Beginning
おなまえ
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「ん〜………、あれ、寝てた………?」
パチリ。瞼を浮上させると目の前には一面に広がる水色の壁紙…?いや、これは空の色だ。
この時期に雲ひとつない快晴を見るのは久々で、少しの間ぼんやりと瞬きもせず空を眺めているとふと我に帰る。
え?待ってこれはまずどういう状況?
あれ、なんで私は外で寝てたの?
我に帰った瞬間様々な疑問点が脳内に浮かび、慌てて仰向けに倒れていた自身の体を起こす。周りをキョロキョロと見回すと、先程目にした真っ青な快晴には似ても似つかない薄暗い路地裏。しかも全くの見慣れない場所で、途端に私の思考は混乱に陥った。
待って、ここどこ…?なんでこんな所に…?
ていうか、私今まで何してたんだっけ?
ぐるぐるとパニックを起こす脳内を必死に落ち着かせようとすればするほど更に気持ちは混乱と不安に飲み込まれていく。
しかしこんな所で慌てていても仕方がない。私は頭を抱えながらも大きく深呼吸をし、ゆっくりと昨日の記憶の断片を繋げ合わせようと試みた。…のだが。
え?昨日…花子と一緒に話しながら帰って……そこからの記憶が全くない……
何度も何度も記憶を引きづり出そうと唸り声を上げても、頭を大きく揺さぶっても、昨日の最後の記憶から何も思い出せないのだ。初めはゆっくり思い出せばいいと考えていたもののいつまで経っても記憶が思い出せない事に段々と焦りや不安を覚え、またもやパニックを引き起こしそうになる。
なんで…なんで、記憶がないの…?そもそも、ここってどこなの……!?
辺りをもう一度見回してみても目に映るのは日が当たらず薄暗くなった狭い道。電柱。カラスが蔓延るゴミ箱…どれも見て気持ちいいものではなく更にそれが私の恐怖心を煽った。
しかも日が当たらないせいでこの場所は寒い。ふるり、と体が震えるのは寒さのせいか、それともこの状況に対する不安か恐怖かは分からない。けれど何故か無性に泣きたくなり、自然と瞼が引きつっていくのが分かった。必死に堪えようと唇を強く噛み締めると、そこから切れたのか口内にじわりと鉄の味が広がりまた涙が溢れそうになる。
なんで………なんでこんな事に……怖いよ……
不意に頭によぎるのは記憶の最後に浮かぶ花子の笑った顔。ああ、あの子に会いたい。きっと花子ならすぐ泣いてしまう弱い私の頭を困り顔をしながら笑って撫でてくれる。あの手の温もりが、どうしても今欲しかった。
……、花子……会いたい……
瞳に辛うじて止まっていた大粒の雫が頬を伝い流れようとした時_____、カシャン。と私の着ていた制服から音を立てて何かが落ちた。
ゆっくりと音のした方へ視線を向けると、そこにあったのは携帯。その瞬間、私の心に一筋の光が射した気がした。
…これがあれば、花子に連絡できる…!
驚きと喜びにすっかり涙も引っ込み、私は慌ててその携帯を拾い上げ電話帳を開く。
その中にある〝花子〟の名前を素早く見つけると、躊躇することなく発信ボタンをタップした。
…お願い、出て…!
プルルルル、プルルルル………
繋げているのであろう無機質な音が数コール続いた後、突然その機械音が途切れる。
あ、と声を上げそうになるより早く大好きなの声が耳に響いた。
「和子…!良かった、気付いてくれたんだね!」
その瞬間_____昨日ぶりの筈なのに久々に聞く感覚の花子の肉声に引っ込んだはずの涙が溢れそうになる。それと同時に安心、不安がごちゃ混ぜになった感情が抑え切れずそれが言葉となって喉から漏れ出した。
「ねぇ!花子今どこ…!?私、変な所に来ちゃった…!」
「…え?」
明るい声で電話に出た花子とは裏腹に、私の声色は切羽詰まったようなもので。
最早泣いていなくても泣いているだろうと判断される程どうしようもなく震えていた。そんな私の声を聞いた花子が一瞬喉を詰まらせて押し黙るのが分かったが、今の私はそんな事も御構い無しでただただ自身の心境をぶつける事しか出来なかった。
「…っ、花子、どうしよう。帰り道、分からないよ、ここ、どこかも分からない……!」
「っ、……落ち着いて、和子」
きっと私があまりにも混乱していると感じたのか、切羽詰まった私に宥める様な花子の優しい声が聞こえてくる。そして未だ息を漏らしながら震える私の状況を把握しようとゆったりとした穏やかな口調で質問を投げかけてきた。
「和子は今、全く見覚えのない所にいるの?」
「うん…、昨日から記憶がなくて、どうしてこんな所に居るのかも、分からなくて……、怖いよ…」
その彼女の声に混乱していた心が少しだけ冷静さを取り戻してくれる。やっぱり、花子の声は凄いや。
というか花子は今どこにいるのだろう…私と帰った後の記憶とかあるのかな…?
なんて考えていると途端に花子の声が全く聞こえなくなり、また不安な気持ちに駆られてしまう。しかもそれが結構長く続いたのでもしかしたら切れてしまったのかと嫌な想像が頭に浮かんだ。「…花子……?」と恐る恐る聞いてみると、花子は電話の向こうで我に帰った様に小さく息を漏らすと「ごめんね。ちょっと考え事してた」と返事が返ってきたのでとりあえず安堵する。
すると次の瞬間、花子は思いもよらない言葉を私に告げた。