Beginning
おなまえ
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「あ…?誰だお前」
ゆっくりと開けられた緑と紫の綺麗なグラデーションを重ねた瞳はまるで本物かと思わせるほどリアルで。思わずカラーコンタクトだという事を忘れて見入ってしまう。それに寝ていたからかいつもより少し前髪が乱れてM字型になっており、普段は隠れている左目が顔を覗かせている……うん、シコいな。
なんて思いながら数秒間、見惚れるようにその顔に釘付けになっていると、その顔が怪しげに歪むと共に不機嫌そうな声が私の鼓膜を揺らした。
少しガサついた無邪気な声……そうそう、こんな声。てか、声まで似てるなんて本当クオリティ高いな。最高かよ。
「おい、聞いてんのかよ」
「はっ、はい!何でしょう!?」
ドラマCD等で何度も聞いた帝統の声を思い出しながら余韻に浸っていると、目の前のコスプレイヤーさんの眉が更に顰められ、若干責めるような声を出されるものだから、私は反射的に体をビクつかせながら敬語で返答する。
すると帝統コスプレイヤーさんは間延びした声を上げながらゆっくりと体を起こし、私と向き合う形を取った。自然と近くなる距離。
うっわ…まつ毛なが、……二重幅ひろ…眉毛も怖いくらい整ってるし…何このリアル感。
どんなにクオリティ高いコスプレイヤーさんでも、やはり本物のキャラクターとは結構かけ離れる。そりゃそうだ、二次元キャラを再現するのだから。
…それでも十分カッコいいのだけれども。
しかし目の前のコスプレイヤーさんにはそれが感じられないほど、まるで本人かのように顔のパーツどこにも不自然が感じられない。
全てフィットしているというか…口では表現しづらいのだが、最早全てが帝統そのものだというべきか。髪の毛も取ってつけたようなカツラとは違い、ちゃんと根っこから生えているような…そんなわけないんだけどさ。
なんて余裕綽々にコスプレイヤーさんの分析を真面目な顔で行なっていた次の瞬間_____この静寂な空間をかき消すような腹の虫が大きな音で鳴り響く。
恐らく、目の前のコスプレイヤーさんのものだろう。あまりにも大きな音だったので驚いた私が目を何度か瞬かせながらその人を見つめると、コスプレイヤーさんは途端にうな垂れるように力無く後ろにあったゴミ箱へとまた体を預けてしまった。
「ああ"〜……腹減った…、もう動けねぇ……」
「……へ?」
「誰か飯でも恵んでくんねぇーかなー」
「………」
そう言いながらもこちらをチラチラと見てくるコスプレイヤーさんの表情はまるで捨てられた子犬のようでつい拾ってしまいたくなる。帝統!そーゆーとこだぞ!愛らしいぞ!
てか…なんか、性格そのものまで再現するなんて凄いな…プロ意識高いんだな。この人。
コスプレイヤーさんとバッチリ目が合うと、もう逸らせなくなる。縋るような、懇願するような…とにかくNOとはとても言えない瞳でこちらを凝視してくるので、とうとう私は耐え切れず白旗を上げてしまった。
まぁ、この茶番も楽しそうだしいっか。冗談かもだし…仮に冗談じゃなくてもしそこまで再現してたとしてもそれはそれで素敵だし…、もしかしたらヒプマイの話とかできるかも!
「え、と…良かったら、なんかご飯奢りましょうか?」
「え!?マジか!お前いい奴だなー!じゃあ早速行こうぜ!」
おずおずと言葉を紡ぎながら窺うような視線を向けると、コスプレイヤーさんは途端に元気を取り戻し大声で喜びながら勢いよく立ち上がる。
いや、アンタ普通に動けるじゃんか。
さっきの態度は何処へやら…なんて思ったのも一瞬。いつのまにか路地裏を抜けた先にいたコスプレイヤーさんに「ほら!早く行くぞー!」と声をかけられたので、慌てて私も立ち上がり後を追った。