Relation
おなまえ
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先程とは打って変わった冷静な声で帝統は上着のポッケから小さなサイコロを取り出す。
「偶数が出ればコイツをここに置いてもらう。もし奇数なら…この話は無かった事にする」
「…………良いでしょう」
真剣な眼差しでサイコロを見つめ言い放つ帝統に、幻太郎は暫く黙り込んでいたが、彼が折れるはずもないだろうと遂に諦めた様子で息を吐きながらその条件を呑んだ。
またもや目の前で繰り広げられる二人のやり取りについて行けず、ただただ視線をキョロキョロと彷徨わせていると、不意に目の前にサイコロが差し出される。
ゆっくり顔を上げると、帝統がこちらを見つめていた。その眼差しに少しだけ心が騒めく。
「_____お前のこれからだ、お前が決めろ。…全てをこのサイコロに懸けろ」
「っ……」
確か帝統は何かを決める時必ずサイコロを振るっていう情報があったな、それは正解だったんだ。…まぁ、そうなんだけど。
私のためにここまでしてくれた帝統の気持ちをこれ以上無下に出来ないと私も腹を括り、コクリと小さく頷きながらそのサイコロを受け取る。小さなサイコロのはずなのに、沢山の決断を受けてきたからなのかやけに重く感じた。
目の前をちらりと盗み見れば幻太郎の変わらない冷たい視線。やっぱり怖いけれど、…でも。どうせ住む場所が無ければひと時を野宿で凌げてもいつか死んでもしまう。…それなら、
_____この、賽に賭けて。
生き抜くための決断をするしかない。
私はサイコロを強く握ると大きな深呼吸を一つした後、思い切り腕を振り上げそのサイコロから手を離した。
…偶数、偶数、偶数……!!!!
サイコロから手を離した後はひたすら願うしかなく、私は胸の前で手を組みひたすら偶数の目が出ることを祈る。転がるサイコロを見ていられなくて思わず目を閉じてしまう。
暫く転がる軽快な音が静寂の中で響いていたが、いつしかそれは止まり元の静けさが体全体を覆った。
止まった………、
私は痛いほどに脈打つ心臓を抑え、勇気を出して閉じていた瞼をゆっくりと浮上させる。
「っ……あ、」
_____上を向いていたのは、4。
「偶数……、」
「っ〜〜しゃあ!やったなぁ!和子!」
私が思わず言葉をポツリと零した瞬間静寂は崩れ、大袈裟に喜んだ帝統に頭をわしゃわしゃと撫でられる。
かく言う私は帝統に揉みくちゃにされながらも未だに信じられない気持ちでいっぱいで。
暫くぼんやりと4を指すサイコロを見つめていると、不意に目の前から大きなため息が聞こえてきた。
「………仕方ないですね。約束は約束です。暫く貴方をここで匿います。…しかし、一ヶ月だけですよ。一ヶ月経ったら出て行ってもらいますからね」
「分かった分かった!いや〜!やっぱお前持ってんな!」
「っ……、有栖川さん、ありがとう…!」
心底面倒臭そうな表情でそう言い放つ幻太郎に半ば適当に返事した帝統は、未だに私の頭から手を離さない。しかしやっと状況を理解した私はまず帝統に向かって笑顔を向けてお礼の言葉を述べる。すると帝統はますます笑みを深めると「これで飯代はチャラで頼むわ!」とおどけて見せる。しかしそんなレベルの話ではない。
「…逆に借りが出来ましたよ…」
「あ、じゃあまた飯奢ってくれよ!」
「も、もちろん…!」
幾らでも奢るよ、そんなの。でもまずバイトしなきゃ駄目だけど…
私は帝統に何度も頭を下げた後、呆れた様子で私達を見ていた幻太郎に向き直り、再度深々と頭を下げる。
「…え、と、お世話になります。げ………えと、名前……」
「…夢野幻太郎です。言っておきますが小生は別に貴方の事を認めた訳ではありません。約束通り一ヶ月後には出て行ってもらいますからその事をお忘れなきよう」
「は、はい…!ゆ、夢野…さん」
やはり私を見る視線は氷のように冷たいが仕方ない。ここに置いてもらえるだけで奇跡だし感謝しないといけない。名前も言いそうになったが、危ない危ない。あくまで知らない体で行かないとね。厳しい口調を漏らした後視線を逸らしてしまう幻太郎に向かって、私は彼の言い放った言葉に素直に頷きながら小さめの声で彼の名を呼んだ。
…何だか、凄いことになってしまったようです。
またもや目の前で言い争いを始めた二人を見つめながら、私は思わず口の端から苦笑いが溢れた。
(これは花子に報告しなきゃ…絶対びっくりするよ…!)