弁当を奪った。
…一瞬触れた手は、驚くほど冷たかった。
「別にお前のメシは嫌いじゃねぇ。それだけだ。……じゃあ行ってくる」
「あ、ありがとうございます…!お見送りします!」
そう言いながら背を向けてリビングを出て行く左馬刻様に感激しながら、私も主人についていく犬のように彼の後を追う。そして玄関で足を止めると、靴を履きかけた彼に向かって精一杯の笑顔を見せた。…あの頃みたいに。
〝行ってらっしゃい!お父さん、お母さん〟
〝行ってらっしゃい!…お姉ちゃん〟
「行ってらっしゃい!」
ちゃんと笑えていただろうか。あの記憶が少しだけフラッシュバックして体を強張らせてしまったが、きっと不自然では無いはずだ。
_____ドアを開けて一瞬振り返った左馬刻様は、少しだけ笑っていた気がした。