Beginning
おなまえ
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「うめぇー!やっぱギャンブルした後の飯ってのは格別だな!」
向かい側に座るコスプレイヤーさんは適当に選んだファミレスの席に座るなり、信じられないほど大量の料理を注文した。料理が来るなり、オモチャを貰った子供かの如く目を輝かせながら次々に頬張って行く姿は最早小学生児。しかし食べる量は尋常じゃないので大人。…何だろう、このこどものようなおとなを見ている感覚は。
そんな事をしているうちにもコスプレイヤーさんは次々に料理をペロリと平らげていく。ステーキ、ハンバーグ、と重たい肉系が続いたのにも関わらず、今度はドリアという米物に手をつけるものだから見ていて胸焼けが止まらない。
てかマジでめちゃ食うなこの人。余裕で大食い選手権優勝出来るじゃん。
「何ぼーっとしてんだよ!お前も食えって!超うめぇからよ」
「あ、は、はい…」
いや、私のお金だから。何奢ってますオーラ出してんだ貴方は。
まぁ、見ず知らずの他人に面と向かってそんな事は流石に言わないけど…
私は内心大きなため息を吐くと、コスプレイヤーさんの美味しそうにご飯を食べる姿に触発されお腹も空いたので、注文したパスタに手をつける事にした。
頼んだメニューは、カルボナーラ。パスタの中でも一番好きな料理だ。
そういえば、花子のお姉ちゃんによく作ってもらってたっけ。
カルボナーラを見つめるとぼんやりの脳内に浮かぶ幸せな記憶。花子とそのお姉ちゃんと、私。世間から切り離された私を見つけてくれたのは、助けてくれたのは、愛してくれたのはいつでもあの二人だった。
お姉ちゃん……大丈夫なのかな。
花子のお姉ちゃんは結構寂しがりやで頑張り屋さんだから…花子が居なくなってきっと悲しんでる。早く、一緒に帰らなくちゃ。そう……待ってる、はずだから。
そう強く決意してカルボナーラを口に運ぶと、何故か美味しくなかった。
…きっと、お姉ちゃんと比べてるからだ。
*
「はぁ〜、食った食った!マジで生き返ったわ。サンキュな!この恩はぜってぇ返すからよ」
「いえいえ…お気になさらず…」
結局全メニュー制覇しやがった。人間じゃねぇ…この人。
絶句しながら積まれたお皿を見つめている私とは裏腹に、コスプレイヤーさんはお腹をさすりながらも満足そうに歯を見せて笑っている。
その笑顔に不覚にもキュンと胸が高鳴る。まるでペットのようだ。
いや、可愛いけど!可愛いけども!私の出費がでかすぎる…!
幸いにも何故か私の制服のポケットには2万5千円が忍ばせてあり、ここは何とかなりそうだけどこれからどうしていけばいいのか…ホテルとか絶対取れないじゃん。終わった。
なかなか怖くて見られない伝票に意を決して手を伸ばそうか伸ばさまいかを悩みながら内心落ち込んでいると、ふと目の前のコスプレイヤーさんが思い出しかのように目を瞬かせた。
「そういやお前の名前聞いてなかったよな?なんつーんだ?」
「え…?あ、佐藤和子、です。」
「…和子…か、オレは有栖川帝統。よろしくな!」
「えと、よろしくお願いします…?」
何故当たり前の事を言うのだろう、と少しだけ疑問が湧いたがいきなりの名前呼びの方に衝撃が走ったのでその論点はすぐに掠れてしまう。いや、帝統。そーゆーとこだぞ!そーゆーとこアンタの番幻太郎は凄いやきもきしてんだよ???もっと安心させてあげな?私夢女兼任してるからそんないきなり名前で呼ばれたらすぐ恋するから。単純女だから。
コンマ数秒の間に途切れることのない高速妄想。我ながらキレッキレ。
そんな事を考えながらも苦い笑いを零しつつ軽く頭を下げれば、またコスプレイヤーさんは無邪気に人懐っこい笑顔を見せた。
うーん…そゆとこだぞ…可愛いぞ、だいす。
まぁとにかく自己紹介もしたし、ご飯も食べ終わったので今度は私の話したい事でも話させてもらおうかな。
①まず、ここがどこなのか。
②貴方はヒプマイの民なのか。
③もしかして腐っているのかそれとも夢女か。
うーん、どれから聞くべきか…まぁ無難に②だよな。これで民じゃなかったら普通に泣くんだけど。まずそんな事はないだろうしね。
ともかく折角この場所の人と接触できた為このチャンスを逃すわけにはいかない。私は緊張で高鳴る胸を押さえながら勇気を出して口を開いた。
「あ、あの、貴方も、ヒプマイのファンなんですか…?」
「……………は?」
しかし、返ってきた返答は至ってシンプルで、けれども私の心を折るのには十分すぎるものだった。